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ちっちゃな身体じゃ物足りない?

警備隊長side不思議な幼な子

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 ダグラス殿に抱っこされて、汗ばんだ血色の良い顔に綺麗な緑色の瞳をきらめかして、真っ白なワタ虫を抱いている小さな男の子は、あの時の少年と同一人物だとは全然思えない。実際私達と救援に向かったのは、変幻した姿だったのだから違うのはその通りなのだが…。

パーカス殿にテディと呼ばれた幼な子は、まるでそれが正解とでも言う様に長老が悪いのだと言い切った。舌たらずのその言葉は、深刻な話をしていた筈のその場の空気を一気に軽くした。


 ついでに腕から逃げ出したワタ虫を、あちこちに追いかけながらようやく捕まえた可愛い仕草に、私たちはどんな顔をしたら良いか分からなくなっていた。

実際、団長の後ろに控えてメモを取っていた赤竜の騎士は笑いを堪えるのに苦しげだ。一方の青竜の騎士は、酷く心配そうな表情で食い入る様にあの子を見つめている。

何だか波乱の展開になりそうだと思っていると、パーカス殿が団長に話したのはテディの成長の秘密だった。実際塔の長老が関わっているとするなら、話は複雑になり過ぎる。王でさえ、あの長老には迂闊な事は言えないのだから。


 団長は諦めた様に今回の死の沼の件をまとめ始めた。色々考えるのを放棄した様なそのまとめは、実際どっぷり関わった私達に取ってさえ、あまり説明がつかないのだからしょうがない。

今回は犠牲者が出なかった事を喜ぶべきなんだろう。

聞き取り調査の会議が終わって、私はパーカス殿の側に近寄った。あの幼な子は私達に気を遣ったのか、ダグラス殿と手を繋いで先に行ってしまった。私たちはその後ろ姿を黙って眺めた。


 「警備隊長には感謝するぞ。あの子はいやでも注目されがちだ。これ以上王都に呼びつけられる様な目に遭わせたくなかったのじゃよ。」

パーカス殿の言葉は、やはりあの救出劇であの子、いやあの少年の果たした大きな役割を私が黙っていた事への感謝だった。もしあの少年が目の前にいたら、流石に私も黙ってはいられなかったかも知れない。

けれどもワタ虫を抱いてご機嫌なあの幼な子テディが、それを成し遂げたとあえて言うのは、少し違うかと黙っていたのは確かだった。


 「実際ディーがした事は、テディがしたとは言えませんからね。ここにディーが居ないのですから、確認が取れない事は言っても詮無きことでしょう?

…ディーはパーカス殿を助けようと必死でした。自分ができる事を言い切って、私に選択の余地を与えませんでしたからね。実際彼が成し遂げた事は大きいでしょう。

森の中でいちいち魔物と対峙していたら、捜索は時間も掛かって時間の猶予は無くなっていたでしょうから。…騎士の一人があと半刻遅かったら、もしかしたら息ができなくなっていたかもしれないと青ざめた顔で私に証言しました。

彼の足元は他より柔らかかった様です。ディーは私たち砦騎士達の命の恩人です。本当に感謝しかない。」


 私がそう言うと、パーカス殿は黙って私に手を差し出した。それはテディに関わる余計な事を流布しないと言う暗黙の了解だった。私はパーカス殿と握手をしながら、騎士団長の聞き取り調査が終わった事にホッとして、思い出し笑いを堪える事が出来なかった。

「ふふ、ふ。それにしてもさっきの幼な子は傑作でしたね。緊張感のあるあの場のど真ん中でワタ虫を追いかけて。騎士団の定例会議にいつもあの子が居てくれたらどんなに癒されることか。ははは。

しかし団長と一緒に来ていた若い騎士達は、あの子の事を知っている様子でしたね。特に青竜族の彼は随分心配そうな顔であの子を見ていましたよ。」


 私がそんな取り止めもない事を言うと、パーカス殿が眉を顰めて不機嫌になった。

「…ああ、確かに彼らは何度かここに来た事があるからの。特にバルトはテディの事を気に掛けすぎておるわ。」

私はパーカス殿のいかにも気に食わないトーンで暗に意味した事に気がついて、思わず目を見張った。無い話では無いけれど、あの幼な子への竜人の執着だとすれば、それは番いという事になるのだろうか。

