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君の街まで編
#10 駆ける雷と咲く炎
しおりを挟むカレンは、ユウキと牽制しあうリヴァイアサンを横目に街を駆けていた。
この戦い、如何にこちらに注目させるかが鍵だ。
どんな生物だって、いかにもなユウキの溜めを見逃すはずがない。
完全に注意を引き、その上で隙を作る。
『神話級』相手に一見無理難題に思えるが、カレンにはそれを実現するイメージがあった。
カレンはある場所で足を止める。
それなりの広さのある芝生の公園。
ここだ、とその公園に入り、乱れた息を整える。
そして、地面に手を当てて魔力を込める。
すると、カレンの後ろの地面からひょいと小さな芽が顔を出す。
みるみるうちに芽は、茎を太く、長く、葉を大きくつけ、そこらの家屋と遜色ない大きさに成長し蕾をつける。
カレンの顔には汗がしたたり、息が荒くなる。
(まだ、まだまだ、もっと大きく! 強く可憐な自分を想像しろ!)
カレンは更に力を込める。
花の背丈が、辺りで一番目立つほどになった時、蕾が開き始める。
大輪の花を咲かせる時、カレンはゆっくりと立ち上がった。
大きくピンッと張った花びらに煽られて、カレンは自らに魔法をかける。
強く可憐な魔法を。
カレンの体を炎が覆い、やがて炎の花びらを纏ったドレスへと変貌する。
「これが新しい私、【華炎】なんていいんじゃない?」
育ちきった花が放つ魔力は、リヴァイアサンも無視できないらしい。
体勢をこちらに向け、吠える。
【花魔法】と【炎魔法】の融合。
今までは、魔法という存在の一面しか意識できていなかった。
ユウキ達と行動して、この戦いを経て、より多面的に、自らの魔法の可能性を信じて、頭のリミッターを解除し、想像する。
カレンのやりたい事を。
リヴァイアサンがこちらに向いた時、ユウキが溜めに入る様子が見えた。
「次は私の番、覚悟して、リヴァイアサン」
少し感じる頭痛を堪えて、リヴァイアサンに向けて放つ。
花の中心から撃たれるのは、種子。
無数の種が、リヴァイアサンの体表にあたり、そこに根を張っていく。
種にはカレンの魔力が詰まっており、さらに根を張ったものの魔力を吸い上げる、成長も段違いで速い。
そして、リヴァイアサンの体中に大量の花が咲いた。
「この花は私から咲いた花、私の魔力そのもの、鱗の隙間から根を通した花なら、効くんじゃない?」
体に分けいってくる根が痛むのか、リヴァイアサンはもがいている。
「そしてこの花は、私の合図で起爆する」
カレンはかざした手をグッと握る。
「【爆炎散華】」
直後、リヴァイアサンに咲いていた花が一斉に爆発し、爆炎と共にリヴァイアサンは上体を起こした。
白目を向き、体は焼け焦げている。
ズキンッと鳴った頭を抑え、カレンがしゃがむと纏ったドレスが散っていく。
「私にしては……頑張ったんじゃない……?」
朦朧とする意識の中、彼女はリヴァイアサンの口が青く光っているのを見た。
打ち出される水、彼女に避ける気力などなく、ただ呆然とその場に座り込む。
迫り来る水は本来一瞬のはずだったが、何だか遅く感じる。
強くなった為か、死ぬまでの猶予か、彼女は走馬灯なんて見ずに、ただ笑っていた。
『神話級』相手にやってやった、役目は果たした、私はまだ伸びる、そう物語るように。
彼女の前に立ちはだかったのは、翡翠色に輝く閃光を、バチバチと身にまとったユウキだった。
魔道士達は、自らのイメージを発動時より明確に想像できるように名前を付ける。
ユウキの【翠】は電荷を過剰なほど溜め込み、通常時よりも電力を上げた状態である。
その際の攻撃は通常時から一段階レベルを上げ、基礎技である【雷撃】も格段に威力を上げる。
【雷撃:翠】は元々の威力よりかなり上がっている為、放たれる稲妻が太くなり、精密さを失う。
ユウキはそれを補う為に、【翠】の状態の時のみ使う、精密に一点を狙う技を編み出した。
その名を___
「【翠嶺断つ雷撃星】」
一筋の雷光、裾を広げ天に落ちる一撃は水流を割る。
水飛沫を散らしながら突き進む彗星が銃口に直撃する。
轟音が後を追って鳴り響いた。
ユウキの高速移動は二種類ある。
【雷走】と呼ぶそれは、踏み込むと同時に雷を起こし、その衝撃波を纏い走る、故に足場が必要となる。
もう一つ、ユウキの放った魔法は雷の性質だけを残した魔力として場に滞留する。
それをマーカーとして使い、結び合う電荷を伝って雷の様に音を超えて移動する。
【翠嶺断つ雷撃星】が新たなマーカーとなる。
轟音の直後には、ユウキの姿はない。
その速さから、ユウキは魔道士達から"瞬雷"と呼ばれるに至る。
口内に入ったユウキは溜まった電荷を一気に解放する。
リヴァイアサンは何度も痙攣し、口から煙を吐きながら倒れた。
少し治まった頭痛を堪えてカレンはユウキの元へ走る。
横たわるリヴァイアサンの隣に立つユウキは唾液でベタついていた。
「おっ、火ノ花さん、大丈夫?」
リヴァイアサンはピクリとも動かない。
「ユウキさんこそ、大丈夫ですか」
「僕はまぁ、大丈夫だよ、……すごいね、これでもまだ生きてる」
嘘かと思えるほどリヴァイアサンは動かないが、どうやら生きているらしい。
『神話級』のタフネスは規格外らしい。
「ギターは無事?」
「はい、このとおり」
カレンが背負っているギターケースを翻して見せる。
「帰り方、分かりました?」
「いや、さっぱり」
頼みの綱のリヴァイアサンも気絶してしまっている。
どうしたものか、と気を紛らわす為に辺りを見回していると、リヴァイアサンとの戦いで壊れた街が徐々に治っていく。
瓦礫が浮かび上がり、元のビルへとくっつく。
削れた道路も治っていく。
「……そういう事ね」
「何ですか?」
「いや?」
他愛もなくユウキが微笑んでいた時、近くで一瞬光ったかと思えば、その場に一人の老紳士が降り立った。
「やぁ、迎えに来たよ」
どこか高揚を抑えきれていない鏑木時定がそこに降り立った。
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