【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜

秋月一花

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授業には問題なくついていけそう。 2話

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「あら、これは珍しいことがあること。あなたが図書室で勉強をしているなんて。殿下にびることはもうやめましたの?」

 とある女学生がわたくしに……というか、マーセルに声をかけてきた。顔を上げると、意地悪そうに目元を吊り上げて、口角を上げる。

「図書室で私語は厳禁ですわよ」

 彼女は確か伯爵家の令嬢。男爵家の令嬢であるマーセルよりも身分は上だから、無視をするわけにもいかないので、それだけ口にした。

 すると、そのことにイラついたのか、バンっと大きな音を立てて机を叩き「なんですの、その態度は!」と声を荒げる。

 図書室にいる人たちが、迷惑そうにわたくしたちを見る。これでは、静かに勉強ができないものね。

「おいおい、なんの騒ぎだ?」
「あ……いえ。ただこの者が生意気なことを言うので、正して差しあげようと」

 割って入ってきたのは、恐らく図書室の当番。どこかで見た覚えがあるのだけど……どこだったかしら。

 褐色の肌に薄い金髪……深海を思わせる青色の瞳。そういえば、騎士学科には留学生がいると話題になっていた。

「……ん? なんかずいぶん面白いことになってないか、きみ」
「あら、わかりまして?」

 すぅっと目元を細めてわたくしを見る彼は、面白いものを見つけたかのように微笑む。

「な、なんなんですの!」
「はーい、図書室は静かにお使いくださーい」

 彼はわたくしに絡んできた伯爵家の令嬢を、図書室から追い出す。

 わたくしは立ち上がり、「お騒がせしました、申し訳ありません」と謝った。その姿を見て、図書室にいた人たちは、興味を失ったかのように顔をそらす。……当然の反応よね。

 読んでいた本を本棚に戻して、図書室から出ていこうとすると、戻ってきた彼に呼び止められた。

「なあ、ちょっと話せないか?」
「あなたは当番でしょう?」
「じゃあ、明日にでも。俺は騎士学科のレグルス。きみは?」
「……マーセル」
「それじゃあ、マーセル。また明日」

 ぱちんとウインクをして、レグルスさまは手を振った。

 レグルス……どこかで聞いた名前だわ。どこだったかしら。

 図書室をあとにして、自室に戻り制服を脱いでハンガーにかける。部屋着に着替えてベッドに座り、彼のことを思い出そうと目を閉じて腕を組む。

 レグルス、レグルス、レグルス……。……あ。

 この国からかなり南の国、リンブルグの王太子。『カミラ』も一度だけ会ったことがある。そう、確か数年前に……ふふ、懐かしいわね。

 思わず笑みを浮かべると、なんだか一気に疲れたわ。

 マーセルがここまで嫌われているとは思わなかった。学科が違うと会うこともないし、こんなふうにトレードされない限り、知ることはなかったと思う。

 ……彼女、今日、学園に登校できたのかしらね?
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