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その19
しおりを挟むこの国の王太子であるクリスティアーノ・ベルマン殿下は、現在のベルガ王国国王の息子ではない。
国王ブルーノ陛下の王兄、セシリオ・ベルマン公爵の嫡男だ。
ブルーノ陛下にも3人の王子が居るが、王太子にはクリスティアーノ様が選ばれた。
これは実力的な問題で、この国では当たり前の事。
ブルーノ陛下だって、前国王の息子ではない。この国では、それが当然なのだ。
実力がある者が王位に着く。もちろん、それでも王位継承権の無い者から選ばれる訳ではないのだが。
そして、この国の王族は、他国から伴侶を娶る事が殆んど無いに等しい。絶対にないわけでは無いが、この大陸にベルガ王国の他に獣人の国は少なく、人間が治める国が殆んどである為、人間をあまり好ましく思っていない獣人にとっては、他国と婚姻関係を結んで、繋がりを強化するよりも、戦をして支配下に置く方が、利益があると考えられているのだろう。
殊更、今回のミシェル殿下とアーベル殿下の結婚は稀なケースだと思われた。
ミシェル殿下が戻る前に部屋に戻らなければと私が廊下を急いでいると、
「おい」
と、私を呼び止める声がした。
私が振り向くと、クリス様が立っている。仮面はまだ着けたままだ。
「クリス様。この城までの道中、護衛に着いて頂きありがとうございました」
と私が改めて感謝を口にすると、
「ああ。そんな事はどうでも良い。この後、何かあるのか?」
と訊ねられた。
何かあるか…って私には殿下のお世話をするという仕事がある。
「謁見から殿下がお帰りになる前に、居室へ戻りませんと…」
と私が答えると、
「他の侍女に任せれば良いだろう?」
と言われる。
流石に、この城に到着した当日に、殿下の側を離れるのは可哀想だし、何より他の侍女などいないのだ。
「申し訳ございません。今日は殿下もこの城に到着したばかり。些か心細くもあるでしょうし、それに、殿下の専属侍女は私しかおりませんので」
と私は頭を下げた。
「心細いねぇ…至って元気に吠えていたがなぁ。まぁ、それは置いといても、専属侍女が、お前だけとは?どういう事だ?」
…待って、聞き捨てならない言葉があったんだけど?
殿下…謁見の間で何かしたの?
「あの…もしや、クリス様は謁見の間におられたのですか?」
「あぁ、居たぞ」
「では、もう謁見はお済みになったという事ですね?」
「まぁ、そう言う事だな」
私は慌てた。
もう殿下が部屋に戻っているかもしれない。不味い!
「クリス様、お話の途中ではございますが、私、部屋に早く戻らねばなりませんので、これにて失礼いたします!」
と、私は走らないギリギリの早足で部屋に向かう。
後ろでクリス様の、
「おい!ちょっと待て!」
と言う言葉に振り返りもせず私は先を急いだ。
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