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王立学校

新入生のお披露目会

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 「…何か緊張するな。」

 広場の柵に寄りかかったマードックが、ソワソワしながらふさふさの尻尾をフワリと動かした。思わず手が伸びそうになるが、流石に僕も迂闊に他人の尻尾にお触りしてはダメだと言うことくらいもう分かっている。

「そうだね。マードックは何系の魔法をお披露目するつもり?」

 マードックは切れ長の目を細めて、口を尖らせた。

「うーん、なんか見てると戦闘系の魔法が多いと思わないか?やっぱり魔物退治に使える様な魔法の方が派手だからかなぁ。でも私は薬の調合系が得意だから、こういう時にそれをどう表して良いか分からないな。無難に火とかで魔力を見せる方がいいのか…。」


 僕は広場に立った次の新入生が、小さな魔法陣を二つ地面に呼び出したのを眺めていた。ひとつから水が吹き出し、もう一方からは炎が燃え盛っている。暫くして魔法陣と共に消えたけれど、大きな拍手が響いた。

「二つの異なる魔法を同時に見せるのは結構レベルが高いな。持続時間もそこそこあった。」

 マードックの評価を聞きながら、僕は一体どれくらいの魔法を見せるべきか悩み始めた。


 在校生の見守る中、実習場で名前を呼ばれた新入生が順番に自分の得意な魔法をお披露目していた。国の仕事に借り出されている上級生の一部を除き、ローブを貰った初日の様に上級生らが僕らを階段席から見下ろしている。

 新入生は15人で、僕はなぜか一番最後だった。この順番がどう言うものかもよく分からなかった。実際王立学校へ入学も、地元の高等学院からの推薦状と一緒に資料を提出しただけだ。あとは王立学校の判断になるので、直接試験があったわけじゃ無い。


 高等学院時代は、白い羽飾りが美しい、スラリとした白鷺族の先生が魔法をひと通り教えてくれたけれど、直ぐに先生よりも魔力の出力が大きくなった僕は、先生とパーカスが相談して作った特別なカリキュラムに沿ってやっていた。

 細かな魔力コントロールが得意だった先生は、僕に自分の技量を余すことなく教えてくれた。先生は卒業間近に真剣な眼差しで僕を見て言った。


 「私はディー君の様な生徒を持てたことを、人生で何度も振り返る事になるでしょうね。君の様な魔力の大きさは望んでも得られない者が殆どです。もちろん寿命の長い竜族ならば可能でしょうが、君の年齢を考えるとそれは驚くべき事です。

 ディー君、君の能力は下手をすると双刃の剣です。パーカス殿の様に武に厚いお方なら魔力がどんなに大きくても大丈夫ですが、いかんせん君は闘う力が無いでしょう?

 悪い事を考える者にとっては、君の力は喉から手が出るほど欲しいものでしょう。この国は平和ですが、周辺国は物騒な情勢もあります。…私は君があまり悪目立ちするのも心配なのです。」


 パーカスと先生が王立学校に飛び級で入学させてくれたのも、そこら辺に理由がありそうな気がした。王立学校の一員になれば、騎士科の学生と協力して力を発揮する場面も増えるらしく、いわば常に護衛が側に居る様な状況になると言う算段があったみたいだった。

 とは言え、そこそこ派手目なお披露目をしないとパーカスの顔に泥を塗る事になるし、後から飛び級がバレた時にあの程度と笑われたくも無い。結局僕もマードックと一緒に顔を顰めて考え込む羽目になっていた。


 「あー、取り敢えず風の魔法で竜巻でも起こすしかないな。あれならそこそこ派手だし、得意な魔法を活かせる。ディーはどんな魔法が得意なんだ?」

 マードックは自分のお披露目が決まったみたいで、どこか吹っ切れた表情で僕を見下ろした。

 僕は順番にもまだ余裕があったので肩をすくめて、マードックに尋ねた。

「ねぇ、マードック。僕ってどんな魔法を使いそうに見える?」

 すると目を見開いたマードックが、首を傾げて顎に指を引っ掛けて考え込んだ。


「君の魔法か…。綺麗な感じの魔法を使いそうだ。キラキラ系の。」

 僕はマードックの返事に苦笑して、すっかり迷いが吹っ切れてしまったマードックをジトリと見て呟いた。

「…キラキラって、星でも降らせろって事?…なるほどね。」

 僕はマードックのヒントから、今回のお披露目でやる魔法を考えついた。そこそこ派手で、そこそこ技量も示せて、あまり驚かれないもの。僕のこれからの魔法専攻人生が掛かっているんだから、慎重にやらないとね。


