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これが、わたくしの決断。 2話(完)
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「……どうして馬車が三台もあるの?」
「一台は荷物用ですよ。いろいろ運び出しました!」
クロエがぱぁっと明るい笑顔で一台の馬車を指す。そして、二台目の馬車を指した。
「二台目の馬車は私とブレンさまが乗ります。そして、あの乗り心地が良さそうな馬車は、カミラさまとレグルスさまのために、エセル王妃が用意してくださいました!」
「エセル王妃が?」
目を丸くして、三台目の馬車を見る。豪華な馬車で、本当にこれに乗ってリンブルグまで行っていいのかと一瞬考える。
「はい。王妃は今回のことを、とても重く受け止めているようです。レグルスさま、伝言がございます」
「伝言?」
「『カミラのことをお願いします』と」
「……直接言ってくれたらよかったのに」
両肩を上げるレグルスさまの表情は、優しかった。レグルスさまもレグルスさまで、いろいろと大変だったみたい。ようやく落ち着いたので、荷物をまとめてリンブルグに帰ることを決めたと聞いた。
エセル王妃は、レグルスさまとブレンさまにも『リンブルグの方々に無礼なことをしてしまい、申し訳ない』と謝罪したそうだ。グラエル陛下に何度もレグルスさまたちのことを話したけれど、まったく改善されることはなかった、と。
グラエル陛下のしたことに対し、エセル王妃はアフターケアに追われていたようね……
いつか、きちんと自分のことを見てくれると信じていた、と眉を下げてぽつりとつぶやいたこともあった。エセル王妃とは、マティス殿下の婚約者として親睦を深めていたから、お茶会に呼ばれることもあったのよ。
「まぁ、でも、今回のことでこの国も変わるかもしれないな」
「良い方向に変わることを、願いますわ」
「さて、準備もできましたし、早速リンブルグにいきましょうー。のんびりと、ね」
ブレンさまがわたくしたちに声をかけた。こくりとうなずいて、それぞれの馬車に乗る。
馬車に乗ってから、学園を振り返る。――この国で暮らしていたときのことを思い出し、ふっと小さく笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「……最後に、わたくし自身が決断できて良かった、と心の底から思いましたの」
「そうだね。ここから先はきみの物語だ」
「あら、わたくしだけはありませんわ。レグルスさまとわたくしの物語が、始まるのです」
わたくしの言葉に、レグルスさまが目を大きく見開いて、それから「そうだな」と柔らかい口調で言葉をこぼし、そっと手を取る。
「レグルスさま?」
「カミラ嬢の新しい人生に、祝福を」
手の甲に唇を落とすのを見て、顔に熱が集まった。貴族の挨拶として慣れているはずなのに……
好きな人にされると、こんなにも胸がときめくものなのね。
「レグルスさま。わたくし、あなたのことが――」
ふに、とレグルスさまの人差し指が、わたくしの唇に触れて言葉を止めた。
「それはまだ、言わないで。きちんとしたところで、俺から言いたいから」
パチンとウインクをされて、わたくしはくすくすと笑ってしまった。心の底から笑顔を浮かべられたのは、レグルスさまたちのおかげね。
そっと彼の手を取って、きゅっと握った。
きっとこれから、たくさんの大変なことが待っているでしょうけれど――……
公爵令嬢カミラ・リンディ・ベネットとではなく、ただの『カミラ』として、わたくしはわたくしの決断をしていくの。
ブレンさま、クロエ、そしてレグルスさまと一緒に考えて――その決断を、後悔しないように過ごしたい。
「リンブルグがどんなところなのか、楽しみですわ」
「真っ直ぐ向かうんじゃなくて、いろんなところに寄っていこう。自分の目で見て、手に取って感じることって大事だからね」
レグルスさまの言葉が胸の中に沁み込んでいく。わたくしのことを考えて、言ってくれているのがわかるから。
「そうですわね。いろんなことを、感じたいです」
みんなと一緒に。今までできなかったことを、していきたいと明るい声色で話すと、レグルスさまは相槌を打ちながらわたくしの話を聞いてくれた。
こんなふうに、目を見て話してくれる人が隣にいてくれるって、とても幸せなことよね。
――レグルスさま。わたくし、あなたに出逢えて良かった。
そう伝えられるのは、きっと、すぐ。
