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ダンスレッスン。 2話
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「――喜んで」
「マーセル!?」
踊りたいようにマティス殿下が『マーセル』の名を呼ぶ。わたくしはこっそりとマティス殿下につぶやいた。
「マティス殿下と踊りたい令嬢は、たくさんいらっしゃいますわ。わたくしだけがマティス殿下を独占するわけにはいかないのです。……どうか、彼女たちのお心をご理解ください」
と言ってみた。彼はじーんとしたようにわたくしを見て、残念そうに眉を下げて、「わかった」と首を縦に振る。
実際マティス殿下と踊りたい人は、たくさんいたみたいで……彼がフリーになったら一気に令嬢たちが彼のもとに集まっていった。
わたくしはレグルスさまの手を取ってワルツを踊る。彼はリードするのが得意みたいで、びっくりするくらい踊りやすかったわ。
「今日の放課後、迎えにいくよ」
「ええ、お待ちしております」
レグルスさまは踊りながらそう口にした。わたくしが微笑んで答えると、興味深そうにわたくしを見る。それにしても、本当に踊りやすいわ。
「レグルスさまはワルツが得意ですの?」
「公爵家の人間だからね、叩きこまれただけさ」
「あら? 王太子……ですわよね?」
公爵家の人間? と疑問を抱いて言葉をこぼすと彼は少し考えるように唇を閉じてから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「残念ながら陛下と王妃の間に子どもができなくてね。公爵家の人間の中から、俺が選ばれたの。で、陛下たちの養子に入るための条件が、この国で妃を見つけること」
……それは、また。どうしてこの国の人じゃないとダメなのかしら?
聞いてみたいけれど、他国の事情に足を踏み入れて荒らすのは、淑女のすることではないわよね。
「……大変ですのね」
「まぁね。でもまぁ、気になる人は見付けたし」
「まあ、それは良かったですわ」
踊りながら会話をしていると、あっという間にダンスレッスンの授業が終わった。
レグルスさまとわたくしは特に注意されることもなく、むしろ先生から褒められるほどのワルツを踊れたわ。
「お相手、ありがとうございました」
「こちらこそ。楽しい時間をありがとう」
にこりと微笑むレグルスさまに、わたくしも微笑みを浮かべ、カーテシーをしてから次の授業を受けるために移動する。
ちらりとマティス殿下に視線を向けると、彼はまだ令嬢たちに囲まれていた。第一王子である彼の寵愛を受けたいという学生はかなりいるから、みんな話したいみたい。次の授業に遅れないと良いのだけど。
助けを求めるようなマティス殿下の視線に気付いたけれど、小さく頭を下げてホールをあとにした。そのときの彼は「どうして置いていくんだ!?」と顔に書いてあった……気がするわ。
マティス殿下に構わずホールをあとにするわたくしを、みんなが意外そうな目で見ていたわ。
……マーセル、本当に貴女……いったいどれだけ、彼の傍にいたの……?
「マーセル!?」
踊りたいようにマティス殿下が『マーセル』の名を呼ぶ。わたくしはこっそりとマティス殿下につぶやいた。
「マティス殿下と踊りたい令嬢は、たくさんいらっしゃいますわ。わたくしだけがマティス殿下を独占するわけにはいかないのです。……どうか、彼女たちのお心をご理解ください」
と言ってみた。彼はじーんとしたようにわたくしを見て、残念そうに眉を下げて、「わかった」と首を縦に振る。
実際マティス殿下と踊りたい人は、たくさんいたみたいで……彼がフリーになったら一気に令嬢たちが彼のもとに集まっていった。
わたくしはレグルスさまの手を取ってワルツを踊る。彼はリードするのが得意みたいで、びっくりするくらい踊りやすかったわ。
「今日の放課後、迎えにいくよ」
「ええ、お待ちしております」
レグルスさまは踊りながらそう口にした。わたくしが微笑んで答えると、興味深そうにわたくしを見る。それにしても、本当に踊りやすいわ。
「レグルスさまはワルツが得意ですの?」
「公爵家の人間だからね、叩きこまれただけさ」
「あら? 王太子……ですわよね?」
公爵家の人間? と疑問を抱いて言葉をこぼすと彼は少し考えるように唇を閉じてから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「残念ながら陛下と王妃の間に子どもができなくてね。公爵家の人間の中から、俺が選ばれたの。で、陛下たちの養子に入るための条件が、この国で妃を見つけること」
……それは、また。どうしてこの国の人じゃないとダメなのかしら?
聞いてみたいけれど、他国の事情に足を踏み入れて荒らすのは、淑女のすることではないわよね。
「……大変ですのね」
「まぁね。でもまぁ、気になる人は見付けたし」
「まあ、それは良かったですわ」
踊りながら会話をしていると、あっという間にダンスレッスンの授業が終わった。
レグルスさまとわたくしは特に注意されることもなく、むしろ先生から褒められるほどのワルツを踊れたわ。
「お相手、ありがとうございました」
「こちらこそ。楽しい時間をありがとう」
にこりと微笑むレグルスさまに、わたくしも微笑みを浮かべ、カーテシーをしてから次の授業を受けるために移動する。
ちらりとマティス殿下に視線を向けると、彼はまだ令嬢たちに囲まれていた。第一王子である彼の寵愛を受けたいという学生はかなりいるから、みんな話したいみたい。次の授業に遅れないと良いのだけど。
助けを求めるようなマティス殿下の視線に気付いたけれど、小さく頭を下げてホールをあとにした。そのときの彼は「どうして置いていくんだ!?」と顔に書いてあった……気がするわ。
マティス殿下に構わずホールをあとにするわたくしを、みんなが意外そうな目で見ていたわ。
……マーセル、本当に貴女……いったいどれだけ、彼の傍にいたの……?
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