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ヴィレスクの地へ

賑やかな夜

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僕は眠る身支度をしながら、今夜の騒がしくも楽しかった1日を思い返していた。

侯爵とアルバート兄様が城に到着してからは、僕たちだけじゃなく城の使用人たちの浮かれ具合が伝わってくるようだった。でもそれも当然かもしれない。

長らく外交官として行ったり来たりの生活をしていた侯爵が、一ヶ月以上城に滞在するのは本当に久しぶりらしい。城の家令たちのギラついた満面の笑みには笑ってしまった。

アルバート兄様が以前教えてくれたように、チームを組んで領地経営をしていた彼らにとっては、侯爵と直接あれこれ決裁出来るのはありがたい事なんだろう。ダンディな侯爵の顔が少し引き攣っていたのには同情しちゃうけどね。


イリスや侯爵夫人の喜びようは見ていて胸の温かくなるものだったし、いや、ちょっと胸焼けもしたかもしれない。侯爵と侯爵夫人があんなにイチャイチャしてるのは予想外だったと言うか…。

僕が侯爵がデレついている姿を見てポカンとしていると、エドワードが側に来て囁いた。

「あんまり見てると目と胸がやられるぞ。まったく子供三人も作っといて、まだまだ生まれそうな勢いじゃないか?俺はもう胸焼けしそうだよ。」


でも僕は、あれくらい愛し合ってお互いに夢中になってるのは、バカップルかもしれないけど、素敵なことに思えたんだ。

「ふふ。でもちょっと羨ましいな。人生であんなにお互いにずっと夢中でいられる相手に巡り合えるのは、一体どれくらいの確率だろうって思うから。」

するとアルバートが後ろから僕たちに声を掛けてきた。

「確かにサミュエルの言う通りだ。まして貴族社会は家同士の政略結婚も多いからね。父上と母上は幸運だよ。あ、サミュエル、母上に父上との馴れ初めを聞いたらダメだよ。3日ぐらい聞かされる羽目になるからね。ハハハ。」


僕たちは気を利かせた執事に促されて、晩餐のために各々身支度をしに部屋に戻ったんだ。城の僕付きのメイドは落ち着いた妙齢の女性で僕はホッとしたんだ。いちいち可愛いとか言われたくないし。

その夜の晩餐は賑やかで、話も尽きることがなかった。侯爵の外国の話は興味深くて僕はいくらでも聞いていたかった。そんな事を思い出しながら寝支度を済ませると、やっぱり僕も興奮していたんだろう、急に疲れを感じて睡魔が襲ってきた。


僕がベッドに入ろうとしたその時、部屋の扉がノックされた。僕はぼんやりと顔を上げてコンコンと扉に響くその音に引っ張られるように立ち上がったんだ。
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