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ちっちゃな身体じゃ物足りない?

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 眺めの良い頑丈な物見櫓モノミヤグラの様な見張り場に立って、僕は石の間から眼下を見下ろしていた。僕はチビだから石の上に顔が出ないんだ。

あえてなのか、見張り番の囲いには細い隙間がある。ここから攻撃も出来そうだ。僕は側に立つパーカスに尋ねた。

「ぱーかちゅ、いっぱい戦っちゃ?」

僕の言葉に釣られて手を繋いでいるジャックも、好奇心に顔を輝かせてパーカスを見上げた。


 僕たちに見上げられて苦笑したパーカスは、国境から臨む隣国を見回して言った。

「そんな時代もあったのう。じゃが、ここ200年は平和なものじゃ。流石にこの竜の国のガリバー国に戦を仕掛けられる様な力のある国が減ったかもしれんの。

最近は武力と言うよりは、潜伏と諜報活動で内部から火種を起こしてこの国の不安を煽る、そんなやり方が増えてきた気がするのう。」

僕はパーカスの言葉を聞きながら、何か引っかかった。何だろう。何かが気になる。僕が顔を顰めていると、ジャックが僕の顔を覗き込んで言った。


 「テディ、大丈夫だよ。この砦は今までにどんな相手も潜入を許していないんだから。僕の父上がバッチリ守ってくれているんだ、心配しないで?」

そう誇らしげにジャックが僕に言い切るので、僕もにっこり笑って言った。

「うん。ちょうね。ジャックのおとうたん、ちゅごい強ちょうだっちゃね?」

ジャックは嬉しそうに笑って、僕を砦のとっておきの場所へ行こうと誘った。僕はもう少し見張り場に居たかったけれど、流石に仕事の邪魔になるかと思ってジャックに続いて降りようとした。


 「テディにはまだ無理じゃのう。」

そう言われて僕はヒョイとパーカスに抱き上げられた。そう言えば登る時もパーカスに抱っこして貰ってたんだ。ハシゴの間隔が広過ぎて足を踏み外してしまう。ジャックでさえギリギリだ。
 
僕はため息をつくと、不本意ながらパーカスに抱き上げられたまま、最後にひと目見張り場から地上を見下ろした。さっきと違って背の高いパーカスに抱っこされると眺めは最高だ。その時国境の境目の岩場に明るく光る何かを感じた。

「…ぱーかちゅ、待って!」


 ハシゴを降りようとしたパーカスを止め置いて、僕はマジマジとその光の正体を見定め様と睨みつけた。あれは魔物じゃ無くて魔力だ。パーカスの魔力に似た光り方をしているけれど、あんな所に何か魔法を使用しているのだろうか。

