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48.この世界に何のために生まれ変わったのか、何のために生きていくのか

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※少し暗い展開があります。


「やぁ、ルーク元気かい」

そういつもの性別不明の軽く明るい声が聞こえた。神様っていつも思うけど暇なのかもしれない。

「いや、この状況が元気とかないですよ。大体なんで僕はガチ監禁されてるんですか?」

「うーん、それは言えないかな。ただ……」

そこでいままでおちゃらけていた神の様子、というか姿はないので空気と言うべきかが変わる。

「これはすごく良くない方角へ進んでいる」

「良くない方角って……まさか僕、死んだりしませんよね?」

わざとおどけた調子で聞いたのに、神は何も言葉を返さない。それが沈黙の了解をしているようだった。今まで散々ふざけてきているが、そんな危険性もある世界だったなんて。

でも僕の記憶しているBL本の世界ではそんな展開はなかったはずだ。あくまで叔父様と僕との追いかけっこが主体で、ヤンデレの兄上が出てくるけれど死に直結するような内容はなかった。エッチなことは盛沢山だったけど……。

つまり今のような状況には陥っていないはずだ。

(まぁ、最新刊読んでないから言い切れない部分ではあるけれど、前世の記憶だとそもそも僕の今って序盤の巻に近い展開だからな……内容だいぶ変わってて正直前世の小説の記憶が役に立ちはしないけど……)

「いや、でもなんでこんなことになったかくらいは神様教えてください」

「……誰かが幸せや願いを叶えるとき、誰かが泣いていることがある。その世界でも同じだよ。君が幸せになるのを快く思わなかった、が生まれてしまった」

「誰ですかそれ?」

「予定外の人物だからね。君は先ほどほんの一瞬、攫われる前に会ったけど、直接的に出会っていないし、顔も知らないだろうね。小説の本筋には名前さぇ出ていないよ、けれど……だからこそ自由に動けてしまった、主人公の君をここに連れ去ってしまうくらいに……本来の運命なら君はあの後、廃嫡問題の話をなんやかんやうまくまとめて、叔父様と幸せに暮らすことになるはずだった。それが、こんなことになるなんて……」

つまり、神様の枠外にいた名前も与えられていない存在が、運命を塗り替えて、僕を連れ去っていったと……。

「でも、叔父様なら僕にきっと気づいてくれますよね?」

しかし、神様は答えない。多分答えてはいけないのだろう。いままでのことから叔父様が僕を見つけられないというのは本来の枠の中なら絶対ないことだ。

ただ、枠外だとそれが有効かが分からない……そんなのは困る。僕は当然、死にたくない。

前世で社畜として生きて、気付いたら死んでしまってこの世界に生まれ変わった。会社に使い潰されてなんの意味もないように過労で死んだ。

恋も愛もなくあったのは仕事だけで過ごした日々。だからって仕事にやりがいを求めた訳じゃない。やらないと生きていけなかった、それだけだ。

二次元だけが癒しだった。エルフのお姉さんと触手をこよなく愛していた、薄い同人誌を大量に作るくらい。

そして同じような生き方をしている、姉がいた。でも姉はもう少し上手に生きていた。少なくとも社畜ではなかったはずだ。

両親は僕らには無関心だった。むしろ育ったなら早く追い出したいとさぇ思われていただろう。

だから上京して都内に住んでからは、完全に疎遠になった。叔父様のような愛情深い人というのには、あの人生では出会わないまま、僕は死んだ。

きっと孤独死だったのだろうが、姉が葬式を上げてくれたとは思う。後、エグイ触手系の同人誌も燃やして処分してくれたと信じている。

この世界がBL本の中だと知った時は、絶望した。なんでエルフのお姉さんといちゃいちゃ出来るタイプのチート主人公ではないのか、意味が分からないとも思った。

けれどこの世界で、僕を大好きだと思ってくれる人達に出会って、良いか悪いかは別として沢山甘えさせてもらって愛されてきた。

そして、僕は掛け替えのない出会いもした。僕のためならそれがどんなことでも必ず、向き合ってくれる人に出会った。孤独など感じさせないくらい、ずっと側にいて愛してくれる人だ。ついさっきまで確かに感じていた叔父様のぬくもりを優しさを何もかもを思い出した。あんなに当たり前にあったのに、こんなのは残酷すぎる。やっと叔父様と結ばれることも了承したのに、どうして……

(叔父様に会いたい……)

前世の僕は、最期の瞬間まで誰かに特別と思われるでもなく暗い狭い汚い、まるで今いるような部屋でひとりっきりで孤独に逝ったのだろう。死んだ瞬間は覚えていないけれど最期に見たのは20日ぶりに帰った我が家の電気だったはずだから。

気付いたら泣いていた。涙が止まらなくなっていた。しかし泣き叫んだりはしない。泣き叫ぶのは誰かが助けてくれるからだ。今の僕に叫ぶ意味がないのだから。

「君のお姉さんがね、この世界に君を生まれ変わらせたいと強く願ったんだ」

神様の声がする。けれど何か答える気分ではなかった。そんな僕にさらに神様が続けた。

「お姉さんがこの小説が大好きだったのは知っているね?この世界の中でルークって主人公はみんなに無償で愛されて、色々残念だけれど幸せな子だった。だからお姉さんは若くして孤独に逝ってしまった君が、誰かを愛することも愛されることもよく知らなかった君が、次に生まれ変わるならば今度こそ誰かと愛し愛されてほしいと願った」

僕が死んだあと、姉はそんなことを願ったのか。姉は確かに暴君だったけれど僕のことを唯一心配してくれる人だった。

「……運命が、世界の運命が変われば必ず捻じれが生じる。その捻じれが君についに牙を剥いた……。けれど、僕も君のことをこの世界に生まれ変わらせたいと願ったお姉さんもハッピーエンドを望んでいる」

ハッピーエンド。そうだ、僕だって幸せになりたい。孤独は嫌だ。今度こそ愛する人、叔父様と一緒に生きて、死ぬ最期の瞬間に「とても幸せだった、ありがとう」といって逝きたい。

そう強く願ったとき、ペンダントが淡く光を放ったのが分かる。

「これは……」

僕がそれについて聞こうとした瞬間、目が覚めていた。
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