婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺

文字の大きさ
上 下
6 / 14

05.手紙

しおりを挟む
あれからしばらく経つが夢から覚めることはない。これが現実なのかと思い始めた時、私宛に一通の手紙が届いた。

それは送り主の記載がない奇妙なものだった。開けるかどうか迷ったが失うものなど何もないと思いなおした。ペーパーナイフで丁寧に何かおかしなことがないか確認しながら開けた。

腕力が戻らず、とても時間がかかって開いたそれにはこう書かれていた。

 『逃げろ、バーミリオン小公爵は狂っている』

ただ、それだけ。とても乱れた文字でそれだけ書かれていた。

(一体誰がこの手紙を書いたのだろうか?)

差出人に心当たりは全くない。ただひとつわかるのはこの人物は何かを知っているということ。

リベリオンの何か仄暗いものがあることを忠告している。とりあえず私はその手紙を鍵付きの引き出しにしまった。

その日の夜、リベリオンがやって来た。最近は仕事が終わった夜に必ず訪問してきた。

「シルビア、体の調子はどうかな?」

『大丈夫よ』

そう、リベリオンからもらったペンで書いた文字を見せた。まだガタガタで汚い文字だけど書ける様になっただけマシだ。

「無理をしてはだめだよ。まだ君はしゃべれないし、歩けないし、手もまともに動かないのだから」

そう言いながら、リベリオンは優しく私の髪を撫でた。こうなってからリベリオンは髪を撫でたり、車椅子に乗せて外に連れて行ったりかいがいしく世話を焼いてくれた。

だから聞いてみたくなる。あの手紙のこともあり、リベリオンを疑ってもいたから。

『リベリオンは私を愛していないと思っていた。それなのにどうして優しくするの?』

そう書いて文字を見せる。するとリベリオンは急に頭を下げた。

「すまない、君が私を許せないのは分かっている。私はずっと君をないがしろにしてきたから。けれど……君を失いかけて気づいたんだ。君が私の一番大切な人だと」

真摯に謝られるが、それがやはりピンとこない。

こういう言葉を言う場合、そのふたりには親しい期間や何かがある気がするけれど私とリベリオンは私が一方的に追いかけていただけで、彼からはその想いに対して何かを感じている風には見えなかったから。

『嘘。失ってもどうでも良いような存在だったはずよ』

「そう思われていたのだね。全て私が悪い。だからせめて遅いかもしれないけれど、これからは君をずっと守らせてほしい。婚約者が殺されそうになるなんて恐ろしい思いは味わいたくない」

その言葉に以前なら泣いて喜んでいただろう。けれどなんだか、彼といると言い知れない胸騒ぎがするのだ。それは全てが嘘または嘘の中に真実を混ぜているような感じがする。

(確かに婚約者を殺されそうになったらショックかもしれない。だとしても興味のない婚約者に対してこんなになるだろうか?まるで愛しているというように態度が変わるものだろうか?)

あの手紙の言葉がよみがえる。

『逃げろ、バーミリオン小公爵は狂っている』

確かに何がかはわからないが、私もリベリオンは何かおかしいと思った。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。

香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。 疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。 そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

【完結】愛していないと王子が言った

miniko
恋愛
王子の婚約者であるリリアナは、大好きな彼が「リリアナの事など愛していない」と言っているのを、偶然立ち聞きしてしまう。 「こんな気持ちになるならば、恋など知りたくはなかったのに・・・」 ショックを受けたリリアナは、王子と距離を置こうとするのだが、なかなか上手くいかず・・・。 ※合わない場合はそっ閉じお願いします。 ※感想欄、ネタバレ有りの振り分けをしていないので、本編未読の方は自己責任で閲覧お願いします。

【完結】小さなマリーは僕の物

miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。 彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。 しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。 ※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)

処理中です...