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教育期間

僕のオリジナル

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デビューに向けて、まさに詰め込み教育をしている僕だけど、どうも文字だけは何とかしないといけない。僕にとっては読むことはそう難しくは無かった。文章を書くのも、ゆっくりならまあ出来る。9歳ならこんなものだろう。…でも美しくない。

この国の文字は独特で、僕にはちょっと暗号めいて感じる。だから書道ならぬ、美しい文字を書ける様になるにはどうしたら良いかと考えていた。


僕は子供用の図書室で、子供向けの絵本を取り出して読んだ。同時に好みの字体が無いか探したんだ。その中の詩集の文字が美しくて、僕は暇さえあればその詩集を同じ様に、同じ字体で書き写した。

そんな事を続けるうちに、僕は自分の書く文字が手に馴染んで行くのが分かった。そこで僕は、アルバート兄様とエドワードに頼んだ。

「僕、頼みがあるんですけど。兄様たちに簡単な手紙を書いても良いですか?その、まだ上手に文字が書けないから練習としてなんですけど…。」


こんな事を改めて頼むのは少し恥ずかしい気がして、二人を上目遣いで見つめると、兄様たちはコクコクと凄い勢いで頷いてくれた。

「あの、返事は良いですから。誰かが目にすると思うと、僕もやる気がでるって言うか。じゃあ、よろしくお願いしますね?」

妙ににこやかな二人を後に、僕は執事に封筒と便箋を用意してもらう様に頼んだ。すると驚いたことに、執事曰くは僕専用のレターセットを作ってくれると言う。

そこで僕は紙職人と膝を突き合わせてああでも無い、こうでもないと希望を述べながらオリジナルのレターセットを作ってもらった。


「サミュエル様、こちらに届きましたが…、これは私にも覚えがないほど美しいものに仕上がりましたね。この花は本物なのですか?」

そう言って感心した様に執事が僕のオリジナルをマジマジと見つめるので、僕はクスクス笑って言った。

「そうなんだ。これはマリア達にお願いして作ってもらった、僕がお庭から摘んだ草花を押し花にしたものだよ。綺麗に出来ているでしょう?勿論職人の腕がいいからこんな風に形に出来たんだから、感謝は貴方にしないといけないね?」


そう執事の後ろに控えている紙職人に、にこりと微笑んでお礼を言った。すると紙職人は僕の前にひざまづいて、最上の礼を取って言ったんだ。

「この様なご注文は初めてでしたが、これはヴィレスク侯爵家だけの使用品として、店頭に飾らせて頂きたいと思います。素晴らしい経験をさせて頂き、今後も精進させて頂きます。」

僕はにっこり微笑んで、紙職人に言ったんだ。


「では僕も感謝を込めて、一番に貴方のお店にお手紙を書かせてくださいね?」



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