111 / 116
番外編
海辺の街で。 1話
しおりを挟む
馬車の旅はゆっくりと続いた。
レグルスさまは、わざとゆっくりリンブルグに向かっているのだと思う。
わたくしがあまりにも住んでいた国の人々と話す機会がなかったから、かしら? 今までずっと、自分のことに精一杯で……世界がこんなにきらめいて見えることはなかった。
宿屋に泊まったとき、そのことをクロエに話したら一瞬キョトンとした顔を浮かべて、彼女は優しく微笑んでわたくしの肩に手を添えて言葉を紡ぐ。
「それは、カミラさまがレグルスさまと一緒に過ごしているからではありませんか?」
「え?」
「恋をすると、世界がきらめいて見えるらしいですよ。それに、カミラさま、以前にもまして綺麗になりましたし……」
「ええっ?」
ぺたぺたと自分の顔を触ってみる。鏡は毎日見ているけれど……
「……告白はしましたか?」
ふるりと首を横に振る。学園から旅立った日に、レグルスさまから伝えられたことは、クロエに話していない。
「ずっと一緒の馬車なのに?」
「……普通にお話はするわよ?」
レグルスさまはこの国のことについて詳しかった。わたくしよりも詳しいのではないかしら? と思えるくらいに、各町のことを話していたもの。
どこから得たのかと尋ねたら、この国からの移住してきた人たちに聞いた、と教えてもらった。とはいえ、自分の目で見ると印象が違う、とも。
「そういえば、カミラさまはあまり外に出たことが……?」
「こんなふうにゆっくり見て回ることはなかったわね。レグルスさまのお話を聞いて、実際自分の目で見て、改めていろんな人が住んでいるのね、と感心したわ」
たとえば、いつも笑顔で接客してくれる宿屋の人。
たとえば、いつも声を張り上げてお土産を売っている人。
たとえば、町の広場でプロポーズをする人。
――本当に、いろいろな人たちを見た。
一人一人、自分とは違う人生を歩んでいる人たち。
今までずっと、鳥かごの中で暮らしていたのだと、改めて思い知った。
「貴族だけが生きているわけでは、ないのよね……」
「はい。貴族よりも平民たちのほうが多いですからね」
「そうね」
畑を耕す人、山に薬草を採りにいく人、川辺で魚を獲る人……こういう人たちに支えられて生きているのよね。
「わたくし、上辺だけしか知らなかったのね……」
「貴族の大半はそうだと思いますよ。カミラさまはまだ未成年ですし、知る余裕もなかったでしょう?」
「それを言われると、確かにそうなのだけど……知ろうとも知らなかったのよね、わたくし」
「なら、これから知っていけばいいと思います。そのために、レグルスさまはゆっくりと国を回っていると思いますよ」
家族に愛されるために勉強や教養をがんばっていたわたくしは、頭がそのことでいっぱいだったの。だから、平民たちの暮らしをこうしてしっかりと見て回ることで、新鮮な気持ちになったわ。
学園を出てから、ずっと新鮮な気持ちが続いている。
レグルスさまとブレンさまが、いろいろ教えてくださるから。
「私もこんなにゆっくりするのは初めてなので、楽しいです」
ふふっと笑うクロエに、「そうね」と言葉を返した。
レグルスさまは、わざとゆっくりリンブルグに向かっているのだと思う。
わたくしがあまりにも住んでいた国の人々と話す機会がなかったから、かしら? 今までずっと、自分のことに精一杯で……世界がこんなにきらめいて見えることはなかった。
宿屋に泊まったとき、そのことをクロエに話したら一瞬キョトンとした顔を浮かべて、彼女は優しく微笑んでわたくしの肩に手を添えて言葉を紡ぐ。
「それは、カミラさまがレグルスさまと一緒に過ごしているからではありませんか?」
「え?」
「恋をすると、世界がきらめいて見えるらしいですよ。それに、カミラさま、以前にもまして綺麗になりましたし……」
「ええっ?」
ぺたぺたと自分の顔を触ってみる。鏡は毎日見ているけれど……
「……告白はしましたか?」
ふるりと首を横に振る。学園から旅立った日に、レグルスさまから伝えられたことは、クロエに話していない。
「ずっと一緒の馬車なのに?」
「……普通にお話はするわよ?」
レグルスさまはこの国のことについて詳しかった。わたくしよりも詳しいのではないかしら? と思えるくらいに、各町のことを話していたもの。
どこから得たのかと尋ねたら、この国からの移住してきた人たちに聞いた、と教えてもらった。とはいえ、自分の目で見ると印象が違う、とも。
「そういえば、カミラさまはあまり外に出たことが……?」
「こんなふうにゆっくり見て回ることはなかったわね。レグルスさまのお話を聞いて、実際自分の目で見て、改めていろんな人が住んでいるのね、と感心したわ」
たとえば、いつも笑顔で接客してくれる宿屋の人。
たとえば、いつも声を張り上げてお土産を売っている人。
たとえば、町の広場でプロポーズをする人。
――本当に、いろいろな人たちを見た。
一人一人、自分とは違う人生を歩んでいる人たち。
今までずっと、鳥かごの中で暮らしていたのだと、改めて思い知った。
「貴族だけが生きているわけでは、ないのよね……」
「はい。貴族よりも平民たちのほうが多いですからね」
「そうね」
畑を耕す人、山に薬草を採りにいく人、川辺で魚を獲る人……こういう人たちに支えられて生きているのよね。
「わたくし、上辺だけしか知らなかったのね……」
「貴族の大半はそうだと思いますよ。カミラさまはまだ未成年ですし、知る余裕もなかったでしょう?」
「それを言われると、確かにそうなのだけど……知ろうとも知らなかったのよね、わたくし」
「なら、これから知っていけばいいと思います。そのために、レグルスさまはゆっくりと国を回っていると思いますよ」
家族に愛されるために勉強や教養をがんばっていたわたくしは、頭がそのことでいっぱいだったの。だから、平民たちの暮らしをこうしてしっかりと見て回ることで、新鮮な気持ちになったわ。
学園を出てから、ずっと新鮮な気持ちが続いている。
レグルスさまとブレンさまが、いろいろ教えてくださるから。
「私もこんなにゆっくりするのは初めてなので、楽しいです」
ふふっと笑うクロエに、「そうね」と言葉を返した。
78
お気に入りに追加
419
あなたにおすすめの小説
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ
との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。
「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。
政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。
ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。
地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。
全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。
祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結迄予約投稿済。
R15は念の為・・

