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5:清算のためにすべきこと
意外な人に呼び止められて
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※※※※※
精霊管理協会の職員に挨拶をして施設の外に出る。陽射しが眩しい。私の実家よりもずっと南にあることもあって、季節のわりには暑さを強く感じる。
「ここから先は公共機関を使っての移動にするか?」
「そうですね……」
元婚約者のいるお屋敷がどこにあるのかは知っている。居住地を明かしている人でもあるので、タクシー等で案内してもらうことも可能なはずだ。
ここから歩いていくにはそれなりの距離があり、何か乗り物を使うのがいい。
「スタールビーさんって運転できるんですか?」
「私有地内は走れる」
「無免許ってことですか……」
「前のマスターが住んでいるところがだいぶ辺境の地だったからな。食糧をはじめ、日用品の調達のために里におりるから、使い方くらいはわかるんだ」
予想していたよりも深刻な事情だった。切実である。なんせ、今持っている鞄に並べられた石たちがみんな鉱物人形だったというのだから人数がかなり多いわけで、そんな人数をまかなうとなると物量が大変なことになるのは想像が容易い。
私とは違う事情なのだな、と頷いた。
「なるほど……。私も私有地内なら問題ないんですけどね。精霊使いの許可証をもらったら、車の免許も取っておきますか」
なお、私の場合は実家の敷地内を移動するのに車を運転する必要があっただけである。引きこもりなので外出すること自体があまりなかったが、用事がまったくないわけでもなく、数少ない自分の自由を手に入れるためにステラに教えてもらった。
「未来に前向きなのは結構だが、それって帰宅できなくなる振りじゃないのか?」
指摘されて、私は気丈に振る舞うのをやめた。
「……あはは。ちょっとこわくなっちゃいました。大丈夫だって、自分に言い聞かせてはいるんですが」
銀の鎖に繋がれた紫黄水晶のペンダントトップに触れて、苦笑する。
大丈夫、私はやれる。
スタールビーは小さく笑った。
「それは仕方がないさ。いい思い出、あそこにはないんだろ?」
「食事は印象的でしたよ。記憶に残っていたんですから」
嘘はついていない。スタールビーが作った料理を食べて、元婚約者と食事をしたことが脳裏をよぎったのだから。悪い思い出ばかりではない。
「緊張して味なんか覚えていないっていうのが定番じゃないのか?」
「そりゃあ正直なところあまり味は覚えていなかったですけど、なにが入ったどんな料理なのかは覚えていられるんですよ。どんなに調子が悪くても、どんなに状況が悪くても、私、食欲はあるので」
呆れたように言われて心外である。
「君は強いねえ」
「どうも繊細さはないようです」
私は肩をすくめる。
ここで立ち止まっていても時間がもったいない。交通網の確認をするためにまずは駅に向かおうと歩き出したところで、私は呼び止められた。
精霊管理協会の職員に挨拶をして施設の外に出る。陽射しが眩しい。私の実家よりもずっと南にあることもあって、季節のわりには暑さを強く感じる。
「ここから先は公共機関を使っての移動にするか?」
「そうですね……」
元婚約者のいるお屋敷がどこにあるのかは知っている。居住地を明かしている人でもあるので、タクシー等で案内してもらうことも可能なはずだ。
ここから歩いていくにはそれなりの距離があり、何か乗り物を使うのがいい。
「スタールビーさんって運転できるんですか?」
「私有地内は走れる」
「無免許ってことですか……」
「前のマスターが住んでいるところがだいぶ辺境の地だったからな。食糧をはじめ、日用品の調達のために里におりるから、使い方くらいはわかるんだ」
予想していたよりも深刻な事情だった。切実である。なんせ、今持っている鞄に並べられた石たちがみんな鉱物人形だったというのだから人数がかなり多いわけで、そんな人数をまかなうとなると物量が大変なことになるのは想像が容易い。
私とは違う事情なのだな、と頷いた。
「なるほど……。私も私有地内なら問題ないんですけどね。精霊使いの許可証をもらったら、車の免許も取っておきますか」
なお、私の場合は実家の敷地内を移動するのに車を運転する必要があっただけである。引きこもりなので外出すること自体があまりなかったが、用事がまったくないわけでもなく、数少ない自分の自由を手に入れるためにステラに教えてもらった。
「未来に前向きなのは結構だが、それって帰宅できなくなる振りじゃないのか?」
指摘されて、私は気丈に振る舞うのをやめた。
「……あはは。ちょっとこわくなっちゃいました。大丈夫だって、自分に言い聞かせてはいるんですが」
銀の鎖に繋がれた紫黄水晶のペンダントトップに触れて、苦笑する。
大丈夫、私はやれる。
スタールビーは小さく笑った。
「それは仕方がないさ。いい思い出、あそこにはないんだろ?」
「食事は印象的でしたよ。記憶に残っていたんですから」
嘘はついていない。スタールビーが作った料理を食べて、元婚約者と食事をしたことが脳裏をよぎったのだから。悪い思い出ばかりではない。
「緊張して味なんか覚えていないっていうのが定番じゃないのか?」
「そりゃあ正直なところあまり味は覚えていなかったですけど、なにが入ったどんな料理なのかは覚えていられるんですよ。どんなに調子が悪くても、どんなに状況が悪くても、私、食欲はあるので」
呆れたように言われて心外である。
「君は強いねえ」
「どうも繊細さはないようです」
私は肩をすくめる。
ここで立ち止まっていても時間がもったいない。交通網の確認をするためにまずは駅に向かおうと歩き出したところで、私は呼び止められた。
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