13 / 116
ダンスレッスン。 1話
しおりを挟む
わたくしが最後かしら? ホールに集まっている人たちを眺めていると、ぽんと肩に手を置かれた。振り返るとマティス殿下がいた。……まぁ、いるわよね、騎士学科だものね。
「身体の調子はどうだい、マーセル」
「そこそこですわ、マティス殿下」
あまり声をかけてほしくない。ほら、こっちを見ている人たちの多いこと多いこと! 不躾な視線を受けて居心地が悪い。……でも、こちらを見る人たちの気持ちもわかる。
わたくしだって、関係なければ見ていると思うわ。
とはいえ、先生がすぐに来たから、みんなの視線は先生に集中した。刺すような視線を感じるけれど、今は気にしない。
「それでは、本日のダンスレッスンは……」
先生がワルツに話して、騎士学科の人とワルツの練習をすることに。マティス殿下がわたくしに手を差し伸ばした。……ここで拒否するのはだめよね。足、踏んじゃおうかしら。
ああ、でもそうしたら彼のことだもの、「気にしなくて良いよ、マーセル。ステップの確認をしよう」なんてマーセルと踊り続けそうね。
「マーセル」
「はい、マティス殿下」
愛しそうに、マーセルの名を呼ぶマティス殿下。
わたくしの心はびっくりするほど動かなかった。
親同士で決めた、婚約者。ずっと彼に気に入られるようにならなきゃって思っていた。それも、間違いだったのかもしれないわね……。割り切った関係にしようとも思ったけれど、わたくしは愛したいし、愛されたい。
……それが叶わないことだと、知ってしまった。
マティス殿下がわたくしの手を取って、ぐっと引き寄せてホールドする。音楽に合わせて踊り出すと、不思議なことにいつものように踊れた。身体がついていかないんじゃないかって、少し不安だったのだけど……わたくしったら天才なのかしら? なんてね。
あまりにもスムーズに踊られるからか、彼は意外そうに目を丸くしたけれど、すぐに笑みを浮かべた。なにを考えているのかはわかる。『がんばったね』と顔に書いてあるから。
わたくしもにこりと微笑みを浮かべる。ダンスのときは笑顔が基本。パートナーに不愉快な思いをさせないためにもね。
あまりにも上手に踊れたからか、先生がわたくしたちに近付いて、パンパンっと手を二回叩いて動きを止めさせた。
「驚きました、今日は一度も殿下の足を踏んでいませんね」
マーセル……あなた、どれだけマティス殿下の足を踏んでいたの? ちょっと気になるじゃない。
「これなら、他の人と踊っても大丈夫そうですね。誰か、マーセルの相手をお願いします」
「え、ちょっと待ってください、先生……」
「先生、それなら俺が。マーセル嬢の相手をしますよ」
レグルスさまが立候補した。マティスは意外そうに目を丸くして彼を見た。レグルスさまはわたくしに向けてパチンとウインクをしてから、近付いた。そして、胸元に手を当てて、右手を差し出す。
「レディ、俺と踊っていただけますか?」
「身体の調子はどうだい、マーセル」
「そこそこですわ、マティス殿下」
あまり声をかけてほしくない。ほら、こっちを見ている人たちの多いこと多いこと! 不躾な視線を受けて居心地が悪い。……でも、こちらを見る人たちの気持ちもわかる。
わたくしだって、関係なければ見ていると思うわ。
とはいえ、先生がすぐに来たから、みんなの視線は先生に集中した。刺すような視線を感じるけれど、今は気にしない。
「それでは、本日のダンスレッスンは……」
先生がワルツに話して、騎士学科の人とワルツの練習をすることに。マティス殿下がわたくしに手を差し伸ばした。……ここで拒否するのはだめよね。足、踏んじゃおうかしら。
ああ、でもそうしたら彼のことだもの、「気にしなくて良いよ、マーセル。ステップの確認をしよう」なんてマーセルと踊り続けそうね。
「マーセル」
「はい、マティス殿下」
愛しそうに、マーセルの名を呼ぶマティス殿下。
わたくしの心はびっくりするほど動かなかった。
親同士で決めた、婚約者。ずっと彼に気に入られるようにならなきゃって思っていた。それも、間違いだったのかもしれないわね……。割り切った関係にしようとも思ったけれど、わたくしは愛したいし、愛されたい。
……それが叶わないことだと、知ってしまった。
マティス殿下がわたくしの手を取って、ぐっと引き寄せてホールドする。音楽に合わせて踊り出すと、不思議なことにいつものように踊れた。身体がついていかないんじゃないかって、少し不安だったのだけど……わたくしったら天才なのかしら? なんてね。
あまりにもスムーズに踊られるからか、彼は意外そうに目を丸くしたけれど、すぐに笑みを浮かべた。なにを考えているのかはわかる。『がんばったね』と顔に書いてあるから。
わたくしもにこりと微笑みを浮かべる。ダンスのときは笑顔が基本。パートナーに不愉快な思いをさせないためにもね。
あまりにも上手に踊れたからか、先生がわたくしたちに近付いて、パンパンっと手を二回叩いて動きを止めさせた。
「驚きました、今日は一度も殿下の足を踏んでいませんね」
マーセル……あなた、どれだけマティス殿下の足を踏んでいたの? ちょっと気になるじゃない。
「これなら、他の人と踊っても大丈夫そうですね。誰か、マーセルの相手をお願いします」
「え、ちょっと待ってください、先生……」
「先生、それなら俺が。マーセル嬢の相手をしますよ」
レグルスさまが立候補した。マティスは意外そうに目を丸くして彼を見た。レグルスさまはわたくしに向けてパチンとウインクをしてから、近付いた。そして、胸元に手を当てて、右手を差し出す。
