カブラギ魔対はロマン主義って本当ですか!?

メ々

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君の街まで編

君の街まで編 後日談

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 「言うなれば、あの街自体がダンジョンの核だったんだよ」



 神南湖からの帰り道、時定によって"君の街"から脱出したユウキは意気揚々と話し出した。


 「どういうことですか……?」

 「ダンジョンって言っても、壊れた場所は治らないんだよ、あくまで自然だからね、例えば、火ノ花さんが焼き切った木はそのまま残ってたでしょ?」


 湖の畔の森、湖中から帰還した後でも戦いの形跡は残り続けていた。


 それはごく自然なことだが、ダンジョンの核は話が違う。
 その心臓とも言えるモノは壊れてはならない、ダンジョンはそれをいち早く修正する。


 「強いて言えば、この隆起した神南湖という場所そのものがダンジョンだったんだよ、そう思えば普通ダンジョンから出てこない主が湖の中から顔を出したのも納得出来る」



 リヴァイアサンと戦い、次のラウンドへのチケットを得たものだけが入れる、"君の街"は言うところの最奥の決戦ステージだった。



 「街そのものが核になることもあるんだねぇ」

 「メインの二人は当然ながら、僕ら読者が"君の街"に対して馳せた想いが集まった結果だろうね、千年読まれている小説っていう特異性故だね」

 興味を示すアイリに反し、アンコは拗ねて数歩先を一人で歩いている。


 自分が行けなかったこと、結末を人伝で聞いていることにムカついているようだ。


 「機嫌直してくださいよアンコさん、帰ったら大福奢りますから……」


 カレンはアンコに駆け寄って機嫌を取ろうと提案する。
 そもそも今回無事だったのもアンコの魔法ありきの事だ。
 時定を呼んだのもアンコであるし、カレンは並々ならぬ尊敬の意を顕にしていた。


 「私はそんな安い女じゃないわ、……でも、まぁ、カレンは許してあげる」

 
 ユウキくんは許さな~い、と振り向いて舌を出したアンコは、カレンの手を引いて走っていく。




 そんな四人を他所に、時定は万遍の笑みでギターを抱きしめて歩いている。


 ユウキ達の下へ時定がやってきた後、興奮を抑えきれなかった時定は、"君の街"を隅々まで探検した。

 途中で限界を迎えたカレンとユウキにうんざりしながら寂しそうに街を後にした。


 今の彼にとって、戦利品とも言えるこれらが心を埋めるものなのだ。




 
 「そういえば、時定さんはどうやってあの中に入ったの?」

 ふと思い出したアイリが心ここに在らずの時定を問いただす。


 「あぁ、それはね、私の【空間魔法】はある程度の気配を辿れば別空間であっても飛べるんだよ、ユウキが大きく魔力を放出したことと、ダンジョンに明確な主がおらず、境界が不安定だったこと、状況が生んだ裏ワザってところさ」



 「【空間魔法】なら私達も一緒に行けたんじゃない?」



 アイリのふんわりとした発言はその場を駆け巡った。


 時定は、ギクリ、と肩を震わせ目が泳いでいる。


 先を歩いていたアンコは、その声が耳に入るやいなや、パタリと歩みを止めた。

 そしてくるりと踵を返し、頻りに顎を掻く時定に詰め寄った。


 「そ・う・で・す・よ・ね、先生、私達も連れて行ってくれたら良かったんじゃないですか? 大方、冒険のことしか考えてなかったんでしょ!」


 眼前にまで迫るアンコに、時定は目を合わせられず冷や汗までかいている。


 「い、いや、帰りに気配を辿るのに、誰か残って貰わないと……」

 「言い訳は結構です!」


 鬼気迫る顔からアンコの怒りが伝わってくる。
 それほどに自分が行けなかったのが不服なのだろう。

 言い訳虚しく、真意を見抜かれてしまった時定に呆れ、アンコはそっぽを向いた。




 追い求め、目の前にまで迫ったロマンを得るためには後先考えず、そこをなんとかするのも冒険の醍醐味だ、とかつての時定は言った。

 そんな彼に惹かれてアンコも弟子入りを志願したのだ。



 「……今夜は晩御飯抜きですからね」

 「つ、作るのはユウキだろ……?」


 助けを求めて見つめられたユウキは、手を挙げてお手上げ~とポーズを取った。

 「怒れるアンコ姫の仰せのままに」

 「そんなぁ、車まで出したのに……、私を慰めてくるのは君だけだよ、ヴィンテージギターちゃん……」


 ギターを抱きしめ子供のように泣き崩れる時定を他所に、アンコは帰路に戻る。


 カレンの下まで行くと、カレンはクスクスと笑っていた。



 
 「でも、数多くの人の心を動かしたものの結末が、小さなアパートで二人暮らしとはね~」

 歩きながらアンコが言う。



 「いいじゃないですか、不満?」

 「ううん、いいんじゃない?」




 私達は私達の未来を生きている。
 彼らの結末がどんなものだったとしても、私達はただそれを知ることしか出来ない。
 彼らが生きた過去に介入することはできない、それが彼らにとって幸せでも不幸せでも彼らがそこに生きていたことだけを感じることが出来る。

 ただ千年も前の恋の行方を知りたいというロマンを追い求める行動が、だれも知りえなかった結末を掘り起こした。
 そこにあった確かな幸せが千年の時を超えて私達の肌に染みるのだ。




 「まぁ、でも、この結末を知ってるのって今のところ私達だけでしょ?」

 そういうアンコの顔は口角をあげてニヤついている。



 「次にドラマ化があれば、主演は私で決まりね!」



 自信満々に言い放った彼女の眼差しは、サングラス越しでも確かに未来を見つめていた。


 病弱でお淑やか、質素で静かに暮らした『君の街まで』の彼女の役を演じるアンコをカレンは想像することができない。

 カレンの苦笑いがアンコに届くことは無い。



 今を煌めくトップアイドル、十大アンコ。
 彼女が新東京中に熱狂の渦を巻き起こす名演技を披露するのは、まだまだ先の話である。

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