竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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放浪記

必要は発明の友

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 僕は魔素の多く含まれている食べ物を、木の箱の上に並べて考え込んでいた。この間のジェシーの時の様に、不意に自分の魔素が減った時に、魔素のたっぷり含まれた魔素バーみたいなモノを直ぐに口にしたら便利だと思ったんだ。

 ミルに魔肉、木の実に果物。魔素の多い食べ物を眺めていると、僕の頭に浮かんだものがあった。濃縮だ。ミルは水分を飛ばして栄養素だけにすれば、魔素は濃縮されそうだし、果物も煮詰めたり干したりすれば濃縮される?

 加工すると魔素が消える可能性もあるので、いちいち調べないといけない。以前ダグラスから渡された魔素リトマス紙を上手く使えばそれも可能かも?


 僕がニンマリすると、ソファでパーカスとボードゲームの様なものをしていたメダが呟いた。

「パーカス、あんたの息子が良からぬ事を考えてるぞ。良いのか、放っておいて。」

 パーカスは、僕と目を合わせてにっこり笑った。

「まだああして眺めている分には心配は要らないじゃろうの。」

 ああ、パーカス。僕は今から粉だらけになるのは必須だから、やっぱり大きくなった方が良いよね?どうせ明後日からブレーベルの高等学院だしね?


 「ぱーかちゅ、僕おっきくなりゅ!」

 僕がそう言いながら自分のリュックの底を探っていると、パーカスは駒を持った手を止めて言った。

「テディ、まだ早くはないかの?明日でも良いじゃろう?」

 僕は首を振って手早く服を脱ぐと、容器から薬を一粒出して口に放り込んだ。最近は変幻も大分慣れてきてちょっと身震いするくらいで治まるようになった。

 違和感を少し爪先でジャンプして振り払うと、相変わらずの長い髪が身体に絡まって鬱陶しい。


 僕はウキウキと寝室へ急ぐと、引き出しの中から白いブラウスと柔らかなズボンを選んで、鼻歌を歌いながら身につけた。ふと視線を感じると、メダが部屋の入り口に寄りかかりながら僕をじっと見つめている。

「お前は羞恥心というものがないのか。変幻するにしても他の者の目に触れない場所でするのが、趣きというものだぞ?まったく幼児のすっぽんぽんでドタバタしたと思ったら、その様な姿の裸体を見せつけて。」


 メダは神さまのくせに、案外細かいことにグチグチ言うタイプだ。僕は片眉をあげてメダに頼んだ。

「それより、この髪切ってくれない?邪魔だから。」

 するとメダはため息をつくと僕の側に来て黒髪を掬い上げた。

「お前の髪は魔素が纏っているのもあるが、張りのある美しい髪だな。なかなかこの様な美しいものは見られない。切る必要があるか?」

 僕はメダの手から自分の髪を引っ張り戻すと両手でひとつにして言った。


 「見てよこれ。こんなに長くて沢山あったら、何も出来ないでしょ。それに結構重くて首が疲れちゃうんだ。ね?切ってよ。」

 するとメダはゆっくり背中から腰の髪の束をひと撫でした。すると不思議なことに撫でた部分は消えてしまった。そしてメダの手の中には少し光る黒い小さな平べったい石が乗っかっていた。

「そっか。僕の髪の魔素を集めたんだね?何かの素材になるのかな。役に立つと良いけど。」

 僕が今から作ろうとしてる魔素クッキーバーに入れても良いかと一瞬思ったけれど、流石に髪から抽出したものを食べる気にはなれない。

 
 メダから渡された髪の魔石を見せると、パーカスは目を丸くした。パーカスがメダに、箱いっぱいの僕の切った髪を魔石にする様に頼んでいるのを笑いを堪えて見つめながら、僕はエプロンをつけてキッチンに立った。

 腕まくりは完了。さて先ずはミルを濃縮させよう。

 これは揺らすと分離してバターみたいになるのかな。小さな瓶に入れて振ると、幸運な事に想像通りになった。魔素の量も濃縮されている。これを使って木の実や果実を練り込んだら魔素の多いクッキーバーになりそうだ。


 大きな瓶にミルをたっぷり入れて両手で振り始めたものの、直ぐに疲れてしまった。それを見ていたパーカスが僕から瓶を取り上げると、同じ様にチャプチャプ振ってくれた。

 うん、竜人舐めてた。筋肉が違うのか、動きが目で追えない…。あっという間に音が変わって、僕は大きなボール状になった魔素バターもどきを木のボウルに転がし落とした。


 後は適当だ。粉や蜜、細かく砕いた木の実、爽やかな匂いのする果実の皮をすりおろして入れたりして、捏ねたら、なんちゃって魔素クッキーバーを形成する。食べやすい例の形状にして穴をいくつか開けると、イメージ通りになった。

 僕はパーカスに頼んで焼きがまにセットしてもらうと、ちょこちょこ確認しながら焼き上がるのを待った。パーカス達も何が出来上がるのかと楽しみに待ってるみたいだ。


 少し焼き色の付きすぎた魔素クッキーバーを取り出してお皿に並べると、メダが僕に尋ねた。

「なんだ、菓子を作ったのか。」

 僕はにっこり微笑んで言った。

「普通のお菓子じゃないよ。魔素がたっぷり入った、特別なやつだよ。僕が魔素欠乏症になった時に、直ぐに食べられる様に作ってみたの。これなら持ち歩き出来るでしょ?食べてみて?美味しかったら良いな。」

 
 早速ティーパーティと洒落込んだけど、パーカスが目を見開いた。

「おお、確かにこれは良いかも知れぬぞ。明らかに魔素が多い。それにしっかりしていて日持ちもしそうじゃ。これに種を混ぜても良いかもしれんの。何より美味しいのう。」

 僕は黙って二本目に手を出すメダを横目に、パーカスに尋ねた。

「種って何?」

 パーカスは魔素食品として流通している、植物の種を教えてくれた。聞いているとハーブの様なものかも知れない。風味と魔素があって魔素クッキーバーにはピッタリかもしれない。


 「…お前は器用だな。我はもう少し甘い方が好きだが、これはこれで美味い。」

 僕が果物を薄く切って乾かしたものなどを入れても良いんだと説明すると、メダは急に家の外に出て行ってしまった。僕とパーカスが顔を見合わせて後を追いかけると、早速林檎もどきの木を育てていた。

 本当メダってこの果実が大好きなんだね!僕がパーカスとクスクス笑っていると、満足気な顔をしたメダが、真っ赤な林檎もどきを幾つかもいで僕に差し出した。


 「ほら、これで作れ。」

 うーん、メダってまるで子供みたいな時があるよね。僕が干すのに時間が掛かると説明すると、切って並べれば直ぐに乾かしてくれると言う。良いんだけど、メダの熱意は買うけど、まだ食べてる途中だからね?

 僕とパーカスはやっぱりクスクス笑いながら、ご機嫌なメダの後をついて部屋に戻った。

 テーブルに転がった幾つかの林檎もどきを眺めながら、僕はパーカスに言った。

「何だかこうしていると、王都の喧騒やあちこちの魔物討伐がまるで別世界のものの様に思えるよね。やっぱりこの場所は良いや。まるで守られている様に、平和だもの。」


 二人は顔を見合わせて何か言いたげだったけど、結局何も言わなかった。やっぱり僕はここが大好き!魔素クッキーバーの出来に気を良くした僕は、すっかり浮かれていたんだ。本当にね?




 



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