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時勢の変貌

楽しいひと時

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皆が集まった事に、侯爵夫妻も随分喜んだ。確かにこうやって揃う事はしばらく無かったかもしれない。僕も勉強の忙しさに埋没させられて滅多に帰れなくなっていた。

「イリスも寮生活になってしまったら、本当に寂しくなるわ…。エドワードはもうどちらの騎士団に入るか決めたのかしら?」


エドワードは侯爵夫人に聞かれて、皆の注目が集まったので料理を食べる手を止めた。僕は目の前のエドワードの食べっぷりに少々胸焼けを感じていたから、ホッとしてエドワードが何と言うのか待った。

「私は黒騎士団に所属しようかと考えているんです。…最近のきな臭い状況もあって、私もこのまま指を咥えて見ているよりは実際に行動したいタチですからね。」


そうエドワードが言うと、侯爵は頷きながらエイデン様とマシュー様の方を向いて尋ねた。

「実際二人は身をもって感じているだろう。最近の国境付近での不穏な動きは陰謀だったのかい?」

侯爵に尋ねられて、エイデン様とマシュー様が顔を見合わせた。アル兄様がそんな二人を見つめて尋ねた。

「ここで言える範囲で良いから状況を教えてくれないか。実際王都では色々な憶測ばかりで、不安が広がっているからね。」


するとマシュー様が耳下までの茶色の髪を撫でつけて額を出した、優しげな顔を困ったように歪めて話し出した。

「…そうですね。私たちは別の場所に遠征してましたが、黒騎士団の内部の話ではあれは陰謀の見立てです。…“明けの月“、聞いたことがありますか?この組織の概要はまだ分かっていないのですが、ここ1、2年急に力をつけて活動している組織です。

私たちが遠征した先でも”明けの月“の活動が報告されていて、かなり大きな地下組織だと考えられています。…とは言え、黒騎士団がだいぶ把握してきてますから、組織壊滅も近いと噂されてます。それが私たちの仕事ですからね。」


そう言って水色の瞳をきらりと光らせた。僕は騎士科で情報収集の実習をしていたので、“明けの月”の話は聞いていた。この国が平和な国だと思っていたその実態は、黒騎士団の地道な活動のお陰だと知った。

僕はエイデン様とマシュー様を見つめて言葉にせずにはいられなかった。

「僕は、お二人の無事をいつも祈っているんです。そこにエドワードまで加わるなんて…。」

そんな僕に、三人が困ったように顔を見合わせたのを見て、皆がクスクス笑ってその場の緊張が緩んだ。ああ、そうは言っても本当に僕はいつも心配しているんだよ?


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