竜の国の人間様

コプラ@貧乏令嬢〜コミカライズ12/26

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トラブルメーカー

これは魔素欠乏症

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 パーカスとマクロスに手伝って貰って湯浴みを済ませた僕は、さっぱりした気分で抱っこされて初めて見る場所に連れて行かれた。こぢんまりとした部屋ながら、広い開口部から見下ろす景色は遥か遠くまでよく見渡せる。

 そう言えばこの塔は、この異世界の中では一番高そうな建物なんだ。僕がパーカスの腕の中からじっと外を見つめて居ると、後ろの扉から長老が入って来た。


 「ほう、案外回復が早い様じゃのう。やはりこの子は庇護の元に入ったのやも知れんな。」

 そう言いながら、長老は僕の手をいきなり掴んで爪の色を調べたり、手首を撫でた。僕は思わずサッと長老の手から手を引っこ抜いた。いきなり触られたら怖いんですけど…。

 すると長老は面白そうに笑って、部屋の中心にある丸いテーブルについた。

「まずは食べようかの。この子ももっと魔素を取らねば直ぐにベッド行きじゃ。…パーカス、あのポーションを先に飲ませてやんなさい。」


 後ろについたマクロスが、パーカスにポーションの沢山入った箱を差し出すのを横目で見ながら、僕はテーブルの上に並べられた色々な料理を眺めた。

 見たこともない食材もあるけれど、どれも美味しそうだ。僕は行儀良くパーカスに食べても良いと言われるのを待った。

「テディ、これを飲んだら好きなものを食べるが良い。どれも今のテディには必要なものじゃ。」

 僕は二人がいちいち僕の“必要なもの”に言及するのに気づいていた。けれども詳しく話を聞くよりもまずは腹ごしらえだと、僕の身体は主張していた。


 少し苦く感じるポーションを顔を顰めて飲み干すと、僕はパーカスに取ってもらって魔鳥や卵料理、カラフルな野菜やミル、見たことのない木の実などを端から食べた。

 何というか、食べる端から身体に染み渡るこの感じは、以前感じた魔素欠乏を思い出させた。僕は思わず呟いた。

「僕っちぇ、もちかちて、まそなくなっちゃ?」

 すると長老とパーカスは目を合わせて、二人で僕の方を見た。


 「テディは、そう感じるのかの?」

 僕はパーカスに尋ねられて、少し考えるとコクリと頷いて骨つき魔鳥焼きを両手で持ってかぶりついた。うん、美味い。あまり経験のないハーブ焼きの様な味がするけど、さっぱりしていていくらでも食べられそうだ。

「さっきのポーションが効いた様じゃな。いきなりそれだけ食べても平気そうじゃの。」

 成る程、僕が飲んだポーションは胃薬的なものなのかも知れない。道理で苦い訳だ。パーカスが僕が10日も眠っていたと言ってたから、本当ならいきなり食事なんて食べられないはずだもんね?


 僕のこのいくらでも食べられる感じは、やっぱり魔素不足なんだろう。その時、僕の脇腹が何だかチクチクする感じがした。僕は身体を捻ってみたけれど、そのチクチクは治らない。

 座っていた椅子から足から降りると、僕はブラウスを捲って臍を出した。

「…テディどうした?何か気になるのかの?」

 そうパーカスに尋ねられて、僕は顔を顰めて訴えた。

「チクチクすりゅ!」


 パーカスが慌てて僕のブラウスを捲って身体を見てくれた。その時パーカスが息を呑んで僕の右の背中側を見つめた。つられて見た僕が身体を覗き込もうとしても、ブラウスも着てるし、3~4歳の僕の丸太のような身体では捻っても限界がある。…全然見えない。

「ぱーかちゅ、なにかあっちゃ?」

 パーカスが僕の背中側の脇をそっと撫でるのを感じて、チクチクが少し治った気がした。

「…きもちぃ。」


 いつの間にか長老とマクロスさんが後ろに立って、パーカスと一緒に覗き込んでいた。

「これは…、なんて見事な。」

 マクロスさんの興奮とも、畏敬ともつかないため息混じりの声が聞こえて、僕はパーカスを見上げた。

「ぱーかちゅ、ぼくのからだ、どうかなっちぇる?」

 パーカスは少し強張った表情でもう一度僕の脇を撫でると、ため息をついて言った。

「…さっきよりマシになったかの?少し赤くなっておるが、祭壇の石台に倒れた時に打ったのだろうな。」


 そう言って微笑むパーカスをチラッと見た長老が、テーブルに戻りながら言った。

「さぁ、もっと魔素を取らねばの。其方の息子は食べる側から横取りされるようじゃからのう。」

 まるで誰かに魔素を横取りされるかの様な長老の物言いに僕は眉を顰めた。けれども僕の食欲は、もうチクチクしない脇の事はすっかり忘れて、目の前の朝食を黙々と食べ続ける様に急かした。

 隣でパーカスが、自分の手のひらをじっと眺めて居るのにはその時は気にも止めなかった。でもその時でさえ、僕の身体は以前とはまるで違ってしまっていたんだ。



 祭壇で気を失った僕を調べる必要があるとパーカスに言われて、お昼寝明けに抱っこされて長老の部屋に連れてこられたのは、その日の午後も早い時間だった。

「おお、だいぶ調子が戻ったようじゃな。ほれ、ここに横になりなさい。」

 そう長老に言われて、僕はパーカスにしがみついた。僕の経験上、長老は危険人物なのだから近寄るのは用心しないといけない。しかも長老だけではなく、見たことのない濃い黄色のローブを着た顔の怖い獣人が二人、部屋の奥に立っていた。


 僕はパーカスにしがみつきながら、チラッとその獣人達を見て尋ねた。

「きいろいちと、だれ?」

 すると長老はニンマリ笑って言った。

「薬師じゃよ。まぁ普通の薬師とは違うがの。憑依専門じゃ。」

 何それ。まるで僕が何かに取り憑かれたみたいな言い方。そう言えばマクロスが僕の事、どこかで聞いたような言葉で呼びかけていた気がする。何だっけ…。


 パーカスが僕の頭を撫でて顔を覗き込んだ。

「テディはあの祭壇の石台に倒れ込んだ際、龍神に取り込まれた可能性があるのじゃ。これまであそこに何人もの獣人や竜人が腰掛けたようじゃが、テディのようにはなった事がないのじゃよ。

 じゃからの、塔の記憶に詳しい特別な薬師がテディを診察してくれる事になったのじゃ。今まで眠っていたのは、テディの身体に負担になっていたという事じゃからの。

 目覚めた今、実際どういう事なのか詳しく調べない事には対処できないじゃろう?」


 僕が龍神に取り込まれた?確かにあの部屋には何かを祀る様な祭壇があった。けれども本体の様なものはなかった気がする。あくまでも祭壇の様な箱物があっただけだ。

 そうじゃなければ、それこそ放ったらかしにするはずがないよ。僕はパーカスに尋ねた。

「あのちゃいだん、何も居なかっちゃ。でちょ?」

 すると黄色い薬師達が驚いた様に顔を見合わせた。そして僕たちの様子を見ていた長老が、声を立てて笑った。


 「このおチビさんは時々妙に的を射た事を言うわい。そうじゃの。あの祭壇には龍神は祀っていなかった。だから不思議なのじゃよ。お前さんが龍神と繋がった様子なのがのう。

 さて、調べてすっきりした方が良くはないかの?お前さんも何が起きたか知りたいじゃろう?」

 そう言われてしまえば、僕は早くこの怪しい塔から帰りたかったし、調べなくちゃあの黄色い怖そうな薬師さん達は僕を帰してくれない気がした。

 僕はため息をつくと、パーカスにしがみつきながら口を尖らせた。

「ちらべたら、おうち帰る。じぇったい!」
















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