「レディ、俺と踊っていただけますか?」
128
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。
当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。
しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。
最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。
それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。
婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。
だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。
これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
殿下へ。貴方が連れてきた相談女はどう考えても◯◯からの◯◯ですが、私は邪魔な悪女のようなので黙っておきますね
日々埋没。
恋愛
「ロゼッタが余に泣きながらすべてを告白したぞ、貴様に酷いイジメを受けていたとな! 聞くに耐えない悪行とはまさしくああいうことを言うのだろうな!」
公爵令嬢カムシールは隣国の男爵令嬢ロゼッタによる虚偽のイジメ被害証言のせいで、婚約者のルブランテ王太子から強い口調で婚約破棄を告げられる。
「どうぞご自由に。私なら殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」
しかし愛のない政略結婚だったためカムシールは二つ返事で了承し、晴れてルブランテをロゼッタに押し付けることに成功する。
「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って明らかに〇〇からの〇〇ですよ? まあ独り言ですが」
真実に気がついていながらもあえてカムシールが黙っていたことで、ルブランテはやがて愚かな男にふさわしい憐れな最期を迎えることになり……。
※こちらの作品は改稿作であり、元となった作品はアルファポリス様並びに他所のサイトにて別のペンネームで公開しています。
クズな夫家族と離れるためなら冷徹騎士でも構いません
コトミ
恋愛
伯爵か騎士団長かを悩んだ末に、伯爵家へ嫁いだソフィは、毎日が地獄だった。義父からセクハラを受け、義母からは罵詈雑言。夫からはほとんど相手にされない日々。それでも終わりはやってくる。義父が死に、義母が死に、夫が死に、最後にソフィが死ぬときがやってきた。その時、赤毛に似合わないサファイアのピアスをつけていた。久しぶりの感覚に目を開けてみると、ソフィは結婚相手を選ぶ少女時代へと戻っていた。家には借金があり、元夫か、冷徹と言われる騎士団長と結婚しなければ借金返済は難しい。
今度こそ間違えない。そう心に誓った。
「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。
海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。
アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。
しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。
「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」
聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。
※本編は全7話で完結します。
※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。
【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~
瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】
ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。
爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。
伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。
まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。
婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。
――「結婚をしない」という選択肢が。
格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。
努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。
他のサイトでも公開してます。全12話です。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる