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婚約
政宗side反省と相談
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マンションの扉が背中で閉められて、俺はぼんやり突っ立っていた。今、葵はどんな顔をしていた?目を見開いて赤らんだ、今までに見たことのないあの表情。ああ、扉をこじ開けてもう一度あの顔が見たい。
けれどそんな事をしたら、修復不可能な位俺と葵の関係が詰むのはわかり切っていたので、俺はすごすごと重い足取りでマンションの外に出た。
都心なのに閑静な夜の住宅街を見渡しながら、俺はタクシーを呼んだ。これからやる事は明白だったけれど、こちらに向かう前に掛けられた秘書の戌井の言葉が、スマホに触れる俺の指を止めさせた。
『…どうしようもなくなる前に必ず相談してくれよ?お前はちょっと突っ走り過ぎるところがあるからな。』
タクシーに乗り込むと、俺は戌井にメッセージを送った。直ぐにスマホが震えて、戌井の声が響いた。
「やらかしたか?今どこだ。俺もお前のマンションに向かうから、合流しよう。作戦会議だ。これは惚れたはれただけの話じゃないからな。西園寺グループと如月コーポレーションとの今後の話にも影響が出る話なんだ。
…まぁ良い。じゃ、後で。」
戌井の言葉は妙に俺の心を抉った。何も間違った事は言ってない。縁談の前提条件である両家の資本提携の話は大事だ。だけど、俺と葵がそのためだけに関わってると言われた気がして、面白くなかった。
俺が葵の首を噛むと失言したあの瞬間、明らかに俺は今まで感じた事のない熱情を感じていた。俺自身を燃やす様な嫉妬の、あるいは身勝手な気持ちが抑えられなかった。
目の前のΩを自分のものにしたいという、湧き立つ炎に焼かれて、考えてものを言う事が出来なかったのは確かだった。
婚約者である葵をこのまま無事に俺の伴侶にする。どこかザワザワした心がそれを認められない。このまま?葵は俺の事を政略結婚相手としか見てくれていないのに?
それとも噛んで番になったら変わるのだろうか。
自分でもどうして拘っているのか分からないまま、落ち着かない気持ちで俺は自分の部屋で戌井を待った。自分でオートロックを突破した戌井が玄関のチャイムを鳴らす頃、俺は深呼吸して殊更冷静に見える様に奴を出迎えた。
「お前、同時進行はまずいだろ?如月さんタイプは怒ったら許してくれないぞ。」
細かい事情を知らないとは言え、何気なく言ったその戌井の言葉に俺は苛立った。やってないが、その通りだ。くさくさした気持ちで、不貞腐れた顔のまま先に立って歩くと、戌井が空気を読んだのかそれ以上何も言わずに大人しく着いてきた。
「まずは話を聞こう。順番通りにな?」
ボイスレコーダーをセットして、まるで警察の尋問の様に俺に向き合った戌井に俺は最初から説明した。黙ってモバイルにメモしながら話を聞いていた戌井は、俺の話が終わると顔を顰めて言った。
「…お前が酷い事を言ったって、具体的に何て言ったんだ?」
俺はギクリと身体を強張らせた。言いたくないが、戌井は知っておいた方がいいのは分かっていた。
「…葵に骨の髄までしゃぶられているから愛人とどうこうするのは無理だとか…。」
ギョッとした顔をした戌井が、間髪を入れず言った。
「お前、酷い事言ったな!…あれ、まだある言い方だったよな?」
俺はますます小さな声で呟いた。もう戌井の顔は見れない。
「…俺、どうかしていたんだ。何かこうムカムカして。…俺が噛めば良いんだって。他のやつと交われないでしょって…。」
戌井が目を閉じて、降参とでも言う様に黙り込んだ。
「…まじか。お前どうしちゃったの?中坊じゃないんだから、その低レベルの言葉の数々、俺には信じられないんだけど。」
俺は戌井を睨みつけて言った。
「俺にも信じられないさ!葵が感情的に俺をなじって来るんだったら、こっちは冷静でいられたかもしれないが、葵は俺のことなんてどうでも良いかの様にあっさりと、愛人が欲しければ取り決めして、それを自分にも当てはめるみたいな事言うから…!」
戌井は立ち上がると俺の冷蔵庫を開けて冷えたビールを二つ取り出した。
ひとつを俺の側に置くと、貰うぞと呟いて一人でぐびぐびと飲み始めた。
「…なんかさ、俺タイムスリップした気持ちだ。お前まともに恋愛してこなかったろ。お前が今言ってる事って、学生のうちに経験して来る様な話なんだぞ?