レグルスさまの瞳に確かな愛情を感じて、わたくしはこれからのことをたくさん話した。
「一台は荷物用ですよ。いろいろ運び出しました!」
クロエがぱぁっと明るい笑顔で一台の馬車を指す。そして、二台目の馬車を指した。
「二台目の馬車は私とブレンさまが乗ります。そして、あの乗り心地が良さそうな馬車は、カミラさまとレグルスさまのために、エセル王妃が用意してくださいました!」
「エセル王妃が?」
目を丸くして、三台目の馬車を見る。豪華な馬車で、本当にこれに乗ってリンブルグまで行っていいのかと一瞬考える。
「はい。王妃は今回のことを、とても重く受け止めているようです。レグルスさま、伝言がございます」
「伝言?」
「『カミラのことをお願いします』と」
「……直接言ってくれたらよかったのに」
両肩を上げるレグルスさまの表情は、優しかった。レグルスさまもレグルスさまで、いろいろと大変だったみたい。ようやく落ち着いたので、荷物をまとめてリンブルグに帰ることを決めたと聞いた。
エセル王妃は、レグルスさまとブレンさまにも『リンブルグの方々に無礼なことをしてしまい、申し訳ない』と謝罪したそうだ。グラエル陛下に何度もレグルスさまたちのことを話したけれど、まったく改善されることはなかった、と。
グラエル陛下のしたことに対し、エセル王妃はアフターケアに追われていたようね……
いつか、きちんと自分のことを見てくれると信じていた、と眉を下げてぽつりとつぶやいたこともあった。エセル王妃とは、マティス殿下の婚約者として親睦を深めていたから、お茶会に呼ばれることもあったのよ。
「まぁ、でも、今回のことでこの国も変わるかもしれないな」
「良い方向に変わることを、願いますわ」
「さて、準備もできましたし、早速リンブルグにいきましょうー。のんびりと、ね」
ブレンさまがわたくしたちに声をかけた。こくりとうなずいて、それぞれの馬車に乗る。
馬車に乗ってから、学園を振り返る。――この国で暮らしていたときのことを思い出し、ふっと小さく笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「……最後に、わたくし自身が決断できて良かった、と心の底から思いましたの」
「そうだね。ここから先はきみの物語だ」
「あら、わたくしだけはありませんわ。レグルスさまとわたくしの物語が、始まるのです」
わたくしの言葉に、レグルスさまが目を大きく見開いて、それから「そうだな」と柔らかい口調で言葉をこぼし、そっと手を取る。
「レグルスさま?」
「カミラ嬢の新しい人生に、祝福を」
手の甲に唇を落とすのを見て、顔に熱が集まった。貴族の挨拶として慣れているはずなのに……
好きな人にされると、こんなにも胸がときめくものなのね。
「レグルスさま。わたくし、あなたのことが――」
ふに、とレグルスさまの人差し指が、わたくしの唇に触れて言葉を止めた。
「それはまだ、言わないで。きちんとしたところで、俺から言いたいから」
パチンとウインクをされて、わたくしはくすくすと笑ってしまった。心の底から笑顔を浮かべられたのは、レグルスさまたちのおかげね。
そっと彼の手を取って、きゅっと握った。
きっとこれから、たくさんの大変なことが待っているでしょうけれど――……
公爵令嬢カミラ・リンディ・ベネットとではなく、ただの『カミラ』として、わたくしはわたくしの決断をしていくの。
ブレンさま、クロエ、そしてレグルスさまと一緒に考えて――その決断を、後悔しないように過ごしたい。
「リンブルグがどんなところなのか、楽しみですわ」
「真っ直ぐ向かうんじゃなくて、いろんなところに寄っていこう。自分の目で見て、手に取って感じることって大事だからね」
レグルスさまの言葉が胸の中に沁み込んでいく。わたくしのことを考えて、言ってくれているのがわかるから。
「そうですわね。いろんなことを、感じたいです」
みんなと一緒に。今までできなかったことを、していきたいと明るい声色で話すと、レグルスさまは相槌を打ちながらわたくしの話を聞いてくれた。
こんなふうに、目を見て話してくれる人が隣にいてくれるって、とても幸せなことよね。
――レグルスさま。わたくし、あなたに出逢えて良かった。
そう伝えられるのは、きっと、すぐ。
レグルスさまの瞳に確かな愛情を感じて、わたくしはこれからのことをたくさん話した。
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