獣人にも番いの様な執着心は芽生える事はあるけれど、竜人のそれとは比べようも無い。しかもパーカス殿はそれを苦々しく思っているのを隠そうともしない。


 「…確かに成長したディーは、我々とはまるで違って見えましたね。彼は竜人なのでしょう?私の知る竜人とも違う気がしましたが、まだ年若いせいでしょう。パーカス殿の心配も良く分かりますよ。」

その場はそう言ったものの、ダグラスの屋敷で皆でご馳走になってからすっかり肩の荷を下ろして家に帰ると、待ち構えていた末っ子のジャックが私にこう尋ねて来た。


 「お父様、今日領主様のところでテディに会いましたか?テディが寝込んでいるって聞きましたけど、もう大丈夫なんですか?…良かった!倒れたって聞いて、僕本当に驚いたんです。

そうだ、テディが砦の事を知りたがっていたので、今度一緒に砦に連れて行ってもいいですか?」

口を開けばテディと、夢中で私に畳み掛けるジャックに、私は何とも言えない気持ちになった。ああ、あの子はジャックも虜にしたのか?


 「ジャックはどうしてそんなにテディの事が気に入っているんだい?確かに可愛いけれど、小さいから可愛いだけじゃないのか?」

するとジャックは少し顔を赤らめて口を尖らせた。

「お父さんはテディの事をよく知らないから。テディは可愛いのは勿論そうなんだけど、なんて言うか、凄く思い切りがいいっていうか、ある意味カッコいいんです。…下手すると僕より男気があるかもしれない。

それなのに、手を繋いで欲しがったり、凄く甘えん坊なところがあるから、何だか放って置けないんです。僕は本当にテディが好きなんです、お父さん!だからテディが喜ぶ砦に連れて行ってあげたいな。ね?いいでしょう?」


 結局私も、末っ子の息子には甘い親なのだ。今日はジャックの望み通り砦にテディを招待した。勿論砦の騎士達もディーの活躍は暗黙の秘密になっていたせいで、迷惑がる者は居なかった。

おまけにパーカス殿もテディの保護者として一緒に砦に来てくれたので、武運名高いパーカス殿に憧れる者達が多い王国騎士団の我々は、手放しで歓迎した。


 ダダ鳥に乗ってパーカス殿の胸にククられたテディは、到着時は眠そうな顔をしていたけれど、砦を見た瞬間目をパッチリ開けて叫んだ。

「ほわー!ちゅごい!かこいいー!」

そんな手放しで喜ばれると、我々も満更ではない。先に来ていたジャックは喜び勇んでテディに駆け寄ると、手を繋いで私の所まで二人で駆けてきた。


 「おちぇわになりまちゅ!」

舌足らずなのに、一人前の物言いに出迎えた騎士や野次馬の従者達も頬が緩みっぱなしだ。どうもテディは空気を緩ませる。私は咳払いして皆に持ち場につく様に言うと、パーカス殿に挨拶した。

「警備隊長、無理言ってすまんのう。昨日からテディは張り切っての、私にも質問攻めじゃったわ。最近の国境の様子はどうなのじゃ?」

私は肩をすくめて答えた。

「まぁ、いつも通りという具合ですね。小物が国境を越えようとチョロつくという具合です。最近は隣国のリリパスも内戦でこちらへちょっかいを掛ける余裕もない様ですし。」


 我々の話を聞きながら、私をじっと見上げていたテディは何か言いたげな顔をしていた。けれどジャックに呼ばれると、引きずられる様にしながら、二人で砦の中へと走って行った。

「テディはこの砦を見て何を感じるでしょうね。少し聞いてみたい気がします。」

私がそう呟くと、パーカス殿は面白げに笑って言った。

「誠に。テディは我々には無い視点を持っとるからの。きっと面白い事を言うかもしれぬな。」


 












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