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ヴィレスクの地へ

お尻の限界

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「まだ到着しないのかな…。」

僕はぐったりと馬車の窓枠にへばりついてぼんやりと景色を眺めていた。エドワードはすっかり気持ち良さ気に眠っている。僕もさっきまで眠っていたのだけれど、大きく揺れた拍子におでこをぶつけて痛さで起きてしまった。

流石に田園風景も、長閑ノドカな村の景色も、いくつか眺めたら飽きる。そう、すっかり飽きていた。それにお尻も痛い。要は9歳の身体は馬車の旅に限界を叫んでいたんだ。


馬車の車輪の音が変わった気がして顔を上げると、馬車が停まった。世話役の従者が前の馬車から降りて来て、窓から僕に話しかけてきた。

「エドワード様、サミュエル様。しばらくこの先の街で休憩を取ります。お昼にしますから、降りる身支度をお願いします。後10分ほどで到着しますからね?」


僕は従者に頷くと、しばらくしてまた馬車が動き出した。僕はそれでも目を覚さないエドワードの隣に座り直して、声を掛けながら肩を揺さぶった。

エドワードは目を擦りながら僕のお昼休憩の話を聞くと、急に元気を取り戻して、脱いだ靴を履き直したり、襟元のクラバットを直した。


「サミュエル、おいで。リボンが縦になってる。」

エドワードの身支度をぼんやり眺めていた僕は、僕の襟元の黒いベルベットのリボンを結び直してくれるエドワードを、まじまじと見つめた。エドワードは侯爵譲りの真っ直ぐな美しい金髪を、僕と同じくらい短く耳の下で切り揃えていた。

貴族の子供にしては短いので、多分剣の邪魔にならない事を優先したんだろう。エドワードは剣が大好きだからな。


「エドワードのその美しい琥珀色の瞳は、侯爵夫人と同じだね。」

僕がそう言ってじっとエドワードの瞳を覗き込むと、エドワードは少し顔を赤らめた。

「サミュエルはそうやって、誰でも彼でもじっと見つめない様にしないと。俺は従兄弟だから良いけど、他の奴がそれをされたら大いに誤解されるからな?」

僕は、キョトンとしてエドワードを見た。


「誤解って?」

エドワードは肩をすくめて、僕のほっぺにチュっとすると、言った。

「こうされちゃうって事。俺たちは従兄弟だからこれが挨拶だって分かるだろう?でも他の奴にされたら?それはどう言う意味だと思う?

デビュー前だから、サミュエルにはこの手の話は言えないけど、他の奴にされない様に隙を見せるなって事。特に兄上に知られたら、そいつの命は無いかもしれないからな?」




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