【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

文字の大きさ
上 下
24 / 116

知りたくなかった真実。 2話

しおりを挟む
 そんなわたくしを、レグルスさまがそっと抱きしめる。そして、慰めるようにぽんぽんと優しく背中を叩く。

 マティス殿下と同じ動きなのに、どうして、こんなにも――……温かさを感じるのだろう。

「俺が認める。俺が、きみのことを愛する。――それでは、足りない?」

 そっと身体を離して、レグルスさまはわたくしを見た。じっと見つめられて、歪んだ視界がさらに歪む。

 手を伸ばしてわたくしの目元の涙をぬぐい、そっと頬に触れた。

「俺がきみに惹かれたのは、公爵令嬢だからではない。真っ直ぐに背筋を伸ばして、己の道を切り開こうとする姿に惹かれたんだ。だからどうか――俺がきみを愛することを、許してほしい」
「――……わたくし、地に落ちますのよ?」
「……きみは、どうなりたい?」

 わたくしが、どうなりたいか? ……わたくしの、本当の願い。ぎゅっと胸元で拳を握りしめて願うのは――……

「愛されたい……!」

 ずっと、ずっと……家族からの愛も、婚約者からの愛も感じたことがなかった。

 ただの便利な道具のようなもので、いてもいなくても、誰も困らない存在。それがわたくしだった。ポロポロと涙を流しながら、そう懇願こんがんする。

「ずっと、ずっと……誰かに愛されたかったの……ッ」
「約束する。俺がきみのことをずっと愛するって。ずっとそばにいるから……いつか、俺のことも愛して?」

 物心ついたときから、家族はわたくしに冷たかった。一人だけ、公爵家の顔じゃないと言われ続けてきた。髪色も、面立ちも、瞳の色も……どこを見ても、公爵家の人間ではない、と。

 両親に会うことも、兄に会うことも少なかった。兄は、わたくしのことを汚らわしいものを見るような目で、いつも睨んでいた。優しくしてくれたのは、侍女だけ。

 家族ではないから、そういう扱いを受けていたの?

 もしも、もしも本来のマーセルとして、男爵家で育っていたら、わたくしは家族に愛されていたの?

「……わたくしを、望んでくださるの?」
「そう言っているだろう? カミラ嬢なら大歓迎だ。それに、リンブルグは良い国だよ。暖かいし、食べ物は美味しいし、俺の両親はきっときみのことを気に入って可愛がると思う。妃になるということは、俺と一緒に国を背負ってもらうことになるけどね」

 もう一度ハンカチでわたくしの目元を拭い、レグルスさまは立ち上がった。

 すっとわたくしに手を差し伸べるのを見て、震える手で彼の手を取り、立ち上がる。

「取り乱してしまい、申し訳ありません」
「いいや。可愛い姿が見られたよ。次に泣くときは、カミラ嬢の姿で……うれし涙なことを願おう」
「ふふ、なんですか、それは」

 明るい口調のレグルスさまに、わたくしの心が楽になったような気がする。手を離して、彼に頭を下げてから顔を上げて微笑む。

「わたくしを望んでくださってありがとうございます。『カミラ』に戻ったあと、あなたのもとへ参ります」

 わたくしの言葉に、レグルスさまは嬉しそうに破顔した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

婚約破棄が破滅への始まりだった~私の本当の幸せって何ですか?~

八重
恋愛
「婚約破棄を言い渡す」 クラリス・マリエット侯爵令嬢は、王太子であるディオン・フォルジュにそう言い渡される。 王太子の隣にはお姫様のようなふんわりと可愛らしい見た目の新しい婚約者の姿が。 正義感を振りかざす彼も、彼に隠れて私を嘲る彼女もまだ知らない。 その婚約破棄によって未来を滅ぼすことを……。 そして、その時に明かされる真実とは── 婚約破棄されたクラリスが幸せを掴むお話です。

【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~

瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】  ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。  爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。  伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。  まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。  婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。  ――「結婚をしない」という選択肢が。  格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。  努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。  他のサイトでも公開してます。全12話です。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語 母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・? ※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

処理中です...