 マードックの細くて自由自在の竜巻を喜んで眺めながら、僕はギャラリーの方を見回した。マードックに言われて気がついたのだけれど、学生らしい若者達に混じって、大人が何人か観に来ていた。

 学校関係者だろうか。けれども僕の順番が迫っていたので、僕は知り合いがいない事だけ確認すると少し緊張を感じながら柵に寄り掛かった。

 新入生と言えども、流石に最高学府の魔法専攻だけあって、皆の魔法はレベルが高かった。僕は自分でもそこそこ出来る方だと自負していたけれど、予想もつかない魔法を見せる学生も居て、只々びっくりした。


 「マードック、今の見た?凄くない?」

 マードックは呆れた様に僕を見て言った。

「私はディーがまるで観客の様にお披露目を楽しんでいるのが信じられないけどね。言っとくけど、私たちは競い合う間柄なんだよ。そんな嬉しそうに見てるんじゃなくて、歯軋りして見るべきじゃないのかな。」

 そう小言を言うマードックに僕は笑った。

「そうなの?僕にとっては魔法はいつだって楽しい事の一つだけどね。…やばい、順番だ。行ってくるよ。僕の魔法で皆が楽しんでくれると良いな。」


 やっぱり呆れ顔のマードックに見送られて、最後のお披露目者である僕の名前が呼ばれて広場に降り立った。少し騒ついたのはブラック姓を名乗ったせいかもしれない。良くも悪くも竜人の名家の名前は注目を浴びてしまうんだな。

 僕はギャラリーが注目しているのを感じて、少しくすぐったい気持ちで深呼吸した。目立ちたがり屋ではないけれど、さっきマードックに言った自分の言葉で、僕はこのショーがずっと楽しみになっていたんだ。


 僕がサッと手を挙げて上を見上げると、ギャラリーも釣られて目線が動くのが分かった。僕は頭上の空気を振動させてかき混ぜた。空気を冷やすとあっという間に氷の塊がいくつも出来た。

 屋外の実習場はかなりの広さがあったので、僕は予定を変更してそれぞれを更に大きく固めた。そしてそれをキシキシと鋭く尖らせると、手の振りに合わせて一気に地面に突き立てた。


 ギャラリーのどよめきが辺りを包んだ。僕の周囲に突き刺さった氷の柱の真ん中で、調子に乗った僕は柱を指差しながらクルクル独り回った。回る度にスライスされた氷柱の欠片は、僕の指差す方向へとキラキラ反射しながら帯の様に漂った。

 まるで光のリボンの様だと思いながら、僕はそれを頭上に集めて霧散させた。小さくなった氷の粒がパラパラと実習場にゆっくりと降り注ぎ、とても綺麗だ。


 僕が微笑んでその反射して煌めく景色を眺めていると、実習場が妙な静けさに包まれているのに気づいた。あれ、綺麗じゃなかったかな。結構見てて楽しいと思ったんだけど。

 僕が戸惑いながら柵の中へと戻り始めると、場内が一気にどよめいた。ああ、良かった。楽しんでもらえたみたい。僕がニヤニヤしながら柵の中に入ると、新入生達が戸惑った様に僕を迎えた。なんか様子が変だな…。


 「マードック、どうだった?結構面白かったでしょ?」

 僕が呆然としているマードックに声を掛けると、マードックは我に返った様にハッとして僕に言った。

「ディー、一体今の魔法はどうやったんだ!?魔法陣も使わない、杖も使わない、呪文も使わない、そんな事あり得るのか!?」

 僕は首を傾げて答えた。

「え?そこなの?せっかくご期待に応えてキラキラした魔法にしたのにさ?綺麗じゃなかった?」

 するとマードックは額に手を当てて、うめく様に答えた。

「いや、綺麗だったとも!キラキラだったよ!君にピッタリの!感動的だった!でもそこじゃなくってさ!」

 うーん、どうもやり過ぎたみたいだね。新入生だけじゃなくてギャラリーからの視線が集まってる気がするよ…。




 
 
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