札束でアルファの身体と結婚することにしました

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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婚約

そんなたちじゃない

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 目の前で一人いきどおったり、怒りのまま酷い事を言い放つ西園寺を、私は何処か冷静な眼差しで見つめていた。以前なら付き合う相手がこんな風に感情的になるのを見ると、一気に面倒くささが先に来て関わるのをやめていた。


 自分がまるで色情魔の様に言われて唖然としてから、実際そんなに酷かっただろうかとちょっぴり反省したりなんかして、恥ずかしさからぐだぐだと言い繕っていると、何故か怒り出した西園寺は私が浮気できない様に噛んで番うと言い捨てた。

 それは失言も失言だったし、Ωである自分を尊重されていない様でショックを感じたのは確かだった。何故ここまで言われないといけないのかと、思わずこの男を追い出す事も考えたくらいだ。


 けれども目の前で、俯いて頭を掻きむしって呻く西園寺を見つめていると、ああ、西園寺は私に独占欲を出しただけなのかもしれないと気がついた。

 普段冷静な振る舞いをする番のアルファが、自分への執着を見せると時として酷く感情的になると、嬉しげに私に話した友人Ωの惚気を思い浮かべたせいだ。


 とは言え、婚約者と言えども別に私たちは今現在番でも何でもない。だから西園寺が見せているのはΩを囲いたがるアルファとしての本能なのだろうか。それは私でなくても関わったΩなら感じるものなのかな。

 そう考えると、私は年下のこの傲慢な男がアルファとしてのさがに振り回されているのを見た気がして、何処か憐れみさえも感じて西園寺に声を掛けていた。


 多分、私より未熟に感じるこの男が、これから傾きかけた西園寺グループを引っ張って行かざるを得ない重責を思って、正直同情していたんだと思う。

 私は子供の頃から大事に守られて、重責などとは無縁で生きてきた。それはオメガバース関係なしに考えると、男としては何とも情けない事だ。それをあまり考えた事が無かったと言うのも、人間として何処か欠けているのかもしれない。


 だからと言っていい大人なのだから、西園寺が怒りのままに酷い言葉を言い放った事は無かった事にする気はないけれど、これからの態度次第かなとは思う。

 西園寺を落ち着かせようと諭すと、私の手を恐る恐る握り、それからひどく後悔した様子で真摯に私に謝って来た。それから私にとても満足しているとか言い出して、何だか謝罪の方向が逸れてる気がしないでも無かったけど、私は何だか楽しくなって来てしまった。

 どう見てもこれはまるで絵に描いたような修羅場だと笑えて来て、うっかりまた余計な事を言ってしまった様だった。


 あの小綺麗な青年に酷く腹を立てている西園寺に、私はまぁ西園寺にも原因があったのではないかとも思ったりもしたけれど、これ以上揉める気は無かった。

 とことんこの手の事に向いていないんだ、私は。怒りを持続するのも、そこまで他人に関心が持てないせいじゃないだろうか。とは言え、兄さんにこの事が知られたら不味いのは確かだ。下手すれば破談にも成りかねない。


 私は自分より熱い体温を指先に感じつつ、破談にするにはこの目の前の年下の男を案外気に入っているんだと思った。実際身体の相性は今までで一番だしね。

 私を挑発して来た西園寺の元愛人の件は彼に任せて、この件については如月の方には何も言う気は無かった。カフェに客が来た。実際それだけの話だ。


 「…今夜はもう帰ります。無作法な事ばかりしてしまって、自分でもちょっと信じられない。今回の件がはっきり解決したら、改めて葵…さんにお詫びします。

 本当にどれを謝っていいか分からない位だけど、申し訳なかった…!

 葵…さん、…また会って貰えますか。」

 最後は何だか小さな声になってしまった西園寺に尻尾が生えていたのなら、きっと丸まっていただろう。そんな事を考えながら、簡単に許すのもアレかと思って、殊更真面目な顔で頷いて言った。


 「そうだね。確かに聞いたことのない酷い事を言われた気もするし、気を悪くしなかったと言えば嘘になるかな…。でも私も言葉が足りなくて西園寺さんを誤解させた面もあるから。

 …取り敢えず今夜は帰って貰っても良いかな。流石にこの流れで寝ようとか言ったら、自分でも色情魔だなって思っちゃうし。本当はこんな形で初訪問じゃない方が良かったよね?また、改めてやり直そうか。」


 私の言葉に鞭打たれて、ますます落ち込む西園寺の様子を見つめながら、どこか胸の奥が疼くのを感じた。ああ、何だろう、この感じは。自分でも答えの出ない感情を持て余しつつ、私は西園寺を玄関まで見送った。

 西園寺の背中を見つめながら、西園寺がここに来た時は出迎える気分じゃなかった事を思い出して、私も西園寺に愛人と同時進行されたと思ってムカついていたんだと思った。もしかして、私も西園寺に特別な独占欲を感じているんだろうか。


 「じゃあ、ここで…。」

 そう言って私に振り返った西園寺の表情が変わるのを見て、私は適当に返事をすると、西園寺を押し出す様にして玄関ドアを閉めた。ちょっと締め出した感じになってしまったけれど、無理だった。

 きっと顔が赤い。私もΩのさがに振り回され始めているみたいだ。









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