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お母様の愛情
しおりを挟む翌日、お母様が我が邸へやって来た。大量の荷物とともに。
「お母様。お元気でしたか?」
私が、嬉しさからお母様に駆け寄ると、
「レベッカ!走ってはなりません!」
と早速叱られた。
「すみません。でも、お母様のお顔を見たら我慢できなくて…」
「レベッカは結婚しても変わらないわね。でも、もう母親になるのだから、落ち着きなさいな。
……元気そうで良かったわ。レオナルド様の事で心配もしたでしょうに…」
そう言うと、お母様は私の頭を撫でてくれた。
「お母様……どうぞお入りになって?ところで…そのお荷物は?」
「これ?これはアレックスが持ち込んだ新しい技術で加工した果物と、赤ちゃんに必要な物よ。
今はあまり沢山食べれないでしょう?
果物なら食べやすいかと思って。
あなたの好きなジャムもあるわよ。
赤ちゃんに必要なおしめとか、おくるみとか…色々よ。張り切って作ったのよ」
とお母様はニコニコと微笑んだ。
私達は応接室で久しぶりの会話を楽しむ。
「私がおばあちゃんになるなんて。
アレックスもサミュエルも結婚すらする気配がないんだもの。
それにあなたも結婚出来ない可能性が高かったし、私、孫は諦めないといけないかと思ってたの」
そう言うお母様は、本当に赤ちゃんを楽しみにしているようだ。
「お母様にそんなに喜んでいただけるなんて…嬉しいです」
「当たり前でしょう?可愛い娘の子どもよ?きっと、どちらに似ても可愛い子になるわ。
お父様もとても喜んでいらしたのよ?これ、お父様から預かってきたわ」
そう言うと、お母様は男女、色々な名前の書いた紙を出してきた。
「…これは?」
「赤ちゃんの名前候補!もちろんレオナルド様やあちらのご両親が名前を付ける可能性が高い事はわかっているの。
でも、もし迷った時には参考にして欲しいって。
お父様、あなたに赤ちゃんが出来たって聞いてから、毎晩考えてらしたの」
その紙には、全部で30以上の名前が書かれている。
……今まで見たことのない両親の姿に、私はすっかり困惑していた。
いや、衝撃を受けたと言っても過言ではない。
私とお母様はお互いの近況を話し、久しぶりの再会を喜んだ。
「お母様、もうお帰りになるの?」
「今日はサミュエルの所に泊まるわ。
今はアレックスはタウンハウスに居ないのでしょ?」
「はい。お兄様は今、ルーベンへ行かれてて…」
「今回は…本当に衝撃的な事件だったわね」
「お母様は…アレックスお兄様が王宮で働いている事、どう思ってらっしゃるの?」
「私は元々、アレックス程優秀なら、お父様の補佐だけではなく、能力が活かせる所で働いても良いのではないかと思っていたの。
それはお父様も一緒のお考えよ。
お父様もまだまだ現役。
いずれ伯爵位を継いだとしても、領地に籠って仕事をする必要はないから」
「そうだったのですね」
「まぁ、アレックスの生きる原動力はレベッカ、あなたですからね。
領地でも、王都でも、あなたが居る所がアレックスの居場所なのよ。
……あなたが結婚すれば、少しはマシになるかと思っていたけれど、…無理みたいだしね」
とお母様は苦笑した。
お母様は夕食はサミュエルお兄様と取りたいからと行っていそいそとコッカスのタウンハウスへ向かった。
お母様はアレックスお兄様もサミュエルお兄様も自分の子のように愛している。
子どもの頃は、不満に思う事の多かったお母様の言動だが、自分が母になろうとしている今、お母様の愛情の深さに尊敬にも似た思いを持つようになった。
他人の子を、自分の子として育てる事…それは言う程簡単じゃない。
これからも母には色々教えて貰いたいと、素直にそう思えた。
その日、いつものように夕食には間に合わない時間に戻ったレオ様から、私は衝撃的な事実を聞く事になる。
「ガンダルフ侯爵夫人とソフィア嬢が違法薬物の売買に関わっていた。ガンダルフ侯爵は夫人との離縁を決めたようだ」
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