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その96

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クリス様は、

「頭を下げる必要はない。侍女の件は了解した。
しかし、今度は人間の侍女を用意する時間はないぞ?あの2人をまた王城に呼ぶか?」

「いえ。あの2人も、ランバンへ行く支度が御座いますので、今は彼女達の手を借りるつもりはありません。
もちろん、人間の侍女でなくて構いません。ミシェル殿下は、それに否を唱える事はないでしょう」

「そうか。本当に変わったのだな」

「はい。きっとアーベル殿下とはご縁が無かったのです。お互い、この結果が最善であったと思える日が来るでしょう」

「…わかった。では、侍女は直ぐに手配しよう。王太子妃教育については、フェルト女史に一任するつもりだが、それで良いか?」

「もちろんで御座います。ミシェル殿下も今、ランバンについて学んでいる所です。その後、少し私の教育に時間を割いてくれるとの事でしたので、その時に侍女をお借りいたします」

「あぁ。…その…嬉しいよ。前向きに…捉えてくれて」

「ミシェル殿下に負けぬよう努力をすると誓いましたので、私は私に出来る事を精一杯務めさせていただきます。
あの…殿下のお話と言うのは?」

私はクリス様に呼び出された目的を訊ねた。

「…まぁ…俺の為ではないよな…うん。わかってた」

「はい?何か仰いましたか?」

小さな呟きでは、私の耳には届かない。

「いや、呼び出したのは…これだ。この婚約証明書にサインを貰いたい。1枚はこの国。もう1枚はアルティアに提出する」

「はい。わかりました。では2枚サインをしたら宜しいのですね」
と、私は椅子に座り証明書の置かれた机に向かう。

その婚約証明書には、すでに2国の陛下のサインと私の父親のサイン、殿下のお父上であるセシリオ・ベルマン公爵のサインと、殿下のサインが書かれていた。
後は、私のサインを残すのみ。

…ちょっと緊張する。これを書けば、私はクリス様の婚約者になるのだと思うと、手が震えそうだ。

私は目の前のクリス様をチラリと見上げた。

「ん?何だ?今さら嫌だとは言わんだろうな」
と怪訝そうに私を見るクリス様。

「いえ。少し緊張しただけです。覚悟は決まりました」
と私は改めてペンを握り直しサインを書いた。

「よし。これで後は提出のみだ。許可はもう出てるからな。晴れてお前は俺の婚約者だ。婚約のお披露目は1ヶ月後だ」

「え?!1ヶ月後ですか?」

早くないか?それまでに、この国の貴族を覚えろと?

「堅苦しく考える必要はない。お前は俺の横に立っておくだけで大丈夫だ」

…そういう訳にはいかないだろう…あぁ…明日から猛勉強だと私は頭を抱えた。
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