81 / 127
二度目の砦生活
シンとの遭遇
しおりを挟む
揺らめく渦が終わる頃、私は気を引き締めて待った。足元に柔らかな絨毯が触れるのを感じた瞬間、私は剣を構えた。
まだ夜の開け切らない薄暗い中で、周囲を見渡すと閨の遮断幕の向こうからシンの喘ぎ声と囁き声が聞こえた。もっと口づけて?今聞こえたのは私の幻聴だろうか。
私は心が凍りつくような気持ちになったが、用心深く足音を立てないように近づいた。
その時、遮断幕を巻き込みながらドサっと何か重量のあるものがベッドから落ちた。私が飛び退いて剣を突き出すと、そこには金色の長い髪の男が倒れ込んでいた。私は咄嗟に第二王子と思われるその男を手近にあった紐のようなもので拘束した。
ベッドの上にはほとんど裸の状態で苦しげに息を荒げているシンがいた。
「シン⁉︎大丈夫か!」
シンは指を唇に立てて私に静かにするように指示すると、虚な扇情的な眼差しで途切れ途切れに囁いた。
「…いま、男に白の魔法を…直接注ぎ込んだんです…。閨の魔法が…強くて…僕…、動けない…。」
私は閨の魔法が効きすぎて朦朧としているシンに口づけると、ゆっくり自分の魔力を注いだ。他人の魔力をシンの身体に馴染んだ私の魔力で中和させてみた。シンはゆっくり目を開けて大きく息を吐くと、ふらつきながらも立ち上がった。
「…なんとかなりそう。ジュリアン、…この男はどうしますか。」
私は足元に転がっている裸の第二王子を苦々しく見下ろして言った。
「この男は夜の国の第二王子だ。生かしておいては危険だ。またシンが狙われる。」
シンは私の剣を握った手を押さえると言った。
「この男が第二王子…。もし王子を殺したら、夜の国は総力で…我が国に向かってくるでしょう?…それでは砦は持ちません。私達は素知らぬフリで…、ここを脱出しましょう。僕もこの状態では…逃げるので精一杯です。」
シンは息を切らしながら、囁いた。じんわりと濡れる汗がまだ閨の魔法の影響下にある事を伺わせた。
私は昏倒している第二王子の拘束を強めるとベッドに転がして、シンの代わりにクッションを押し込んで閨の偽装をした。
その間に、シンは第二王子のシャツとズボンを引っ張り出してきて、呻きながら着ると窓を指差した。
扉の前には護衛が詰めているだろうから、窓から逃げるというのだろうか。私は頭の中に敵の砦の縮図を思い浮かべた。
シンは私の前に立ち塞がると、私の腕を掴みながら真っ直ぐに見つめてきて言った。
「砦の中を行くには、…今の動きの悪い僕を連れて行くにはジュリアンでも勝算が低いです…。僕は壁ならロープで降りる事が出来る。地上に降りたら、ジュリアンには戦ってもらう必要があるかもしれないけど…。僕はジュリアンを犠牲にしたくない。
僕を愛してるなら、…必ず生きて戻って。」
まだ夜の開け切らない薄暗い中で、周囲を見渡すと閨の遮断幕の向こうからシンの喘ぎ声と囁き声が聞こえた。もっと口づけて?今聞こえたのは私の幻聴だろうか。
私は心が凍りつくような気持ちになったが、用心深く足音を立てないように近づいた。
その時、遮断幕を巻き込みながらドサっと何か重量のあるものがベッドから落ちた。私が飛び退いて剣を突き出すと、そこには金色の長い髪の男が倒れ込んでいた。私は咄嗟に第二王子と思われるその男を手近にあった紐のようなもので拘束した。
ベッドの上にはほとんど裸の状態で苦しげに息を荒げているシンがいた。
「シン⁉︎大丈夫か!」
シンは指を唇に立てて私に静かにするように指示すると、虚な扇情的な眼差しで途切れ途切れに囁いた。
「…いま、男に白の魔法を…直接注ぎ込んだんです…。閨の魔法が…強くて…僕…、動けない…。」
私は閨の魔法が効きすぎて朦朧としているシンに口づけると、ゆっくり自分の魔力を注いだ。他人の魔力をシンの身体に馴染んだ私の魔力で中和させてみた。シンはゆっくり目を開けて大きく息を吐くと、ふらつきながらも立ち上がった。
「…なんとかなりそう。ジュリアン、…この男はどうしますか。」
私は足元に転がっている裸の第二王子を苦々しく見下ろして言った。
「この男は夜の国の第二王子だ。生かしておいては危険だ。またシンが狙われる。」
シンは私の剣を握った手を押さえると言った。
「この男が第二王子…。もし王子を殺したら、夜の国は総力で…我が国に向かってくるでしょう?…それでは砦は持ちません。私達は素知らぬフリで…、ここを脱出しましょう。僕もこの状態では…逃げるので精一杯です。」
シンは息を切らしながら、囁いた。じんわりと濡れる汗がまだ閨の魔法の影響下にある事を伺わせた。
私は昏倒している第二王子の拘束を強めるとベッドに転がして、シンの代わりにクッションを押し込んで閨の偽装をした。
その間に、シンは第二王子のシャツとズボンを引っ張り出してきて、呻きながら着ると窓を指差した。
扉の前には護衛が詰めているだろうから、窓から逃げるというのだろうか。私は頭の中に敵の砦の縮図を思い浮かべた。
シンは私の前に立ち塞がると、私の腕を掴みながら真っ直ぐに見つめてきて言った。
「砦の中を行くには、…今の動きの悪い僕を連れて行くにはジュリアンでも勝算が低いです…。僕は壁ならロープで降りる事が出来る。地上に降りたら、ジュリアンには戦ってもらう必要があるかもしれないけど…。僕はジュリアンを犠牲にしたくない。
僕を愛してるなら、…必ず生きて戻って。」
50
あなたにおすすめの小説
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜
キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」
平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
オメガ転生。
桜
BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。
そして…………
気がつけば、男児の姿に…
双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね!
破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!
クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました
岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。
そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……?
「僕、犬を飼うのが夢だったんです」
『俺はおまえのペットではないからな?』
「だから今すごく嬉しいです」
『話聞いてるか? ペットではないからな?』
果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。
※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)
九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。
半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。
そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。
これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。
注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。
*ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる