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第1章

家①

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 彼女の住んでいる場所は、オートロックつきのマンションだった。


 綺麗なガラスの自動ドアがマンションの入り口で、彼女は慣れた手つきで暗証番号を入力する。

 その間、俺はそのオレンジ色の蛍光を浴びながら、小綺麗で背筋の伸びた彼女の後ろ姿を見つめていた。


 そこそこ広いエントランスホールの奥に、エレベーターがあった。

 俺たちはそこに乗り込み、3階を目指す。


 彼女の部屋は、3階の角部屋にある。

 燃えて灰になった俺のアパートとは、雲泥の差だった。


 部屋の中に入った途端、女性らしい花のような香りが鼻を充満する。

 ルームフレグランスだろうか。


 俺の部屋の2倍の広さで、設備も充実していた。

 トイレと風呂は別で、キッチンもIHだ。


 彼女らしく、部屋は綺麗にしていた。

 塵1つない、清潔な空間だ。


「恥ずかしいから、あんまり見ないでよ」

 竹中は笑った。

「まさか羽柴君に遭遇するとは思わなかったから、綺麗にしてなくって」

「そうか?」


 俺は部屋を見渡す。

「普通に綺麗だと思う」

「そう? 部屋が質素過ぎるって、友達に言われたことがあるんだけど」


 その友達とやらの好みは知らないが。

 少なくとも、俺にとっては欠点とは思えない。


 むしろ、良いと思う。


 こざっぱりしていて、無駄がない感じが目に優しい。


 白を基調としていて、家具もパッと見良いやつを使っているし。


 物が少なく質素に見えるのは、家具や持ち物にこだわりがあるからだろう。


「質素なのは、悪いことじゃねえだろ」

 俺は答えた。

「竹中らしさが出てて、俺は好きだな」

「そっか……」


 彼女はなぜか少し俯き、俺の顔を見ずに言った。

「そこにソファがあるから、座っておいて。着れそうな服、持ってくるから」

 
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