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

政略結婚の指南書
編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】
貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。
母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。
愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。
屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。
惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。
戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい……
※R15は保険です
※別サイトにも掲載しています

【完結】フェリシアの誤算
伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。
正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

【完結】仕事を放棄した結果、私は幸せになれました。
キーノ
恋愛
わたくしは乙女ゲームの悪役令嬢みたいですわ。悪役令嬢に転生したと言った方がラノベあるある的に良いでしょうか。
ですが、ゲーム内でヒロイン達が語られる用な悪事を働いたことなどありません。王子に嫉妬? そのような無駄な事に時間をかまけている時間はわたくしにはありませんでしたのに。
だってわたくし、週4回は王太子妃教育に王妃教育、週3回で王妃様とのお茶会。お茶会や教育が終わったら王太子妃の公務、王子殿下がサボっているお陰で回ってくる公務に、王子の管轄する領の嘆願書の整頓やら収益やら税の計算やらで、わたくし、ちっとも自由時間がありませんでしたのよ。
こんなに忙しい私が、最後は冤罪にて処刑ですって? 学園にすら通えて無いのに、すべてのルートで私は処刑されてしまうと解った今、わたくしは全ての仕事を放棄して、冤罪で処刑されるその時まで、押しと穏やかに過ごしますわ。
※さくっと読める悪役令嬢モノです。
2月14~15日に全話、投稿完了。
感想、誤字、脱字など受け付けます。
沢山のエールにお気に入り登録、ありがとうございます。現在執筆中の新作の励みになります。初期作品のほうも見てもらえて感無量です!
恋愛23位にまで上げて頂き、感謝いたします。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる