婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺

文字の大きさ
4 / 14

03.優しい婚約者

しおりを挟む
それはおかしい話だった。

あの後、またリベリオンがやってきた。そしてその手に沢山の花束を持っていた。

(今まで直接花束を持ってきたことなんか一度もなかったのに……)

彼は私に対して必要最低限の礼節は守っていたが、なにひとつ私の好きなものをくれたことはなかった。それは興味がないことを暗に示しているようで愛していた分胸を締め付けられたのを覚えている。

それなのに……

「君が好きなオレンジ色のガーベラだ。受け取ってくれるかな?」

ガーベラは私の好きな花で、一番すきなのはリベリオンの言う通りオレンジ色のものだった。ガーベラには「光に満ちた」「希望」「前進」という前向きな花言葉があり、そのまっすぐさに惹かれた。

(ガーベラのような女性になりたい)

ずっとそう願った。薔薇のような端麗な色香も、百合のような崇高な清楚さも、私は持っていない。けれどガーベラのどこか親しみがありながらも美しいその姿は私にとって限りない理想だった。

「ありがとうございます」

そう口にしたがやはり声は出ないらしい。しかしそんな私に彼は優しく話しかける。

「無理はしないでいい。そうだ、しゃべれないと言っていたのでこれも持って来たんだが……」

それは、紙の束、綺麗な青いガラスペンに金色の珍しいインクだった。

(どれもとても高価なものだ……)

すべてが品が良い、極上の品なのが分かる。そして私が宝石やドレスよりも好きなものだ。

(本当に幸せな夢ね。リベリオンがこんな素敵なプレゼントをくれるなんて)

涙が流れていた。どうしたって手に出来なかったものを現実でない世界でも手に入れている。どうせならこのまま夢が覚めないで死ねたらいいな。

そんなことを考えた。

さらに信じられないのが、私の涙をリベリオンが持っていたハンカチで拭ってくれたのだ。リベリオンは潔癖症で私の手を取るのも表情を歪める人だったのにだ。

「何か気に入らなかったかい?」

その言葉に首を振る。とても嬉しくて泣いたのだから。それを伝えるべくもらったガラスペンを持った、けれどびっくりするくらい重くてうまく持てない。

「可哀そうに。すまない全て私のせいだ」

そう言って頭を下げるリベリオン。

(そういえば、リリアが私を突き落としたって聞いたけどどうして突き落としたのだろう……)

あのまま行けば私との婚約は近いうちに破棄されただろうし、リリアはリベリオンと婚約できたかもしれない。確かに身分差はかなりあるがその辺りは社交界でのことを考えればそこまで問題にならなかったかもしれない。

「リリアが君に嫉妬してあんなことをするなんて……」

その言葉に目を見開く。リリアに嫉妬したのは私で、間違えてもリリアに嫉妬されるようなことはなかったはずだ。強いていうなれば私が婚約者という事実くらいしか彼女が嫉妬する要素はない。

私が首を傾げると、リベリオンはとても私を抱きしめた。

「可哀そうに。君にはあの日何が起こったか話す必要があるね」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます

ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」 王子による公開断罪。 悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。 だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。 花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり—— 「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」 そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。 婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、 テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!

攻略対象の王子様は放置されました

蛇娥リコ
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

【完結】婚約破棄した王子と男爵令嬢のその後……は幸せ?……な訳ない!

たろ
恋愛
「エリザベス、君との婚約を破棄する」 「どうしてそんな事を言うのですか?わたしが何をしたと言うのでしょう」 「君は僕の愛するイライザに対して嫌がらせをしただろう、そんな意地の悪い君のことは愛せないし結婚など出来ない」 「……愛せない……わかりました。殿下……の言葉を……受け入れます」 なんで君がそんな悲しそうな顔をするんだ? この話は婚約破棄をして、父親である陛下に嘘で固めて公爵令嬢のエリザベスを貶めたと怒られて 「そんなにその男爵令嬢が好きなら王族をやめて男爵に婿に行け」と言われ、廃嫡される王子のその後のお話です。 頭脳明晰、眉目秀麗、みんなが振り向くかっこいい殿下……なのにエリザベスの前では残念な男。 ★軽い感じのお話です そして、殿下がひたすら残念です 広ーい気持ちで読んでいただけたらと思います

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?

夕立悠理
恋愛
 ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。  けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。  このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。  なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。  なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。

処理中です...