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第18話 愛輝大ピンチ! 急げ源外 彼女は君を待っている

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 怪獣映画の逃げ惑う市民を想起させる人並みがプツリと途絶えた。
 まさか彼らが本物の怪物に追われているとも知らずに、とりあえず騒ぎが収束したと判断した愛輝。
 生徒会室に戻ろうとして突然、背後に、--ド~ン! という爆発音を聴いた。
 爆風が彼女の背中を直撃して、サラサラの長い髪をかき乱す。
 何事か、と振り向いたその先に、

「あなた、桜井さん!」
 
 愛輝の瞳が驚愕で見開かれた。
 校舎の壁をぶち破って粉塵の中から姿を現した、桜井咲子の成れの果て……。

 人造人間八戒ダー!
 
 何が彼女を暴走ヒートさせたのか原因は不明だが、悪魔回路は外してあるので、桜井の脳髄が八戒ダーの人工知能を制御できる可能性がある。
 彼女を正気に戻せるかもしれない。

「桜井さん、わかる? わたくしよ、愛輝よ!」

 ドドドドドッ!
 
 抜き放たれた回転式拳銃シルバーホークが連続して火を吹いた。
 彼女の返事がこれだった。
 八戒ダーの人工知能が桜井の脳髄を完全に支配しているのだ。

 でも彼女を見捨てるわけにはいかない!
 
 愛輝は、--愛輝ジャーーーーーンプ!(仮称)と叫んで華麗に空中へ舞い上がると、美しい弧を描いてことごとく銃弾を回避した。そして八戒ダーが銃弾を再装填している隙に、廊下の角へ身を潜めた。

 まず、あの銃を何とかしなければ……。
 
 息を殺して機会を伺う愛輝。
 廊下の角から拳銃を握った黒い腕が覗く。
 そこへ渾身の蹴りがとんだ。
 拳銃がクルクルと回転しながら宙をとんだ。
 頭部を狙って繰り出された回し蹴りは見事、八戒ダーの側頭部を捉えた。
 ズシリと重い手応え。
 八戒ダーの首が左にぐにゃりとひしゃげた。
 人間なら、頭蓋骨及び頸椎骨折で瞬殺の破壊力。
 それ以上の頭部への攻撃は桜井の脳髄を損傷させる恐れがある。
 そこは愛輝も計算済み。
 空中で腰を捻って半回転すると、二段蹴りの要領で左右の蹴りを八戒ダーの胸板へ打ち込んだ。

 愛輝キーーーーーック!(仮称)
 
 とりあえずそう叫んだのは、気合を入れることにより技の破壊力を増すためで、決して仮面ライダーの真似をしたわけではないのだ。と彼女の名誉のために言い添えておく。
 音速を超えてド~ンと壁にめり込む八戒ダー。
 コンクリートの破砕する大音響がわずかに遅れて拡散した。

 やった、のかしら?
 
 このまま八戒ダーを機能停止に追い込めば、桜井の脳髄を傷付けずにすむ。
 リングサイドで、--そのままぁ~、そのままぁ~! と叫ぶ丹〇段平や、--そのまま寝とるんやぁ~! please set downやぁ! と叫ぶマン〇ス西の気持ちが、--立たないでぇ、立たないでぇ、桜井さ~ん! と愛輝の痛切な心の叫びに結び付いたのだ。
 
 その期待も空しく、八戒ダーはカウント9で再び瓦礫の中から立ち上がった。
 倒れても、倒れても、立ち上がる、不死身の人造人間八戒ダー。
 その不撓不屈ふとうふくつの精神は、東北大震災の被災者に勇気と希望を与えたが、戦闘中の愛輝からすれば、それは恐怖と絶望以外の何物でもなく、対人造人間サイ〇ーダインの専門家、サラ・コナーに助言を求めたのも当然だろう。
 が、八戒ダーはその隙を与えなかった。
 愛輝がポケットからスマホを取り出すや、ーー写メを撮られる! と勘違いして、彼女に壮絶なぶちかましを喰らわせたのだ。
 壁に激突して、--ゲホッ! と口から鮮血を吐いた愛輝。
 
