218 / 285
・屋敷編
Mon-4
しおりを挟む
「そういえば、何か話しようとしていたところだったよね?」
芹那がにこやかに言った。うっと、青年は肩をすくめた。
「いや、なんでもない」
「え~? 本当に」
ああ、と青年はうなづいてみせる。だが、彼は複雑な気持ちだった。
✿
ここで飼われている男たちにはふたつの役割がある。
ひとつめは、主に宴での贄――ショーとして客の前にひきずりだされて痴態をさらす、見てもらうための生贄。
もうひとつは、実際に客に抱かれて対価を得るというもの。
ショーに引き出されるのは、主に下級のものたちで、彼らが客を取れるようになると、だんだんと見せるための仕事を減らしてもらえるようになる。
いま現在最下位の位置にいる青年は、ショーに出されるだけしか経験していない。たまに抱きたいという客があらわれるが、あしらって逃げている。
「二倍って、言ってたよな……」
ぼんやりとあの男の言っていたことばを思い出して青年はつぶやいた。
むしゃくしゃする胸をそのままに、彼は屋敷の裏にいた。洗濯場と称させたその空間は中庭のようにそこだけ屋根がない。
青空の見える空間めいっぱいに、張られた物干し竿にぱたぱたと揺れる干された布。空が見たくて、本当は使用人以外立ち入り禁止のこのエリアに、彼はこっそりと侵入していた。
それにしても――。
あれだけの喧嘩がおこるほど、客引きは熾烈なのだと、彼は改めて思い、気が重くなる。
この屋敷で上にいくつもりなら、いやがおうでも、客をつかまえて寝るしかない。羽振りのいい客をめぐって、花売り同士での熾烈な争いがあるというのは、なんとなくわかっていたが、それを彼は目の当たりにして、余計に窮屈な思いになる。
「おい、そこは立ち入り禁止だぜ」
気配がなかった。
だから、背後から声をかけられた途端、青年は驚いて悲鳴をあげた。
芹那がにこやかに言った。うっと、青年は肩をすくめた。
「いや、なんでもない」
「え~? 本当に」
ああ、と青年はうなづいてみせる。だが、彼は複雑な気持ちだった。
✿
ここで飼われている男たちにはふたつの役割がある。
ひとつめは、主に宴での贄――ショーとして客の前にひきずりだされて痴態をさらす、見てもらうための生贄。
もうひとつは、実際に客に抱かれて対価を得るというもの。
ショーに引き出されるのは、主に下級のものたちで、彼らが客を取れるようになると、だんだんと見せるための仕事を減らしてもらえるようになる。
いま現在最下位の位置にいる青年は、ショーに出されるだけしか経験していない。たまに抱きたいという客があらわれるが、あしらって逃げている。
「二倍って、言ってたよな……」
ぼんやりとあの男の言っていたことばを思い出して青年はつぶやいた。
むしゃくしゃする胸をそのままに、彼は屋敷の裏にいた。洗濯場と称させたその空間は中庭のようにそこだけ屋根がない。
青空の見える空間めいっぱいに、張られた物干し竿にぱたぱたと揺れる干された布。空が見たくて、本当は使用人以外立ち入り禁止のこのエリアに、彼はこっそりと侵入していた。
それにしても――。
あれだけの喧嘩がおこるほど、客引きは熾烈なのだと、彼は改めて思い、気が重くなる。
この屋敷で上にいくつもりなら、いやがおうでも、客をつかまえて寝るしかない。羽振りのいい客をめぐって、花売り同士での熾烈な争いがあるというのは、なんとなくわかっていたが、それを彼は目の当たりにして、余計に窮屈な思いになる。
「おい、そこは立ち入り禁止だぜ」
気配がなかった。
だから、背後から声をかけられた途端、青年は驚いて悲鳴をあげた。
22
お気に入りに追加
667
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる