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ホテルのディナー。 1話
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馬車に乗りこんで、ホテルまで向かう。ホテルの名前を聞いて驚いた。
王室御用達のホテルだったから。よくそんなホテルの予約が取れたな、と感心しながらレグルスさまとブレンさまを見る。すると、レグルスさまはわたくしの疑問に気付いたのか、「留学生の特権」と微笑む。
学園では冷遇されているようだけど、こういう場面では優遇されている……?
いえ、違うわね。きっと、彼なりにわたくしを心配させまいとしてくれているのだろう。
……それに、学園内で話しているだけでも、一気に噂が広がるだろうから、わざわざこうして人数を増やしてくれていると思う。
気遣われているわね、わたくし。
「夕食は食べましたか?」
「いいえ、まだですわ」
「それなら良かった。ディナーもそのホテルに用意されていますから」
あのホテルのディナーかぁ。一度だけ行ったことがある。
そのときはマティス殿下と一緒で、わたくしたちの両親も一緒だった。何歳くらいだったかしら。確か、五歳くらいだったかな。
「別のホテルのほうが良かったですか?」
「あ、いえ……少し、思い出しただけです。あの頃は、よくわかっていなかったなぁって」
あのときの記憶は正直、あまりない。
ただ、わたくしとマティス殿下は黙々とディナーを食べて、大人たちがワイワイと盛り上がっていた。
きっと、マティス殿下はあの頃からわたくしのことを良く思っていなかった……と、そんな気がしてきたわ。
大人が勝手に決めた婚約者だったもの。
貴族というのは、それだけで生き方が制限されるのかもしれないわね……
「……それは、あまり良くない思い出?」
「良くない……うーん、わたくしが覚えているのは……」
どんなふうに説明すれば良いのかしら。
とりあえず、わたくしが子どもの頃にそのホテルで、マティス殿下と両親たちと食事をしたことを話した。
すると、彼らは神妙な表情になってしまい、眉を下げて微笑む。
やっぱり話すべきではなかったかしら……と考え込んでしまった。
「それじゃあ、今度は楽しい思い出にしよう。昔は楽しくなかったんだろ? 顔を見ればわかるよ」
思わず、頬に触れてしまう。クロエがふふっと笑い出すのを見て、ブレンさまは慈しむようなまなざしでこちらを見る。
「……そうですわね」
三人に見つめられて、こくりとうなずいた。
そうね、楽しくなかった思い出を、楽しい思い出に変えてしまえばいいのよね。
ホテルにつき、中に入るとすぐに個室に案内された。
わたくしたちが一緒にいるのを見られないように? または、気兼ねなく会話できるように?
そういう心配りも、とても嬉しく感じる。
コース料理をすでに予約していたようで、スムーズに料理が運ばれてきた。
「どの料理も美味しいですね」
「さすが王室御用達……?」
「うーん、僕には量が物足りないです……」
しょんぼりと肩を下げるブレンさまに、わたくしたちはくすくすと笑う。
確かにたくさん召し上がるブレンさまには、物足りないかもしれない量だったのかもしれない。
……でも、パンケーキを食べたあとにガトーショコラやパフェも食べたのに、まだ入ることに驚きを隠せないわ……
王室御用達のホテルだったから。よくそんなホテルの予約が取れたな、と感心しながらレグルスさまとブレンさまを見る。すると、レグルスさまはわたくしの疑問に気付いたのか、「留学生の特権」と微笑む。
学園では冷遇されているようだけど、こういう場面では優遇されている……?
いえ、違うわね。きっと、彼なりにわたくしを心配させまいとしてくれているのだろう。
……それに、学園内で話しているだけでも、一気に噂が広がるだろうから、わざわざこうして人数を増やしてくれていると思う。
気遣われているわね、わたくし。
「夕食は食べましたか?」
「いいえ、まだですわ」
「それなら良かった。ディナーもそのホテルに用意されていますから」
あのホテルのディナーかぁ。一度だけ行ったことがある。
そのときはマティス殿下と一緒で、わたくしたちの両親も一緒だった。何歳くらいだったかしら。確か、五歳くらいだったかな。
「別のホテルのほうが良かったですか?」
「あ、いえ……少し、思い出しただけです。あの頃は、よくわかっていなかったなぁって」
あのときの記憶は正直、あまりない。
ただ、わたくしとマティス殿下は黙々とディナーを食べて、大人たちがワイワイと盛り上がっていた。
きっと、マティス殿下はあの頃からわたくしのことを良く思っていなかった……と、そんな気がしてきたわ。
大人が勝手に決めた婚約者だったもの。
貴族というのは、それだけで生き方が制限されるのかもしれないわね……
「……それは、あまり良くない思い出?」
「良くない……うーん、わたくしが覚えているのは……」
どんなふうに説明すれば良いのかしら。
とりあえず、わたくしが子どもの頃にそのホテルで、マティス殿下と両親たちと食事をしたことを話した。
すると、彼らは神妙な表情になってしまい、眉を下げて微笑む。
やっぱり話すべきではなかったかしら……と考え込んでしまった。
「それじゃあ、今度は楽しい思い出にしよう。昔は楽しくなかったんだろ? 顔を見ればわかるよ」
思わず、頬に触れてしまう。クロエがふふっと笑い出すのを見て、ブレンさまは慈しむようなまなざしでこちらを見る。
「……そうですわね」
三人に見つめられて、こくりとうなずいた。
そうね、楽しくなかった思い出を、楽しい思い出に変えてしまえばいいのよね。
ホテルにつき、中に入るとすぐに個室に案内された。
わたくしたちが一緒にいるのを見られないように? または、気兼ねなく会話できるように?
そういう心配りも、とても嬉しく感じる。
コース料理をすでに予約していたようで、スムーズに料理が運ばれてきた。
「どの料理も美味しいですね」
「さすが王室御用達……?」
「うーん、僕には量が物足りないです……」
しょんぼりと肩を下げるブレンさまに、わたくしたちはくすくすと笑う。
確かにたくさん召し上がるブレンさまには、物足りないかもしれない量だったのかもしれない。
……でも、パンケーキを食べたあとにガトーショコラやパフェも食べたのに、まだ入ることに驚きを隠せないわ……
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