「あちょこ、光っちぇるよ。まほおだ。なんのまほお?あ、いくちゅもあるねー。」

するとパーカスは僕の指差した所をじっと見つめた。よく分からない様で、物見番の騎士に尋ねた。

「こちら側のあの、黒い岩の近くに何か仕掛けをしてあるのかの?あんな場所に魔法など仕掛けるかの?」


 すると、物見番の騎士はマジマジとその岩の辺りを見つめて首を振った。

「いいえ、私は何も聞いていません。多分そんな仕掛けはしていない筈です。…確認した方が良さそうですね。おい、ここ交代してくれ!」

兵士にそう頼むと、騎士は僕らと一緒に砦の本部へと向かった。んん?何だか大事になってきたなぁ。

「定期的には直接国境付近を見回っていますが、いかんせん範囲が広くて、焼石に水です。」

確かに目視で見回るのは大変そうだ。動きのあるものならきっと見張り場からもチェック出来るだろうけど。何と言っても獣人や竜人のそこら辺の潜在能力は人間を上回る。


 本部に到着すると、物見番の騎士があのおじさん騎士に申告していた。おじさん騎士は僕らの方を見ると、真っ直ぐに僕に顔を向けて尋ねてきた。

「坊ちゃんは、今度は何を見つけたんだ?」

ジャックが酷く深刻そうな表情で、おじさん騎士に言った。

「ハーバーさん、国境に何か魔法が仕掛けられているみたいだってテディが言うんです。実際どうなんですか?」

するとハーバーと呼ばれた騎士は顔を顰めて僕をジロリと見た。


 「坊ちゃん本当か?俺は聞いてない。おい、警備隊長に確認してくれ。俺は見に行ってくる。パーカス殿、一緒に御足労願えますか?」

あらら、本当に大袈裟な事なってきたぞ?慌ただしくなった中、結局僕らと一緒にハーバーさんと子分の兵士ら二人が黒い岩場に見に行く事になった。

「足元に気をつけるんだ。ここら辺は岩が露出していて、簡単に手が切れたりするからな。手袋は大きすぎるし、困ったな。」

そう言いながら、僕の手とジャックの手に薄い布をぐるぐる巻いてくれた。これで岩場に手をついても大丈夫そうだ。とは言っても、僕はパーカスに抱っこされてるけどね。


 「テディ!こっちはあんぜんなルートだよ。どこら辺が光ってるの?」

僕は身軽なジャックに見惚れながら、キョロキョロと周囲を見回した。上から見た時はハッキリ見えたけど、角度が違うのでよく分からない。

僕は目を閉じて魔力を感じる事にした。瞼の裏にぼんやりと明るい光が見える。僕は目を開けて指差した。

「ありぇ!」

ハーバーさん達が指差す方向に登って行った。

 
 「あったぞ!これかもしれない!」

そう一人の兵士が岩場の間を指差した。ジャックがスルスルと登って行って、それに手を伸ばした。その時突然パーカスが叫んだ。

「ジャック、触れてはダメじゃ!どんな物かわからぬでの!」

ビクっと強張った顔をこちらに向けて、ジャックはゆっくり僕らの側へ降りてきた。

「じゃっく、こあいねー!どきどきちたよ!」

僕がそう目を見開いて言うと、ジャックは青い瞳を曇らせながら気まずそうに言った。

「確かにパーカス様の言う通りです。いつも父上に注意する様にって言われていたのに…。岩の隙間に手のひらサイズの黒い玉のような物が挟まっていました。」


 パーカスは眉を顰めて僕を地面に降ろすと、ジャックと待ってる様に言って仕掛けられた魔法を見に行った。騎士らとパーカスが何やら話し合っているのを眺めながら、僕は周囲を見回した。

切り立った岩場の続くこの天然の国境は、外部から敵を寄せ付けない気がする。そう考えると、こちら側から仕掛けた物なのかな。それってもし砦の作戦では無いとすると、味方の中にスパイがいるって事なのかな。


 僕がそんな事を考えていると、パーカス達が黒い丸い球の様な物を幾つか手にして騎士らと戻って来た。

「これは火球じゃ。必要な時に魔力で破裂させて周囲を破壊させるのじゃよ。昔は戦いの際に良く使用されたものじゃ。テディ、もうこの辺りには無いかの?」

僕はもう一度目を閉じて魔力を感じてみた。もう光ってない。僕がコクリと頷くと、おじさん騎士のハーバーさんが顔を顰めて深刻そうに呟いた。


 「しかし考えたくは無いですが、それはこの砦内に裏切り者がいるという事ですか。仕掛けられた場所を考えると、内部の者の犯行です。しかしどうしたものか…。犯人探しは難航を極めそうです。怪しく思える者に心当たりはありません。」

僕はパーカスや騎士らの手の中の黒い爆弾的魔法物を見つめながら呟いた。

「…わかりゅよ。このまりょくの色、ちょっとおもちろいから。これちかけたちと、まほおつかえりゅ。」

さっきから気になっていたのは、この魔法物の色だった。パーカスの魔力にはパーカスの独自の色、瞳の色に近いもので錆色の赤や黒が揺らめくのだけど、この魔法物にも似たような独特な魔力がかすかに感じられた。薄い赤色は珍しい気がする。


 僕はその色を分析するのに忙しくて、周囲の皆が驚きの表情で僕を見つめている事に気づかなかった。そう言えば、魔力が見えるのってレアな力だったんだっけ。はは、すっかり忘れてたよ。






 












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