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一時的なことだけど。 1話
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「花祭りで、花姫として陛下と踊ったあとに、ちょっとだけ胸に痛みが走りました。緊張していたからかもしれませんけど……」
やっぱり今回の件、陛下が関わっているのかしら。
だとしたら、どうして……?
わたしが黙り込んで考えていると、ブレンさまがじーっとマーセルとわたくしを交互に見る。
そして、「ちょっと試したいことがあるのですが……」とにっこり微笑んだ。
「試したいこと?」
「一時的に、カミラさまとマーセル嬢をもとに戻せるかもしれません」
「えっ!?」
「魂に絡んでいる糸が見えます。それを戻せば、たぶん……。ただ、本当に一時的です。試してみますか?」
わたくしとマーセルは顔を見合わせて、それからブレンさまへ視線を移し、こくりとうなずく。
クロエは心配そうな表情でわたくしたちを見ている。
それでも、止めることはしなかった。
ブレンさまがわたくしたちに近付いて、「目を閉じてください」と柔らかい声色で伝える。そっと目を閉じて、彼がなにかをするのを待つ。
「クロエさん、ちょっと魔力を借りても良いですか?」
「え? あ、はい。もちろん」
魔力を借りる? ブレンさまは人の魔力を借りることができるの?
そんなことができるなんて、あまり聞いたことがない。
わたくしとマーセルはただじっと待っていた。
そっと手に温かさを感じた。それが身体中に巡り、ぽかぽかと温かくなる。
パチン、となにかが弾けたような感覚に襲われた。
なにかにぐいっと引っ張られるような感覚もある。
「はい、目を開けてください。……戻っていますか?」
ゆっくりと目を開けると、首をかしげて問うブレンさまが視界に入る。隣を見ると――正真正銘の、マーセルがいた。
わたくしたちは互いを見つめ合って、息を呑む。
「ブレンさまは素晴らしい魔術師なのですね……」
「いやいや、僕の家族ならたぶん、一発で戻すことができますよ。それよりも、カミラさま。少しよろしいですか? その姿で、一度レグルスさまにお会いしてほしいのですが……」
「……! あ、そ、そうね。いつ戻るかわからないもの……今、行ってくるわ」
「それには及びません。レグルスさまを呼びますので」
ブレンさまは人懐っこくにこっと笑うと、パチンと指を鳴らした。
そして、それから五分もしないうちに部屋の扉がノックされた。クロエが「はい!」と慌てて扉に駆け寄り、客人を招き入れる。
そこにいたのは、やはりレグルスさまだった。
「どういう状況?」
「……ブレンさまに一時的ですが、戻していただきました」
わたくしの言葉に、レグルスさまは一瞬目を瞬かせて、ブレンさまに視線を移動する。彼が小さくうなずくのを見てから、すっと手を差し出す。
「――行こう」
「どちらへ?」
「マティス殿下のとこ。いろいろお願いをしに、ね」
わたくしはレグルスさまを見つめて、こくりとうなずいてその手を取った。
「こちらこのことは、お任せください」
「ええ、クロエ。二人をお願いね」
そうクロエと言葉を交わしてから、わたくしたちは彼女の部屋をあとにする。
クロエが嬉しそうに笑って頭を下げたのが見えた。
急ぎ足で、マティス殿下のところへ向かう。校舎に入る前に手を離し、学園内に残っている学生たちにマティス殿下がどこにいるかを尋ね、屋上にいると教えてもらった。屋上まで行き、重い扉を開くと――学生たちが言うように、彼の姿が視界に入る。
「ごきげんよう、マティス殿下」
わたくしたちに気付くと、眉根を寄せるマティス殿下。
「……なんの用だ、カミラ」
「あなたに、お願いがありますの」
自分の身体に戻ったことで、なんだかとっても気が晴れる思いだった。
そして、マティス殿下のことを改めて自分の目で見て――なにも、感じなかった。心の奥で、なにかを感じるかもしれないと思っていたけれど……
全然、なにも、感じない。
……むしろ、興味すら感じないことに驚いた。
やっぱり今回の件、陛下が関わっているのかしら。
だとしたら、どうして……?
わたしが黙り込んで考えていると、ブレンさまがじーっとマーセルとわたくしを交互に見る。
そして、「ちょっと試したいことがあるのですが……」とにっこり微笑んだ。
「試したいこと?」
「一時的に、カミラさまとマーセル嬢をもとに戻せるかもしれません」
「えっ!?」
「魂に絡んでいる糸が見えます。それを戻せば、たぶん……。ただ、本当に一時的です。試してみますか?」
わたくしとマーセルは顔を見合わせて、それからブレンさまへ視線を移し、こくりとうなずく。
クロエは心配そうな表情でわたくしたちを見ている。
それでも、止めることはしなかった。
ブレンさまがわたくしたちに近付いて、「目を閉じてください」と柔らかい声色で伝える。そっと目を閉じて、彼がなにかをするのを待つ。
「クロエさん、ちょっと魔力を借りても良いですか?」
「え? あ、はい。もちろん」
魔力を借りる? ブレンさまは人の魔力を借りることができるの?
そんなことができるなんて、あまり聞いたことがない。
わたくしとマーセルはただじっと待っていた。
そっと手に温かさを感じた。それが身体中に巡り、ぽかぽかと温かくなる。
パチン、となにかが弾けたような感覚に襲われた。
なにかにぐいっと引っ張られるような感覚もある。
「はい、目を開けてください。……戻っていますか?」
ゆっくりと目を開けると、首をかしげて問うブレンさまが視界に入る。隣を見ると――正真正銘の、マーセルがいた。
わたくしたちは互いを見つめ合って、息を呑む。
「ブレンさまは素晴らしい魔術師なのですね……」
「いやいや、僕の家族ならたぶん、一発で戻すことができますよ。それよりも、カミラさま。少しよろしいですか? その姿で、一度レグルスさまにお会いしてほしいのですが……」
「……! あ、そ、そうね。いつ戻るかわからないもの……今、行ってくるわ」
「それには及びません。レグルスさまを呼びますので」
ブレンさまは人懐っこくにこっと笑うと、パチンと指を鳴らした。
そして、それから五分もしないうちに部屋の扉がノックされた。クロエが「はい!」と慌てて扉に駆け寄り、客人を招き入れる。
そこにいたのは、やはりレグルスさまだった。
「どういう状況?」
「……ブレンさまに一時的ですが、戻していただきました」
わたくしの言葉に、レグルスさまは一瞬目を瞬かせて、ブレンさまに視線を移動する。彼が小さくうなずくのを見てから、すっと手を差し出す。
「――行こう」
「どちらへ?」
「マティス殿下のとこ。いろいろお願いをしに、ね」
わたくしはレグルスさまを見つめて、こくりとうなずいてその手を取った。
「こちらこのことは、お任せください」
「ええ、クロエ。二人をお願いね」
そうクロエと言葉を交わしてから、わたくしたちは彼女の部屋をあとにする。
クロエが嬉しそうに笑って頭を下げたのが見えた。
急ぎ足で、マティス殿下のところへ向かう。校舎に入る前に手を離し、学園内に残っている学生たちにマティス殿下がどこにいるかを尋ね、屋上にいると教えてもらった。屋上まで行き、重い扉を開くと――学生たちが言うように、彼の姿が視界に入る。
「ごきげんよう、マティス殿下」
わたくしたちに気付くと、眉根を寄せるマティス殿下。
「……なんの用だ、カミラ」
「あなたに、お願いがありますの」
自分の身体に戻ったことで、なんだかとっても気が晴れる思いだった。
そして、マティス殿下のことを改めて自分の目で見て――なにも、感じなかった。心の奥で、なにかを感じるかもしれないと思っていたけれど……
全然、なにも、感じない。
……むしろ、興味すら感じないことに驚いた。
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