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番外編・その①
しおりを挟むその日は朝から、少しお腹が張るような感覚があった。
私のお腹はもう産み月という事でパンパンだ。
私は元々小柄なせいか、お腹が前に前に迫り出しており、足元が見えず、階段の上り下りをレオ様から禁止されている。
今は1階の客間での生活だ。
今、私はその客間で、アンナと、テーブルクロスに刺繍をほどこしていた。
料理長のトーマスの妹さん(お名前はリンさん)がこの度、目出度く結婚の運びとなった。
お相手は第5騎士団の騎士だという(お名前はディックさん)。
第5騎士団の団員の殆んどが平民の出身だが、騎士という命懸けの仕事の為、やはり給料が良いらしい。
市井の女性にモテる職業なんだとか。
リンさんとディックさんは町の小さな教会で式を挙げ、我がランバード邸の中庭でガーデンパーティーをする予定だ。
トーマスは我が家の庭を使う事に、
『滅相もない』と最初は遠慮していたが、別に減るもんでもなし。
邸の皆の説得もあり、なんとかトーマスが了承した。
そのガーデンパーティーで使用するテーブルクロスに、2人のイニシャルと花の模様を刺繍している所だ。
式はあと4か月後。
何故ならお相手のディックさんが今王都を離れているからだ。
とはいえ、私は妊婦であまり目を酷使してはいけないと言われている為、ほんのちょっと手伝っているだけで、殆んどがアンナの作品だ。
「アンナ、少し休んだら?」
「ふぅ。そうですね。ちょっと休憩にしましょうか」
「じゃあ私がお茶を淹れるわね」
と私が席を立つと、
「奥様!そんな事、私がやりますよ!」
とアンナが慌てて立ち上がる。
アンナを休ませる為なのに、これでは本末転倒だ。
「いいの、いいの。私がやりたいんだから」
と慌てるアンナを座らせて、私はお茶を淹れた。
「ところで…アンナの方はどうなってるの?」
「どう…とは?」
「トーマスとの結婚よ!だって妹さんが結婚するまではってトーマス言ってたじゃない。
妹さんの結婚は決まったんだし、もう待つ必要はないでしょ?
だってお付き合いしてるんだし」
アンナとトーマスは2ヶ月程前からお付き合いを始めたらしい。
トーマスは歳の差があるからと、最初は渋っていたようだが、アンナの粘り勝ちだ。
「まぁ…そうなんですけどね…。でも私からは言い出しにくいって言うか…やっぱりプロポーズって男性からして欲しいじゃないですか?」
…その言葉を聞いて、私はふと考える…私レオ様にプロポーズってされたかしら?
確かに、周りを騙す為に、『好き』だとか『恋した』とか『運命の相手』とか…でもそれも周りの人へ向けた言葉で、私へのプロポーズではなかったような…私が物思いに耽っていると、
「奥様?ボーッとしてますけど、大丈夫ですか?今日はもうお仕舞いにしましょうか?」
とアンナが心配そうに顔を覗き込んできた。
「あ、ごめんなさい。ちょっと過去を思い出していて…いや、別に何でもないの。
じゃあ、アンナはトーマスのプロポーズ待ちって事ね」
「といっても、まだ付き合って2ヶ月程ですし、リンの結婚式が終わらないとトーマスも落ち着かないんじゃないですかね?」
「そうよね。ちょっと私の気が急いてしまったわ。アンナお茶のお代わりいかが?」
と私が立ち上がろうとした時、お腹に痛みが走った。
「あ、痛ッ」
私はお腹を抱えて踞る。
「奥様!大丈夫ですか?ベッドに休みましょう。すぐに医者を呼んで参ります!」
と暫くすると、痛みが遠退いていく。
「…もう痛くないわ…」
と言って私が立ち上がると、
「奥様、それは陣痛の始まりかもしれませんね」
「そうね。お医者から痛みの間隔が短くなってきたら産まれるって聞いたわ。
じゃあ、痛みが始まる時間を計っておきましょう。間隔が短くなってきたら、お医者を呼んで?」
「わかりました。とりあえずベッドに休んでおきましょうか?」
「そうね。今は痛くないから今のうちに休んでおきましょう。
ワンピースは着替えた方が良いかしら?」
「お医者から産む時にはコレをと言われた簡易ワンピースがございますので、そちらに着替えておきましょう」
私達は、痛みのないうちにとアレコレ整えていく。これも2人で妊娠、出産について勉強したお陰だ。
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