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痛み

侯爵side紫の瞳

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私は妹の肖像画を見つめながら、今回の事情に胸を痛めて考え込んでいた。やはり紫の瞳の血からは逃れられないのかもしれない。人々を惹きつけ魅了する一方で、奔放に振る舞うその性格、いや、呪いに近い気質。

騎士科の寮からの連絡で、部屋で寝込んでしまったサミュエルが屋敷に連れ戻されてから一週間が経っていた。その間、意識が朦朧としたサミュエルから発せられる切れ切れの言葉や、駆けつけたアルバートの青褪めた顔を見て、私は妹の事を思い出したのだった。


書斎でアルバートから聞いたのは、サミュエルとの親密な関係だった。

「アルバート、サミュエルはエイデンと付き合っていたのではなかったかい。」

アルバートは顔を両手で覆いながら絞り出す様に言った。


「私はサミュエルを弟としてではなく、一人の人間として愛してきました。けれど、従兄弟だった私はその気持ちを言うつもりは無かった。でもあの日、サミュエルから一人の男として見つめられたら、もう隠しておくのは無理だったんです。

サミュエルの差し出す手を振り払うことなど出来なかった。…私は父上に知られてしまった今この時でさえ、サミュエルを愛する事を止めることは出来ません。サミュエルが病気になってしまったのは、きっと私とエイデンの間に挟まれて苦しんだ結果でしょう。」


私はアルバートの姿にかつてのケルビーノ伯爵である、親友のマイケルを重ねて見た。彼もまた、同じ様に苦悩して私の前に項垂れていた。私の妹のリリアンは天使よりも美しい姿と評される一方で、成長するにつれ、その美しい紫の瞳で多くの男たちを魅了していった。

紫の瞳を持つ、お祖母様の夫だったお祖父様から警告を受けていた父上は、今思えば細心の注意を持ってリリアンを監視下に置いていた。私も最初は父上が溺愛するのもしょうがないとその厳しい監視を呆れて眺めていたけれど、その実態がリリアンの奔放さを食い止めるものだと知ってからは笑っては居られなかった。


そんな時に親友のマイケルがリリアンに魅了された時は、二人の関係を反対したのも無理はないだろう。マイケルは伸びやかな良い男で、優しい気質だった。そんな彼がリリアンをコントロール出来るとは思えなかったからだ。けれどもリリアンに溺れた親友は、私の警告もものともせずに強引に結婚を決めてしまった。

しばらくは幸せな結婚生活が続いていた。私も小さなサミュエルを授かったリリアンがすっかり落ち着いたのだと、この二人のために安堵していた。


しかしあの夜、突然私の元を訪れた青褪めたマイケルは、リリアンの裏切りの前に苦悩して項垂れていた。しかし彼は確かに今のアルバートと同じ様な事を言ったのだった。

『リリアンが裏切ろうとも、私は彼女を愛する事をやめられない。彼女は甘い毒の様なもので、私は彼女無しでは死んだも同然だ。最後まで結婚を反対した兄上の君にこんな事を言うのは筋違いだけれど、私はリリアンを決して離さない。これからも裏切られようともね。」


それから間も無く馬車の事故で二人が亡くなったのを知った時、私はどこかでこうなってしまうのを恐れていたのだと気がついた。単純な事故なのか、故意な事故なのか調べてもハッキリしなかったけれど、マイケルのリリアンを離さないという言葉はそのまま事実となった。





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