婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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5:清算のためにすべきこと

敵陣へ出立のとき

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「それは……ほかによいと思えるものがなかったからですね。本当に、それだけなんですよ。こうしたいとかああしたいとかいう選択肢がそれまでの私にはなかった。今は、手に入れたいものができたので、そのために足掻いてみたいんです」
「失敗することを恐れないのか?」
「恐れていたら何もできないじゃないですか。私は、今、こうするしかないから動くんです。スタールビーさんも、そうだったんじゃないですか? 目的のために手段を選んでいられるような状況じゃなかったから」
「……そうだな」

 諦めたように笑って、スタールビーは私の頭を撫でた。

「お嬢さんがそういうなら、付き合ってもらうし、とことん付き合ってやろうじゃないか」

 手袋がされた右手を差し出してきた。私はそこにそっと手を重ねる。

「行きましょう」

 導かれて、転移装置までやってきた。そこではセレナとオパールが並んで待っていた。

「準備はできた?」

 心配そうなセレナの顔。この作戦に反対したのはセレナだけだった。危険は承知の上であること、最悪の事態は想定されるが社会に大きな影響は出ないだろうことを説明して、なんとか折れてもらったのだ。
 私はにっこりと微笑んで見せた。

「はい、バッチリです」
「俺も問題ない」

 元鉱物人形だった石たちが入った鞄を持ち直して、隣に立つスタールビーも力強く頷いた。

「私は立場上、付き添ってあげることができないけれど、なにかあったら真っ先に頼ってくれていいからね?」

 目的地は元婚約者の屋敷だ。部外者が気軽に立ち入れる場所ではない。それに、あの人は精霊管理協会を嫌っているので、職員であるセレナはなおさら入れてもらえないだろう。

「ありがとうございます。私は私の問題を片付けに行くだけですので、むしろ巻き込んでしまって申し訳ないというか……」
「そんなことないわ。――ここを、あなたの帰る場所だと思ってくれたら嬉しい」
「はい。みんなと一緒に、必ず戻ります」

 私はスタールビーと顔を見合わせて頷き合った。
 必ずそろって帰ろう。

「――よし。そろそろいい時間だな。むこうさんに近い精霊管理協会支部に繋げておいたから、そこからは適当によろしく」
「ああ。たぶん迎えが来るだろうし、来なけりゃ来ないでどうにかするさ。俺がお嬢さんについている」

 オパールが転移装置の設定をいじっている。中空に浮かぶ半透明のパネルを操作すると、保養所に付属している転移装置が音を立てた。

「そうだな。……ちゃんと清算してこい」

 転移装置の中に私とスタールビーが入った。

「行ってきます、セレナさん、オパールさん」
「気をつけて、いってらっしゃい」

 転移装置の扉がパタンと閉まる。鍵のかかる音がして、装置が動き出した。
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