怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

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高等部一年生

004

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 あと二か月もして春休みを挟めば、BLゲーム「ぼくきみ」のゲーム主人公くんが編入してくるというこの時期。
 既にぼくと怜くん、眞宙くんの幼なじみ三人は生徒会に入り、一年生役員として働いていた。
 怜くんが生徒会副会長を務め、ぼくは書記補佐、眞宙くんは会計補佐といった具合だ。
 生徒会長は、前任者からの指名で、役職に関係なく一年生役員から選ばれる。
 今年は、順当に怜くんが生徒会長になることが決まっていた。
 他の役員もそのまま繰り上がりだ。
 三年生は受験があるため、生徒会に残ることはない。

「本日の議題は、引き続き一年生役員の新規募集についてだ」

 怜くんの落ち着いた声に、意識が集中する。
 このところ放課後は毎日、現一年生役員で会議が行われていた。
 新一年生を迎えるにあたって、一足早く役職に馴れるためだ。繰り上がりとはいえ、今までは補佐に過ぎなかったからね。

「凄い倍率になりそうだよね」

 何せ怜くんや眞宙くんとお近づきになる絶好の機会だし。
 怜くんは、財閥五家の中でも特に歴史がある、名法院家の跡取り。
 眞宙くんの佐倉家も名法院家と肩を並べる財閥五家の一つで、眞宙くんは次男坊だった。
 国内の金融に関しては、古くからある財閥五家が牛耳ってるといっても過言ではない。幼稚舎で名法院家と佐倉家の子息と交友を深められたぼくは、金融部門が弱い新興財閥である湊川本家から、とても褒められた記憶がある。
 誰がどう考えても、役員への立候補が殺到するのは目に見えていた。
 ぼくの発言に、怜くんが頷く。

「黙っていても立候補者は集まるだろう。だが生徒会としては、募集用の窓口を設置すると共に、広報を行う必要がある」
「まずは広報について決めようか」

 眞宙くんが引き継ぎ、例年の予算資料を配る。
 やることは決まっているので、会議の進行はスムーズだ。
 ただ庶務や広報、監査といった役職になることが決まっている同級生たちが、会議で発言することはほとんどなかった。どうしても怜くんや眞宙くんに遠慮してしまうみたい。

「例年通り、役員の選考は、立候補者の経歴とレポートでするとして……広報用のポスターは必要なのか?」
「それは必要でしょ!」

 ぼくは力いっぱい頷いて答える。
 広報用のポスターは新しく就任する生徒会長の告知も含まれていて、今年そこに映るのはもちろん怜くんだ。
 毎年一年生役員の募集と、その後のポスター争奪戦はワンセットになっている。
 ちなみにぼくは現役員特権で、ポスターを確保する予定です。A2サイズで刷られた怜くんの写真とか、垂涎ものでしょ!

「一緒にキャッチコピーを入れるのはどうかな?」
「へぇ……面白そうだね」
「おい、選挙ポスターじゃないんだぞ」

 眞宙くんがのってきてくれたので、ぼくは思い浮かんだキャッチコピーをすぐさま口にしてみる。
 怜くんの抗議はスルーの方向で。

「『宇宙を見上げたとき、視界に映るシルバーウェイ、それが俺様さ』」
「意味が分からん」
「えっとね、シルバーウェイは怜くんの銀髪とかけててね!」
「却下」
「じゃあ……『海に行きたい? ならば鋭い瞳の奥に隠された、俺の海に溺れるがいい』」
「却下」
「むぅ。『人は俺をこう呼ぶ……地上に降り立った奇跡、イエスッ、クールビューティー怜様! と……』」
「却下だ、却下! そもそも呼んでるのは、お前だけだろうが!?」

 見事に全却下された。
 ぼくの正面に座る眞宙くんは、顔を背けながら肩を震わせている。
 他の役員の反応も似たりよったりだ。
 即席で考えた割には、よくできてると思うんだけどなー。

「キャッチコピーなどいらん! 前から思ってたが、保、お前俺にケンカ売ってるだろう!?」
「そんな!? ぼくは至って真剣なのに!?」
「なお、たちが悪い! 壊滅的なセンスのなさを自覚しろ!」
「えぇっ!?」

 ショックだ……我ながら力作だったのに。即席だけど。

「あはは、僕は好きだけどね。特に最後の……イエスッ、ふふっ……クールビューティー……あははははっ」
「ありがとう、眞宙くん!」
「完全に笑われてるだろうが!」
「怜っ、クールビューティーが、崩れっはははは」
「お前も笑い過ぎだ!」

 眞宙くんの笑顔に、ぼくもつられて笑顔になる。
 気に入ってもらえたなら嬉しい。いや、ぼくは至って真面目だよ?
 しかし、どんどん怜くんの顔が凶悪になってきてるので、キャッチコピーは諦めよう。

「仕方ないなぁ、じゃあキャッチコピーはなしの方向で……」
「当然の結論だな」
「ポスターの部数は一万部ぐらいでいいよね?」
「……どうして在校生の三十倍もの数を刷る必要があるのか説明しろ」
「親御さんやOBに配る分を考えたら、少ないぐらいだよ?」
「配るな! 必要なのは校内に貼る分だけだ!」
「えぇっ、怜くんのポスターだよ!? それじゃ絶対足りないって! ポスターを巡って暴動が起きてもいいの!?」

 怜くんの写真はただでさえ入手困難なのに!
 親衛隊の中でも、遠くから写したものしか流れてないのに!

