転生前から狙われてますっ!!

一花カナウ

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転生令嬢は大切なあなたと式を挙げたい

1.依頼

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 年が明けてから、私、レネレットはシスター見習いとして午前中だけ仕事を任されている。今のところ、参拝者の案内や事務作業が中心だ。両親のおかげで読み書き教養はしっかり身についているので、こうした作業は慣れてしまえば簡単だった。

 やれやれ、だいぶ慣れてきたわね。昼食の準備はどうなっていたかしら。

 午前の業務を終えて、これから昼食だ。シスターたちの食事の用意には専門のスタッフがいて、私は時々お手伝いをする。他のシスターたちも時間が空いていれば手伝いをしているのを知って、自然と私もやるようになったのだ。

「レネレットさん」

 食堂に向かおうとした私は、オスカーに呼び止められた。声がした方を見れば、神父姿のオスカーが私に向かって近づいてきている。

 はぁ……何を着ていても似合うと思うけど、何と言っても神父姿が一番よね。

 いつ見てもオスカーの神父姿にはときめいてしまうが、今はお仕事中。私は目の保養を終えると気持ちを切り替えた。

「オスカー神父、何の用事でしょうか?」

 仕事中は呼び捨てにしないようにしている。公私は分ける主義なのだ。私は気を引き締めて向かい合った。

「午後に御使いを頼めませんでしょうか。ジョージに届け物をしてほしいのです。ついでに色々受け取ってきてください」
「ジョージ神父のところに?」

 オスカーが名を出したジョージとはジョージ・マリオンのことだろう。豊穣の神殿で神父をしている、ハンサム系で高身長の男性だ。オスカーの旧友で、私にとってもよく知る神父である。
 私が尋ねれば、オスカーは頷いた。

「いつも彼の方から来てもらっていましたが、そろそろ豊穣の神殿での儀式が続く時季に入りますからね。たまにはこちらから使いを出さないと申し訳ないので」

 そう返されて、私は豊穣の神にまつわる儀式を思い出す。

 ああ、そろそろ本殿で祈祷が始まる頃なのね。

 私の実家、ゴットフリード伯爵領は豊穣の神さまの土地とされ、そこに豊穣の神を祀る本殿がある。私はそんな縁でジョージ神父と顔馴染みなのだ。
 思い返せば、夏季には王都で会うジョージ神父だが、豊穣の神殿の儀式の時にはゴットフリード伯爵領の本殿でも顔を合わせていたことに気づいた。おそらく、こういう儀式を行う時には神父は立ち会うことになっているのだろう。

 まあ、ジョージ神父の場合はそれだけが理由ではないんでしょうけど。

 私は素直に頷いた。

「ええ、そういうことなら了解したわ。あまり大きな荷物だと運べないと思うけど、構わないかしら?」
「こちらからは一通の手紙を持っていくだけですし、受け取る予定のものは書籍を二、三冊ですから、非力なレネレットさんでも運べるかと」

 非力な、って部分を強調するなんて、嫌味ね……。事実だから仕方ないけど。

 約十八年も伯爵令嬢をしていた私に、必要以上の筋力は期待できないだろう。使用人に任せる作業が多かったので、当然の結果だ。日常生活において、重い荷物は持たない。

 とはいえ、書籍二、三冊はよほど大きなものじゃなければいけるわね。

 荷物の量を聞いて、それならきっと問題はないだろうと見積もった。豊穣の神殿まではやや離れているとはいえ徒歩で行き来できる距離である。馬車で行くような場所ではなく、実際にジョージ神父は荷物を担ぎながら頻繁に歩きで来ていた。

「私一人で御使いなのよね?」

 一応、念のために確認する。
 王都は治安がいい方ではあるのだが、女性の独り歩きが推奨されるほどではない。私が関わった以前の事件のことを思うと少し心配だ。
 するとオスカーは穏やかな笑顔を浮かべた。

「ジョージとやりとりするのはレネレットさんだけですが、他の用件でその近所に行くシスターと二人で行動していただきます。途中で何かが起きたら困りますからね」

 そう説明されると、私は安心できた。オスカーなりに考えてくれていることもわかって、ちょっぴり嬉しい。

「よかったわ。縁結びの神殿からの御使い、きちんと果たしてくるわね!」

 張り切って返す私に、オスカーは「送り出す時に手紙をお渡ししますので、よろしくお願いします」と告げて去って行った。
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