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可愛いが一番 (お題 二十歳/袴)

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「お前って身体だけは良いからな。和装も見栄えするよ。」

俺がそう言って圭の帯をぎゅっと結ぶと、一瞬息を詰めた圭は鏡の中から俺を見て言った。

「…マサは着ないのか?袴。」

俺より頭ひとつ大きな圭は、何か言いたげに俺を見た。俺は肩をすくめた。

「いつも着てるから、こんな時こそスーツ着たいの、俺は。普段着ない奴が着る事に意味があるんだって。圭はマジで馬子にも衣装だよ。その優柔不断な性格も隠されて凛々しいぜ。」


すると、鏡の中の圭は苦笑して呟いた。

「俺が優柔不断なのは、マサに関係することだけだよ。」

妙な事を言う圭が、いつもと違って見えるのは袴を着ているせいなんだろうか。おっとりしている圭は、いつも騒がしい俺の側で、楽しげにしているのが定番なのに、そんな顔をしてると別人の様に見える。俺が戸惑っていると、圭はにっこり笑って言った。

「ま、いいや。成人式が終わったら、ここでまた脱ぐんだろ?その時に続きは話すから。」


俺は自分の気持ちが漏れ出してるのかと思って、心臓がドクンと鳴るのを感じた。いや、バレてない筈だ。俺は誤魔化す様にジャケットの袖に腕を通した。圭がそんな俺をじっと見つめるから、何だか居心地が悪い。

「マサ、スーツも似合うな。顔が可愛いから。」

俺は圭を睨んで、圭の後ろの姿見を覗き込んでネクタイを整えながら、可愛いは余計だと文句を言う俺をじっと見つめて、圭はもう一度言った。

「…マサは顔だけじゃなく、性格も可愛いよ。俺にとっては可愛いが一番だから。」

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