13 / 23
婚約
そんなたちじゃない
しおりを挟む
目の前で一人憤ったり、怒りのまま酷い事を言い放つ西園寺を、私は何処か冷静な眼差しで見つめていた。以前なら付き合う相手がこんな風に感情的になるのを見ると、一気に面倒くささが先に来て関わるのをやめていた。
自分がまるで色情魔の様に言われて唖然としてから、実際そんなに酷かっただろうかとちょっぴり反省したりなんかして、恥ずかしさからぐだぐだと言い繕っていると、何故か怒り出した西園寺は私が浮気できない様に噛んで番うと言い捨てた。
それは失言も失言だったし、Ωである自分を尊重されていない様でショックを感じたのは確かだった。何故ここまで言われないといけないのかと、思わずこの男を追い出す事も考えたくらいだ。
けれども目の前で、俯いて頭を掻きむしって呻く西園寺を見つめていると、ああ、西園寺は私に独占欲を出しただけなのかもしれないと気がついた。
普段冷静な振る舞いをする番のアルファが、自分への執着を見せると時として酷く感情的になると、嬉しげに私に話した友人Ωの惚気を思い浮かべたせいだ。
とは言え、婚約者と言えども別に私たちは今現在番でも何でもない。だから西園寺が見せているのはΩを囲いたがるアルファとしての本能なのだろうか。それは私でなくても関わったΩなら感じるものなのかな。
そう考えると、私は年下のこの傲慢な男がアルファとしての性に振り回されているのを見た気がして、何処か憐れみさえも感じて西園寺に声を掛けていた。
多分、私より未熟に感じるこの男が、これから傾きかけた西園寺グループを引っ張って行かざるを得ない重責を思って、正直同情していたんだと思う。
私は子供の頃から大事に守られて、重責などとは無縁で生きてきた。それはオメガバース関係なしに考えると、男としては何とも情けない事だ。それをあまり考えた事が無かったと言うのも、人間として何処か欠けているのかもしれない。
だからと言っていい大人なのだから、西園寺が怒りのままに酷い言葉を言い放った事は無かった事にする気はないけれど、これからの態度次第かなとは思う。
西園寺を落ち着かせようと諭すと、私の手を恐る恐る握り、それからひどく後悔した様子で真摯に私に謝って来た。それから私にとても満足しているとか言い出して、何だか謝罪の方向が逸れてる気がしないでも無かったけど、私は何だか楽しくなって来てしまった。
どう見てもこれはまるで絵に描いたような修羅場だと笑えて来て、うっかりまた余計な事を言ってしまった様だった。
あの小綺麗な青年に酷く腹を立てている西園寺に、私はまぁ西園寺にも原因があったのではないかとも思ったりもしたけれど、これ以上揉める気は無かった。
とことんこの手の事に向いていないんだ、私は。怒りを持続するのも、そこまで他人に関心が持てないせいじゃないだろうか。とは言え、兄さんにこの事が知られたら不味いのは確かだ。下手すれば破談にも成りかねない。
私は自分より熱い体温を指先に感じつつ、破談にするにはこの目の前の年下の男を案外気に入っているんだと思った。実際身体の相性は今までで一番だしね。
私を挑発して来た西園寺の元愛人の件は彼に任せて、この件については如月の方には何も言う気は無かった。カフェに客が来た。実際それだけの話だ。
「…今夜はもう帰ります。無作法な事ばかりしてしまって、自分でもちょっと信じられない。今回の件がはっきり解決したら、改めて葵…さんにお詫びします。
本当にどれを謝っていいか分からない位だけど、申し訳なかった…!
葵…さん、…また会って貰えますか。」
最後は何だか小さな声になってしまった西園寺に尻尾が生えていたのなら、きっと丸まっていただろう。そんな事を考えながら、簡単に許すのもアレかと思って、殊更真面目な顔で頷いて言った。
「そうだね。確かに聞いたことのない酷い事を言われた気もするし、気を悪くしなかったと言えば嘘になるかな…。でも私も言葉が足りなくて西園寺さんを誤解させた面もあるから。
…取り敢えず今夜は帰って貰っても良いかな。流石にこの流れで寝ようとか言ったら、自分でも色情魔だなって思っちゃうし。本当はこんな形で初訪問じゃない方が良かったよね?また、改めてやり直そうか。」
私の言葉に鞭打たれて、ますます落ち込む西園寺の様子を見つめながら、どこか胸の奥が疼くのを感じた。ああ、何だろう、この感じは。自分でも答えの出ない感情を持て余しつつ、私は西園寺を玄関まで見送った。
西園寺の背中を見つめながら、西園寺がここに来た時は出迎える気分じゃなかった事を思い出して、私も西園寺に愛人と同時進行されたと思ってムカついていたんだと思った。もしかして、私も西園寺に特別な独占欲を感じているんだろうか。
「じゃあ、ここで…。」
そう言って私に振り返った西園寺の表情が変わるのを見て、私は適当に返事をすると、西園寺を押し出す様にして玄関ドアを閉めた。ちょっと締め出した感じになってしまったけれど、無理だった。
きっと顔が赤い。私もΩの性に振り回され始めているみたいだ。
自分がまるで色情魔の様に言われて唖然としてから、実際そんなに酷かっただろうかとちょっぴり反省したりなんかして、恥ずかしさからぐだぐだと言い繕っていると、何故か怒り出した西園寺は私が浮気できない様に噛んで番うと言い捨てた。
それは失言も失言だったし、Ωである自分を尊重されていない様でショックを感じたのは確かだった。何故ここまで言われないといけないのかと、思わずこの男を追い出す事も考えたくらいだ。
けれども目の前で、俯いて頭を掻きむしって呻く西園寺を見つめていると、ああ、西園寺は私に独占欲を出しただけなのかもしれないと気がついた。