 最終兵器、惑星破壊衝撃波を使おうにも、緩衝器の役割を果たす、あの伝説の赤いグローブを装着しなければ、いかな八戒ダーといえども、五体をバラバラに打ち砕かれ木っ端微塵に吹っ飛んでしまう。
 そうなれば桜井咲子の脳死は確実だ。
 運命を左右する大切な忘れ物に、愛輝はほぞを噛んだ。
 
 八戒ダー、床に転がった拳銃を拾うと、愛輝に銃口を差し向けた。
 逃げようにも、内臓破裂、全身骨折で身動きのとれない愛輝。
 双眼は銃口を睨みつつ、心の中で萌え愛輝となって、源外に救いを求めた。

 源外君、どこにいるの? お願い、助けて!
 
 その願いも空しく、八戒ダーの拳銃が火を吹いた。
 が、撃たれたのは愛輝ではなく、彼女の傍らに転がるスマホだった。
 カメラ機能の付いたスマホの破壊は、羞恥心の肥大化した桜井の脳髄が唯一発し続ける指令だった。
 八戒ダー、スマホの破壊を確認すると、--カシャ、カシャと機械音を立てながら、他者のスマホを探し求めて廊下の角へ姿を消した。

「愛輝ぅ~、大丈夫かぁああああ~~~~~!」

 そこへ八戒ダーと入れ違いに姿を現した源外。
 重傷の愛輝を抱き起こすと、

「待っとれよ、いま救急車を呼んじゃる!」と四次元バックパックから例のダイヤル式携帯を取り出したから、さあ大変!
「ああっ、それは駄目ぇ!」と制止する愛輝。
「ええっ、どうして? これがなきゃ、救急車を呼べんのじゃ」と彼女の手を振りほどいて、ダイヤルを回そうとする源外。
「電波を発信すると、八戒ダーを呼び寄せるのよ!」と血反吐を吐いて叫ぶ愛輝。
「へえ~、おもしろいのう。だったら一石二鳥じゃい!」と通話キーを押した源外。
「ああっ、待って、源外君! 今のわたくしたちに八戒ダーを止める手立ては……」と恐怖に身悶えする愛輝。
「なに、簡単じゃ。停止スイッチを押せばいいだけの話じゃ」と四次元バックパックに手を突っ込んだ源外。
「でも八戒ダーに乳首なんて……、そんなの猫に小判よ」と軽い記憶障害を発症して、意味不明な言葉をささやく愛輝。
「さすがは愛輝! いいとこ衝くのう。う~ん、確かに八戒ダーの乳首にするには、ちょっともったいないかもしれん」と源外が四次元バックパックから取り出した物は、ゴム製の作り物の乳首だった。
「……それは?」
「おもしろいじゃろ? シャラ〇ワの付け乳首じゃ。ササビーズのオークションで競り落としたんじゃ。まさか、こんなところで役立とうとは……。備えあれば憂いなし、やね」
「そ、それ、いくらで競り落としたの?」
「う~ん、五千ドルほどかのう。まっ、安い買い物じゃ」
 
 愛輝、自分が重体であることも忘れて、源外の襟元に掴みかかった。

「なんて無駄な買い物を!」
「無駄じゃと? 八戒ダーを止められる唯一の秘密兵器アイテムじゃぞ! これがなければ、あやつは世界中の携帯を破壊し尽くすまで活動をやめんのじゃ」
「そ、そんな……」
「携帯という通信手段が失われれば世界中が大混乱じゃ! わしは世界を救ってみせるのじゃ。そしてノーベル平和賞をもらうのじゃ!」
「あら、欲しいのは確かノーベル物理学賞のはずでは?」
「……」
 
 会話が途絶えた頃合いを見計らって独特の、--カシャ、カシャ、という機械音が二人の耳朶を打った。
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