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67話

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「気が重い……」
と鏡の前でため息をつく私にマーサは、

「会いたくないですか?」
と私の髪を編み込みながらそう言った。

「家に居た時だって殆ど顔を合わせた事がなかったんだもの。今更どんな顔して会えば良いのか……」

「堂々とされてれば良いんですよ。クレア妃陛下はこの国の王妃ですよ?誰にも頭を下げる必要はないんです。胸を張って会えば良いんです」
とマーサに発破をかけられるも、私の気持ちはなかなか晴れなかった。


面会の部屋へと私が入ると父親は喜色満面の笑みで立ち上がった。

「クレア!!久しぶりだな。元気にしていたか?」
と両手を広げて私に向かって来ようとするのを、

「無礼者!下がれ!」
とロータス様が剣に手をかけて牽制した。

父親はロータス様のその剣幕にギョッとしながら渋々椅子に座り直した。

私は一段高い場所に置かれた豪華な椅子になるべく優雅に腰掛ける。
マーサに言われた通り、堂々と、堂々と、と心がけながら。

「ドノバン伯爵、ご機嫌よう。それで、私に用……と言うのは?」

「おいおい。他人行儀だな」

「………他人ですので。で、用は?面会を求めたのはドノバン伯爵の方ですよね?用がないのであれば、お引き取り願えますかしら?」

母が亡くなってから……いや亡くなる前からも、この男に可愛がられた覚えも、守られた覚えもない。
確かに母が亡くなるまで、貴族令嬢として必要な事柄を身につける為の教育はつけて貰った。それは今になって感謝はしている。でなければ、今以上にサイラス女史からこてんぱんにやられていたに違いない。

「お前は私の可愛い娘じゃないか。エマが亡くなった今、私にはもう家族はお前しかいないんだから」

エマは私の母の名だ。この男の口から聞きたくない。

「貴方の家族は今捕まっている三人でしょう?それとも貴方は家族に使用人の真似をさせる趣味でも?」
と私が言えば、目の前の男はばつが悪そうな顔をした。

「陛下から聞いていないか?マギーとは離縁した。もう私には関係のない女だ。逮捕される様な女どもが私の家族の訳はないだろう。
私はマギーの外面に騙されていただけだ。あの時の私はどうかしていた。エマを亡くした辛さから逃れる為にマギーの甘い言葉に騙されたんだ……。お前に辛く当たっていたのはエマに良く似たお前を見ているのが苦しかったんだ。許して欲しい」

………ロータス様に切り捨てて貰っちゃおうかしら?
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