確かにお前は大学の頃はモテてたし、取っ替え引っ替えだったけど、結局恋はしてこなかったって事だ。おめでとう。婚約者に恋するなんて、それはそれで何かめでたいな。赤飯炊かなくちゃな。」
戌井の言葉に、俺はじわじわ顔が熱くなるのを感じた。これだけ感情的になるのは経験がないんだから、戌井の言う通り俺は葵に恋してしまったのかもしれない。
「…まじか。俺凄い下手打ったよな…?」
戌井は肩をすくめただけで何も言わなかったけど、否定はしなかった。
二人で黙ってきつい炭酸で喉を苦しめると、戌井は言った。
「まぁ、如月さんは大人の対応してくれたよ。お前のこと宥めててくれたんだろ?だからって怒ってないとは思わないが、ある意味猛獣使いの才能あるよ。
取り敢えずお前の微妙な心境は置いておいて、まず図々しい元愛人?を成敗しなくちゃな。俺、こういう奴マジで嫌いなんだ。やる気出るわ。」
そう言って楽しげに帰る戌井を見送りながら、奴は敵に回しちゃいけないタイプだと改めて思った。
それから俺は高層マンションからの夜景を眺めながら、何度目か分からないため息をついた。はぁ、自分が本当に情け無いよ。
けれどそんな事をしたら、修復不可能な位俺と葵の関係が詰むのはわかり切っていたので、俺はすごすごと重い足取りでマンションの外に出た。
都心なのに閑静な夜の住宅街を見渡しながら、俺はタクシーを呼んだ。これからやる事は明白だったけれど、こちらに向かう前に掛けられた秘書の戌井の言葉が、スマホに触れる俺の指を止めさせた。
『…どうしようもなくなる前に必ず相談してくれよ?お前はちょっと突っ走り過ぎるところがあるからな。』
タクシーに乗り込むと、俺は戌井にメッセージを送った。直ぐにスマホが震えて、戌井の声が響いた。
「やらかしたか?今どこだ。俺もお前のマンションに向かうから、合流しよう。作戦会議だ。これは惚れたはれただけの話じゃないからな。西園寺グループと如月コーポレーションとの今後の話にも影響が出る話なんだ。
…まぁ良い。じゃ、後で。」
戌井の言葉は妙に俺の心を抉った。何も間違った事は言ってない。縁談の前提条件である両家の資本提携の話は大事だ。だけど、俺と葵がそのためだけに関わってると言われた気がして、面白くなかった。
俺が葵の首を噛むと失言したあの瞬間、明らかに俺は今まで感じた事のない熱情を感じていた。俺自身を燃やす様な嫉妬の、あるいは身勝手な気持ちが抑えられなかった。
目の前のΩを自分のものにしたいという、湧き立つ炎に焼かれて、考えてものを言う事が出来なかったのは確かだった。
婚約者である葵をこのまま無事に俺の伴侶にする。どこかザワザワした心がそれを認められない。このまま?葵は俺の事を政略結婚相手としか見てくれていないのに?
それとも噛んで番になったら変わるのだろうか。
自分でもどうして拘っているのか分からないまま、落ち着かない気持ちで俺は自分の部屋で戌井を待った。自分でオートロックを突破した戌井が玄関のチャイムを鳴らす頃、俺は深呼吸して殊更冷静に見える様に奴を出迎えた。
「お前、同時進行はまずいだろ?如月さんタイプは怒ったら許してくれないぞ。」
細かい事情を知らないとは言え、何気なく言ったその戌井の言葉に俺は苛立った。やってないが、その通りだ。くさくさした気持ちで、不貞腐れた顔のまま先に立って歩くと、戌井が空気を読んだのかそれ以上何も言わずに大人しく着いてきた。
「まずは話を聞こう。順番通りにな?」
ボイスレコーダーをセットして、まるで警察の尋問の様に俺に向き合った戌井に俺は最初から説明した。黙ってモバイルにメモしながら話を聞いていた戌井は、俺の話が終わると顔を顰めて言った。
「…お前が酷い事を言ったって、具体的に何て言ったんだ?」
俺はギクリと身体を強張らせた。言いたくないが、戌井は知っておいた方がいいのは分かっていた。
「…葵に骨の髄までしゃぶられているから愛人とどうこうするのは無理だとか…。」
ギョッとした顔をした戌井が、間髪を入れず言った。
「お前、酷い事言ったな!…あれ、まだある言い方だったよな?」
俺はますます小さな声で呟いた。もう戌井の顔は見れない。
「…俺、どうかしていたんだ。何かこうムカムカして。…俺が噛めば良いんだって。他のやつと交われないでしょって…。」
戌井が目を閉じて、降参とでも言う様に黙り込んだ。
「…まじか。お前どうしちゃったの?中坊じゃないんだから、その低レベルの言葉の数々、俺には信じられないんだけど。」
俺は戌井を睨みつけて言った。
「俺にも信じられないさ!葵が感情的に俺をなじって来るんだったら、こっちは冷静でいられたかもしれないが、葵は俺のことなんてどうでも良いかの様にあっさりと、愛人が欲しければ取り決めして、それを自分にも当てはめるみたいな事言うから…!」
戌井は立ち上がると俺の冷蔵庫を開けて冷えたビールを二つ取り出した。
ひとつを俺の側に置くと、貰うぞと呟いて一人でぐびぐびと飲み始めた。
「…なんかさ、俺タイムスリップした気持ちだ。お前まともに恋愛してこなかったろ。お前が今言ってる事って、学生のうちに経験して来る様な話なんだぞ?
確かにお前は大学の頃はモテてたし、取っ替え引っ替えだったけど、結局恋はしてこなかったって事だ。おめでとう。婚約者に恋するなんて、それはそれで何かめでたいな。赤飯炊かなくちゃな。」
戌井の言葉に、俺はじわじわ顔が熱くなるのを感じた。これだけ感情的になるのは経験がないんだから、戌井の言う通り俺は葵に恋してしまったのかもしれない。
「…まじか。俺凄い下手打ったよな…?」
戌井は肩をすくめただけで何も言わなかったけど、否定はしなかった。
二人で黙ってきつい炭酸で喉を苦しめると、戌井は言った。
「まぁ、如月さんは大人の対応してくれたよ。お前のこと宥めててくれたんだろ?だからって怒ってないとは思わないが、ある意味猛獣使いの才能あるよ。
取り敢えずお前の微妙な心境は置いておいて、まず図々しい元愛人?を成敗しなくちゃな。俺、こういう奴マジで嫌いなんだ。やる気出るわ。」
そう言って楽しげに帰る戌井を見送りながら、奴は敵に回しちゃいけないタイプだと改めて思った。
それから俺は高層マンションからの夜景を眺めながら、何度目か分からないため息をついた。はぁ、自分が本当に情け無いよ。
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