【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

文字の大きさ
上 下
72 / 116

一時的なことだけど。 2話

しおりを挟む
「わたくしとの婚約を、白紙にしてください」
「――は?」

 マティス殿下は目を見開いた。わたくしは彼の前で従順なフリをしていたから、こんなことを口にするとは思わなかったのだろう。

 婚約者として、彼を立てることばかりをしていたから……

「どういうつもりだ?」
「マティス殿下は、マーセルを愛しているのでしょう?」
「まさか、お前……マーセルをいじめたのか!?」

 ……この人はどうして、そんなことに考えつくのかしらね。

 呆れたようにわたくしがため息を吐けば、「そうなんだな!?」となじられた。

「わたくしとマーセルは学科は別ですのに、どうしてわたくしが彼女をいじめられるとお思いで?」
「そんなの、お前が声をかけたら加担するものもいるだろう」
「わたくしに、そんな暇はありませんわ」

 普段のタイムスケジュールを口にした。それはもう、流暢に。

 段々と、マティス殿下の顔色が青くなっていく。わたくしのタイムスケジュールを知ろうともしなかった人だから、こんなにぎちぎちに組まれているとは考えもしなかったのでしょう。

 こんなに忙しい日々を過ごしていたわたくしが、マーセルをいじめられるわけない。

「……いくらなんでも、詰め込みすぎだろ!?」
「ベネット公爵方におっしゃってください。わたくしのタイムスケジュールを管理しているのは、彼らなので」

 我ながら、冷たい声が出た。

 そんなわたくしの様子を気遣うように、レグルスさまがこちらに視線を向ける。

「……マティス殿下。俺はあなたに一騎打ちを申し込む」
「はぁ!?」

 理解できないとばかりにマティス殿下が叫ぶ。

「ベネット公爵にも許可はいただいた。俺が勝ったら、カミラ嬢との婚約を白紙にしてもらう」
「なにを勝手なことを……!」
「……勝手なことをしているのは、マティス殿下のほうでしょう? わたくしという婚約者がいながら、マーセルと関係を持つなんて」

 肩をすくめてつぶやくと、マティス殿下はぎょっとしたように目を丸くする。どうしてそのことを知っているのだと顔に書いてあるわ。

 わたくしが呆れたように息を吐けば、ぐっと拳を握る。

「そ、そういうお前たちはどうなんだ!」
「俺は現在、カミラ嬢を口説き中。どう見てもマティス殿下とカミラ嬢のあいだに、愛は見えないしね」
「……それはまぁ、認めるが。政略結婚なんてそんなもんだろう」

 否定はしない。政略結婚で結婚をしてから愛を育む。

 それが貴族にとっては普通だもの。

「俺の国は恋愛結婚が主だよ。マティス殿下はカミラ嬢を愛していない。マーセル嬢を愛しているのだろう? なら、この婚約を白紙にするのは、あなたにとってもプラスなのでは?」

 レグルスさまがにやりと口角を上げた。

 そして、マティス殿下は黙り込んでしまった。

 マティス殿下はなにを考えているのかしら……? 少し考えたあと、マティス殿下はわたくしたちを見て、眉間に皺を刻む。

「そもそも、カミラはどうなんだ? 彼に口説かれていることは、リンブルグ王国を背負うことになるんだぞ」
「……わたくしは、それも悪くないと思っておりますわ。彼は、わたくしを必要としてくれた、唯一の人ですから」

 わたくしがそう言い切ると、その言葉が意外だったのかマティス殿下は言葉をんだ。

 そして、すっと目元を細めて「……ふぅん」と面白くなさそうにつぶやく。

 愛していないわたくしを、なぜ離そうとしないの?

 ……そこで、一つの仮説を思い付いた。

 マティス殿下はただ、愛でるためだけのマーセルを望んでいるのかもしれない、と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

政略結婚の指南書

編端みどり
恋愛
【完結しました。ありがとうございました】 貴族なのだから、政略結婚は当たり前。両親のように愛がなくても仕方ないと諦めて結婚式に臨んだマリア。母が持たせてくれたのは、政略結婚の指南書。夫に愛されなかった母は、指南書を頼りに自分の役目を果たし、マリア達を立派に育ててくれた。 母の背中を見て育ったマリアは、愛されなくても自分の役目を果たそうと覚悟を決めて嫁いだ。お相手は、女嫌いで有名な辺境伯。 愛されなくても良いと思っていたのに、マリアは結婚式で初めて会った夫に一目惚れしてしまう。 屈強な見た目で女性に怖がられる辺境伯も、小動物のようなマリアに一目惚れ。 惹かれ合うふたりを引き裂くように、結婚式直後に辺境伯は出陣する事になってしまう。 戻ってきた辺境伯は、上手く妻と距離を縮められない。みかねた使用人達の手配で、ふたりは視察という名のデートに赴く事に。そこで、事件に巻き込まれてしまい…… ※R15は保険です ※別サイトにも掲載しています

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

《完結》恋に落ちる瞬間〜私が婚約を解消するまで〜

本見りん
恋愛
───恋に落ちる瞬間を、見てしまった。 アルペンハイム公爵令嬢ツツェーリアは、目の前で婚約者であるアルベルト王子が恋に落ちた事に気付いてしまった。 ツツェーリアがそれに気付いたのは、彼女自身も人に言えない恋をしていたから─── 「殿下。婚約解消いたしましょう!」 アルベルトにそう告げ動き出した2人だったが、王太子とその婚約者という立場ではそれは容易な事ではなくて……。 『平凡令嬢の婚活事情』の、公爵令嬢ツツェーリアのお話です。 途中、前作ヒロインのミランダも登場します。 『完結保証』『ハッピーエンド』です!

処理中です...