普段冷静な振る舞いをする番のアルファが、自分への執着を見せると時として酷く感情的になると、嬉しげに私に話した友人Ωの惚気を思い浮かべたせいだ。
とは言え、婚約者と言えども別に私たちは今現在番でも何でもない。だから西園寺が見せているのはΩを囲いたがるアルファとしての本能なのだろうか。それは私でなくても関わったΩなら感じるものなのかな。
そう考えると、私は年下のこの傲慢な男がアルファとしての性に振り回されているのを見た気がして、何処か憐れみさえも感じて西園寺に声を掛けていた。
多分、私より未熟に感じるこの男が、これから傾きかけた西園寺グループを引っ張って行かざるを得ない重責を思って、正直同情していたんだと思う。
私は子供の頃から大事に守られて、重責などとは無縁で生きてきた。それはオメガバース関係なしに考えると、男としては何とも情けない事だ。それをあまり考えた事が無かったと言うのも、人間として何処か欠けているのかもしれない。
だからと言っていい大人なのだから、西園寺が怒りのままに酷い言葉を言い放った事は無かった事にする気はないけれど、これからの態度次第かなとは思う。
西園寺を落ち着かせようと諭すと、私の手を恐る恐る握り、それからひどく後悔した様子で真摯に私に謝って来た。それから私にとても満足しているとか言い出して、何だか謝罪の方向が逸れてる気がしないでも無かったけど、私は何だか楽しくなって来てしまった。
どう見てもこれはまるで絵に描いたような修羅場だと笑えて来て、うっかりまた余計な事を言ってしまった様だった。
あの小綺麗な青年に酷く腹を立てている西園寺に、私はまぁ西園寺にも原因があったのではないかとも思ったりもしたけれど、これ以上揉める気は無かった。
とことんこの手の事に向いていないんだ、私は。怒りを持続するのも、そこまで他人に関心が持てないせいじゃないだろうか。とは言え、兄さんにこの事が知られたら不味いのは確かだ。下手すれば破談にも成りかねない。
私は自分より熱い体温を指先に感じつつ、破談にするにはこの目の前の年下の男を案外気に入っているんだと思った。実際身体の相性は今までで一番だしね。
私を挑発して来た西園寺の元愛人の件は彼に任せて、この件については如月の方には何も言う気は無かった。カフェに客が来た。実際それだけの話だ。
「…今夜はもう帰ります。無作法な事ばかりしてしまって、自分でもちょっと信じられない。今回の件がはっきり解決したら、改めて葵…さんにお詫びします。
本当にどれを謝っていいか分からない位だけど、申し訳なかった…!
葵…さん、…また会って貰えますか。」
最後は何だか小さな声になってしまった西園寺に尻尾が生えていたのなら、きっと丸まっていただろう。そんな事を考えながら、簡単に許すのもアレかと思って、殊更真面目な顔で頷いて言った。
「そうだね。確かに聞いたことのない酷い事を言われた気もするし、気を悪くしなかったと言えば嘘になるかな…。でも私も言葉が足りなくて西園寺さんを誤解させた面もあるから。
…取り敢えず今夜は帰って貰っても良いかな。流石にこの流れで寝ようとか言ったら、自分でも色情魔だなって思っちゃうし。本当はこんな形で初訪問じゃない方が良かったよね?また、改めてやり直そうか。」
私の言葉に鞭打たれて、ますます落ち込む西園寺の様子を見つめながら、どこか胸の奥が疼くのを感じた。ああ、何だろう、この感じは。自分でも答えの出ない感情を持て余しつつ、私は西園寺を玄関まで見送った。
西園寺の背中を見つめながら、西園寺がここに来た時は出迎える気分じゃなかった事を思い出して、私も西園寺に愛人と同時進行されたと思ってムカついていたんだと思った。もしかして、私も西園寺に特別な独占欲を感じているんだろうか。
「じゃあ、ここで…。」
そう言って私に振り返った西園寺の表情が変わるのを見て、私は適当に返事をすると、西園寺を押し出す様にして玄関ドアを閉めた。ちょっと締め出した感じになってしまったけれど、無理だった。
きっと顔が赤い。私もΩの性に振り回され始めているみたいだ。
870
お気に入りに追加
820
あなたにおすすめの小説
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【4/5発売予定】二度目の公爵夫人が復讐を画策する隣で、夫である公爵は妻に名前を呼んでほしくて頑張っています
朱音ゆうひ
恋愛
政略結婚で第一皇子派のランヴェール公爵家に嫁いだディリートは、不仲な夫アシルの政敵である皇甥イゼキウスと親しくなった。イゼキウスは玉座を狙っており、ディリートは彼を支援した。
だが、政敵をことごとく排除して即位したイゼキウスはディリートを裏切り、悪女として断罪した。
処刑されたディリートは、母の形見の力により過去に戻り、復讐を誓う。
再び公爵家に嫁ぐディリート。しかし夫が一度目の人生と違い、どんどん変な人になっていく。妻はシリアスにざまぁをしたいのに夫がラブコメに引っ張っていく!?
※タイトルが変更となり、株式会社indent/NolaブックスBloomで4月5日発売予定です。
イラストレーター:ボダックス様
タイトル:『復讐の悪女、過去に戻って政略結婚からやり直したが、夫の様子がどうもおかしい。』
https://nola-novel.com/bloom/novels/ewlcvwqxotc
アルファポリスは他社商業作品の掲載ができない規約のため、発売日までは掲載していますが、発売日の後にこの作品は非公開になります。(他の小説サイトは掲載継続です)
よろしくお願いいたします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる