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早速ノートを使いましょう。 2話
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マーセルは、マティス殿下と付き合う前からいじめられていたと言っていた。彼女の他にも男爵家の人はいる。それなのになぜ、マーセルだけが狙われたのか……
まさか近くにいたからとか、顔が気に入らないとか、そんなしょうもない理由ではないでしょうね?
思い返せば、マーセルに意地悪をしようと人も、嫌味を言ってきた人たち、すべて令嬢だった。
召使学科は伯爵令嬢までしか入れない。つまり、否応なしにトップは伯爵家の人。
令息たちはマーセルに興味を示しているようには見えなかったから、伯爵家の令嬢となにかがあった、と考えるのが自然かしら。
メイドも執事も待遇が良い公爵家か侯爵家、もしくは王城の職に就きたいって人がこの学科に集まるわけで……いろいろややこしいわね。頭が痛くなりそう。
今日は夕食を食べる気分にならないから、ちょっと掃除をしてから早めに休んじゃいましょう。休息も大事、よね。
わたくしは部屋の掃除を初めて――気付けば部屋がピカピカになるまでやってしまった。一度始めると気が済むまでやりたくなるのよ。
床が光っているように見えるし、窓もピカピカ。心地良い空間って最高だわ。それに――……なんといっても、レグルスさまからいただいた花がある。ふんわりと柔らかい、花の香りに心が癒されるきがした。
個人的に花をもらうのも、初めてだったかも。
ぼんやりと考えていると、扉がノックされた。
「はい?」
こんな時間に誰が? と思ったら、現れたのはクロエだった。彼女の手にはなにかが握られている。
「行きましょう、か……マーセルさま! 許可をもぎ取ってきました!」
「え? クロエ!?」
「ほら、早く!」
許可って? と尋ねる前に、クロエはわたくしを部屋の外に出して、ぱたんと扉を閉めて鍵をかけた。
そして、わたくしの手を握るとパタパタと寮の裏門に向かって走り出す。
いったいなんの許可をもぎ取ってきたのかしら、と考えて――あ、と思った。
『ホテルはもう取ってあるんだ』
レグルスさまの言葉を思い出す。寮に戻ったときにデートは終わりという感じだったから、冗談だったのかしらと思っていたのだけど……そうではなかったようね。
ただ、あのとき外泊許可をもらっていなかったから、クロエが取りに行ってくれたということなのかしら?
それでも、まだ彼らと……レグルスさまと一緒にいられると思うと、なんだか胸がドキドキとしてきて、不思議な感覚だった。
裏門まで行くと、レグルスさまとブレンさまが馬車の前に立っていた。
そしてレグルスは開口一番、「ごめん、浮かれていて許可取るのを忘れていた」と謝った。浮かれていて? と首をかしげると、ブレンさまがくすくすと笑い越えを上げる。
「レグルスさまね、カミ……マーセル嬢とデートって張り切って用意したのに、肝心の外泊許可を取ってなかったので、慌てて寮に戻ってきたんですよー」
もしかして、あのとき相当焦っていたのかしら? 表に出さないだけで。
そして、わたくしとのデートを、そんなに張り切ってくれるなんて……。人に大切にされた覚えがないから、なんだかすごく胸がいっぱいだわ……
まさか近くにいたからとか、顔が気に入らないとか、そんなしょうもない理由ではないでしょうね?
思い返せば、マーセルに意地悪をしようと人も、嫌味を言ってきた人たち、すべて令嬢だった。
召使学科は伯爵令嬢までしか入れない。つまり、否応なしにトップは伯爵家の人。
令息たちはマーセルに興味を示しているようには見えなかったから、伯爵家の令嬢となにかがあった、と考えるのが自然かしら。
メイドも執事も待遇が良い公爵家か侯爵家、もしくは王城の職に就きたいって人がこの学科に集まるわけで……いろいろややこしいわね。頭が痛くなりそう。
今日は夕食を食べる気分にならないから、ちょっと掃除をしてから早めに休んじゃいましょう。休息も大事、よね。
わたくしは部屋の掃除を初めて――気付けば部屋がピカピカになるまでやってしまった。一度始めると気が済むまでやりたくなるのよ。
床が光っているように見えるし、窓もピカピカ。心地良い空間って最高だわ。それに――……なんといっても、レグルスさまからいただいた花がある。ふんわりと柔らかい、花の香りに心が癒されるきがした。
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「はい?」
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「行きましょう、か……マーセルさま! 許可をもぎ取ってきました!」
「え? クロエ!?」
「ほら、早く!」
許可って? と尋ねる前に、クロエはわたくしを部屋の外に出して、ぱたんと扉を閉めて鍵をかけた。
そして、わたくしの手を握るとパタパタと寮の裏門に向かって走り出す。
いったいなんの許可をもぎ取ってきたのかしら、と考えて――あ、と思った。
『ホテルはもう取ってあるんだ』
レグルスさまの言葉を思い出す。寮に戻ったときにデートは終わりという感じだったから、冗談だったのかしらと思っていたのだけど……そうではなかったようね。
ただ、あのとき外泊許可をもらっていなかったから、クロエが取りに行ってくれたということなのかしら?
それでも、まだ彼らと……レグルスさまと一緒にいられると思うと、なんだか胸がドキドキとしてきて、不思議な感覚だった。
裏門まで行くと、レグルスさまとブレンさまが馬車の前に立っていた。
そしてレグルスは開口一番、「ごめん、浮かれていて許可取るのを忘れていた」と謝った。浮かれていて? と首をかしげると、ブレンさまがくすくすと笑い越えを上げる。
「レグルスさまね、カミ……マーセル嬢とデートって張り切って用意したのに、肝心の外泊許可を取ってなかったので、慌てて寮に戻ってきたんですよー」
もしかして、あのとき相当焦っていたのかしら? 表に出さないだけで。
そして、わたくしとのデートを、そんなに張り切ってくれるなんて……。人に大切にされた覚えがないから、なんだかすごく胸がいっぱいだわ……
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