オカルト研究部員の非日常な日常

秋月一花

文字の大きさ
53 / 70
3章:探求

夢と現実

しおりを挟む
 ◆◆◆

 ――ぴちょん、ぴちょん。

 粘り気のある水滴が、落ちる音が辺りに響く。

 架瑠かけるは視線を下げる。やはり、あの夢かと自身の髪をかき上げた。

 だが、いつもとは様子が違う。足元の血の海がゆらりと波打ち、朧気おぼろげになにかを映し出す。

 顔は見えない。だが、自分のことを心配しているのはわかる。

『かける』
『にげて』

 短い言葉が聞こえた瞬間――……ガシッと誰かの手が架瑠の足首を掴んだ。

 ぎりぎりと足首に食い込んでいく爪の感触。痛みを感じて眉間に皺を刻むと、ぎょろりと血走った眼と視線が合う。

『ミィツケタ』

 弓なりに細められる眼と、おどろおどろしい声に、架瑠は「ひっ……!」と短い悲鳴を上げた。

『コンドコソ……』

 背後から、首を絞められる感覚があり、どんどんと意識が薄れていく。鉄の匂いが鼻腔をくすぐり、あのどす黒い血でできた人間の手だと確信する。

 だが、夢の中にまで入ってくるなんて――……と考えていると、なにかが割れるような音がした。

 パリン、と軽い音が辺りに響く。

 誰かが、架瑠の夢の中に干渉したようだ。

『ジャマヲスルナジャマヲスルナジャマヲスルナ』

 声は段々と荒くなっていく。バラバラになっていく人間の手に、呼吸が楽になった。

 びしゃん、と足元の血の海に倒れ込み、ぬちゃりとした血の感触が全身に伝わる。

 そっと、血の海の中から手が伸び、架瑠の頬を愛しそうに撫でた。

 大きく目を見開くのと同時に、誰かが架瑠の耳元でささやく。

「――ほら、お目覚めの時間だよ、架瑠くん」

 トン、と背中を押されて、いきなり意識が浮上した。

 目を開けるとすでに日が昇っていて、架瑠は慌てて起き出し、ズキンと頭が痛んで「っぅ……」と呻く。

「……朝……」

 架瑠の気分とは正反対に、カーテンからは陽光が降り注いでいた。ぐっと自身の前髪を掴み、ふるふると頭を振ってからゆっくりと深呼吸を繰り返した。

 ズキッと別の場所が痛んで、おそるおそる毛布を取ってみると……夢の中で掴まれた足首に、しっかりと人間の手の痕がついていたことに気付き、ハッとしたようにベッドから抜け出す。

 鏡で首元を確認すると、足首同様、人間の手の痕がついていた。

「……どういうことだ……?」

 呆然としたつぶやきは、部屋の中に小さく響く。

「るーくーん、そろそろ起きて用意しないと、遅刻しちゃうよー?」

 伊吹いぶきが部屋の扉をノックしながら声をかける。架瑠は慌てて「起きてます!」と返事をしたが、その声が上擦っていた。

 そのことに、伊吹は「ん?」と首を傾げる。

 普段の架瑠とは違う反応に、伊吹はピンと閃いた。

「るーくん、開けて?」
「えっと、すぐに用意するから……」
「いいから、開けて? れんちゃーん! ちょっとるーくんの様子がへーん!」
「い、伊吹さん!?」

 伊吹が蓮也れんやを大声で呼んだことで、バタバタと音を立てて扉を開けるのと同時に、彼女が扉の隙間に足を入れる。

 架瑠の首元と足首に残った手の痕を見て、伊吹はすぅっと目を細めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...