スーアサイド

凪海 三月

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神原 馨

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 人を殺したという事実がある以上、生活の自由は相当制限される。
 それは当たり前であり、逆に今家に帰る事ができ、表面上は普通の生活ができること以上に望んではいけない。
 これはいくら別人格のせいであろうと、世間の目は変わらない。
 けれど僕からしたら何処ぞの面識のない殺人鬼を止めろと言われているのと変わらない。しかも同時に存在出来ない。
 だから警察署にいこうとした。
 けれど生まれた環境のせいで捕まるのは理不尽だと思ってしまった。
 クロも同じ気持ちだったのか、後数十メートルのところで殺人をした。
 そのトラウマのせいで結局警察署に行けていない。
 
 絶対に喜んではいけないことなのだが、クロの殺しが完全犯罪であることが唯一ものすくいだった。
 まだ、町を歩いて買い物くらいは普通に出来るから。
 といっても、罪の意識があるからあまりそこにいたくないとは思う。
 
 それは、今日の夜飯用の惣菜を買いにいった帰りだった。
 いつも通り帰ろうとアパート二階くらいまで階段を上った時だった。
 向かいの塔の部屋のカーテンの隙間からロープが吊られているのが見えた。
 そして椅子とロープの前で立ち尽くしている少女。
 それを見た瞬間体が動いた。
 幸い、向こうの塔とこちらの塔はコの字で繋がっている。
 何年ぶりだろうか。こんなに全力で走ったのは。あぁ、もう。ところどころ間接とか痛いし。だいたい殺人鬼が自殺志願者助けるってどうなの。
 色々感情が忙しかったけどそれでも走った。
 少女の家に着いた瞬間、僕はインターホンを鳴らした。
 十秒くらいしてから「はーい」という声がして、ドアを開けた。
 少女は僕を見た後、
 「どちら様ですか?」
 不審がるどころか笑顔で出てきた。
 本当にこんな子が自殺志願者なのか。 
 けれどここで帰ったらこの少女は死んでしまうかも知れない。
 だったら言わないと。
 「ねえ君、自殺止めなよ」
 「は?」
 当然の反応だよな。
 カーテンを閉めて見えていないと思ってる部屋で。ましてや赤の他人中の他人に言われるなんて。
 「ごめんね、階段上ってたらカーテンの隙間から見えたんだよ。」
 「帰って下さい!!」
 少女は扉を閉めようとした。
 僕はそれを止めた。
 「本当に悪いって。わかってるよ。勇気出して自分の道を進もうとしたのに止められるのは嫌なことぐらい。だけどさまじでやめとけ、自殺は。先輩の俺が言うんだから間違いねぇって。」
 「帰って下さい。止めますから」
 「保証は?」  
 少女は黙った。本当は諦めて無いんだろう。
 「何なんですか!勝手にずかずか入り込んで!私は、、、!」
 「虐め、虐待、とかそんなんで死んじゃ駄目だよ?」 
 少女は黙って訴えるように僕を見つめた。情報処理が出来ていないんだと思う。
 「僕さ、まぁ虐めとか虐待ばっかだった人生なんだけど今は案外楽しかったりするから、ね。」
 「なんで、、、止めるんですか?」
 少女は俯いたまま弱々しく言った。
 なんでか。見つけたのもそうだけど、僕は昔、ある人が自殺するのを見て止められなくて後悔したから。まぁそんな話はもういいし、少女に言えるもんじゃない。
 適当に濁すしかなかった。
 「虐められてても虐待されてても死んだら悲しむ人がいる。体験談。」
 少女は一瞬黙ってその後言った。
 「結局あなたも口だけのキレイ事ですか!!そうでなくてもまだ自分には悲しんでくれた人がいたっていう自慢ですか!私には本当にいないんですよ!」
 少女は泣きながら詰まる言葉を意地でも出して僕に起こった。
 それでも僕はこの少女の自殺を許す訳には行かない。 
 「それは違う。悲しんだのは僕だし、キレイ事でもない。勇気出して行動したのは素直に凄いと思うよ。」
 「じゃあどうしたらいいんですか!また独りで耐えなきゃいけないんですか!!悲しむ人がいないで、皆私が死んでも泣くどころか笑うのにそれでもだめなんですか?、、、!」
 「じゃあ僕が悲しむ。君が死んだら僕が泣く。辛い時は僕に相談すればいい。これで君が死ぬ理由が無くなるでしょ」
 「・・・」
 「僕は戸津葉 理人。君は?」
 「・・・神原 馨。」
 流石に諦めた様だ。
 自分でやっといてなんだけど、僕だってもしあの時誰かも知らない他人にこんな事言われたら流石に諦めると思う。
 「502号室だからもしなあれだったら手紙でもインターホンでもよこしてよ。」
 「本当にいいんですか?」
 「うん。じゃあ自殺なんか止めとけよ。」
 「はい。」
 気付けば空は赤くなっていた。
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