「そんなことに予算を割けるか! 第一、俺のポスターなんぞ入手してどうする気だ!」
「部屋の四面に貼るに決まってるでしょ。あ、天井にも貼るから五面? それと、一枚は保存用ね?」
「却下」
「酷いっ!」
「まぁまぁ、保も落ち着いて? どちらにせよ、怜のポスターにプレミアが付くのは避けられないと思うし。それに保にだったら、怜もプライベートで写真を撮らせてくれるんじゃないかな」

 笑いは収まったものの、目尻に涙を溜めた眞宙くんの言葉に、本当……? と上目使いで怜くんを見る。しかし目が合うと、サッと目を逸らされた。
 やっぱりダメなのかと思った矢先、ため息混じりに了承の声が聞こえてきて耳を疑う。

「…… 保も 一緒に写るなら、考えないこともない」
「ぼくも一緒に写っていいの!?」
「ただし、他には流すなよ」
「えぇー」

 ぼくが写っているところを切り取って流せば、親衛隊のみんなとも幸せを共有できると思ったのに。

「それが条件だ」
「うぅ、分かったよ。ぼくはそれで救われるとして、ポスターの数は本当に例年通りでいいの?」
「問題ないだろう? もし暴動が起きるようなら、風紀委員に徹底させろ」
「風紀委員からも文句出そうだけどなぁ」

 風紀委員の仕事には、学園内の治安維持も含まれている。
 そして親衛隊長であるぼくは、わけあって彼らと顔を合わせる機会が多い。
 だからか、暴動を予見できるなら、まずその芽を潰せと言われる気がしてならなかった。

「直接、俺に文句を言えるなら聞いてやる」
「氷の帝王様を相手に……?」

 幼なじみのぼくや、眞宙くん相手だからこそ怜くんも口数が多いけど、他の人に対しては大抵ポーカーフェイスで接している。
 火のないところに煙が立たないように、二つ名の氷の帝王様や、ぼくがクールビューティーと評するのは伊達じゃないんだ。
 怜くんが唇を結べば、その整い過ぎた容姿から一瞬で周囲への威圧感が増す。
 それに加え、歴史ある名法院家の名がチラつけば、人が萎縮するのは当然だった。
 一般の人からすれば、一学生に対して大袈裟だと思うかもしれない。
 けれどそれは名法院家の影響力を知らないからだ。少しでも知る立場にいれば、根の葉もない噂ですら忌避したいと思う。触らぬ神に祟りなし。家の名前を背負う鳳来学園の生徒にとって、怜くんは正しくそんな存在だった。

「検討に値する意見なら、俺は話を聞く」

 たとえ、怜くんが己の権威を不必要に誇示しない人であっても。
 どちらかと言うと、その他大勢の人の心境のほうが分かってしまうぼくとしては、難しいだろうなぁと思う。
 ぼくが気楽に怜くんと接せられるのも、湊川本家からしてみれば、簡単に切り捨てられる分家の人間だからだ。しかも三男坊。ぼくは家を背負う立場にない。
 学園の中で、怜くんの名法院家と対等に渡り合えるのは、眞宙くんの佐倉家だけだろう。
 思わず眞宙くんに視線をやると、苦笑が返ってきた。

「怜の言い分はもっともだけどね……僕たちの立場的に、進言や諫言を受けるのが難しい実情があることは、理解してるだろう?」
「ふんっ、俺相手に怖気づくようでは底が知れている」

 ぼくの意を汲んでくれたのか眞宙くんが諭してくれるけど、怜くんは中々に手厳しい。
 あぁ、でもだからゲーム主人公くんの言葉にも、怜くんは耳を傾けるんだ。家名に惑わされず、ちゃんと意見が言える相手を、怜くんは尊重する。
 ここは風紀委員の人に頑張ってもらうしかないかなぁ。
 そんなことを考えていたからか、机の上に置いてあったぼくのスマホに、風紀委員の知り合いからチャットでメッセージが入る。
 そこに書かれていた内容に、すぐさま席を立った。
 怜くんがぼくを見る。

「問題か?」
「親衛隊関連でちょっと……。悪いけど、少し席を外すね」
「その様子だと急ぐ用件らしいな。終わったら戻ってこい」
「うん、じゃあ行ってきます!」

 悲しいかな、親衛隊関連で呼び出しを受けるのは、これがはじめてじゃない。
 怜くんにも引き止められることはなかった。
 ぼくがいないほうが会議が進むと思ったのかもしれないけどね! ……強く否定できない程度には、自覚があります。
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