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30話

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「宿に近衛が数人やって来て『ここにクレア、・ドノバンは居るか』って。
女将さんは『そんな人居ませんよ。他を当たって下さいな』って答えたらしい。
で、女将さんが俺に『クレアを捕まえに来たのかもしれない。あの連中が帰って来る前にクレアは隠そう!!』って慌てて。
俺も実は訳が分からなくて。詳しいことは何にも聞かずに此処に来たんだ。………クレア、クレアがそのドノバンってやつなのか?なんで捕まるんだ?」
とサムは私に尋ねた。

『一家全員皆殺し』
あの客の言葉が私の脳裏に蘇る。
私は今の今まで自分は全く関係ないと思っていたが、お家取り潰し……連帯責任だと言うなら私も対象だと言うことか。
確かに私は家出した。がしかし、除籍されていないとしたら?私は勝手に父が私を喜んで除籍しただろうと思っていた……いや思い込んでいた。

女将さんもあの時、お客様の会話を聞いていたのかも……そして私が自分を『クレア・ドノバンだ』と言った事はないが、もしや!と思ったのかもしれない。
女将さんは意外と勘が鋭いから。



私はゆっくりとサムに自分の過去を話す。

「確かに私はクレア・ドノバンと呼ばれていたけど、それは昔の話。色々あって……家を捨てて出てきたの。
もうすっかり実家の事なんて忘れていたのに……。
私には義理の姉が二人居て……どうもそのどちらかが、王太子殿下に薬を、媚薬を盛ったらしいの。
この前宿屋に来たお客様が話しているのを偶々聞いて初めて知ったわ。実家は取り潰し。一家は連帯責任で全員処刑だとも言っていたの」
と私がそこまで言うと、

「ま、まさか!!それでクレアを探しに来たと?」

「わからないけど……今考えられるのはそれぐらいしか思いつかないわ。だって他に思い当たる事もないし。
まさか家を捨てた私にまで責任が及ぶとは私も思っていなかったけど、実際近衛が私を探しているのなら……」
と私は言葉を切った。

サムはアイザックを抱く私の手を握り、

「クレア、やはり俺達結婚しよう。それなら、もうクレアはその……ドノバンとかいう家とは縁が切れる。そうした方が良い」

「ダメよ!そんな事をしてサムにまで迷惑がかかったらどうするの?私、そんなの耐えられない」
と私は強く首を横に振った。

「そんな事は心配しなくて良い。きっと大丈夫だ」
と私の手をもっと強く握るサムに私は、何も言えなくなった。

サムの好意に甘える?でもそれで私が罪を逃れられるのかは確証がない。しかし……

「サム……もしも、もしもよ?私が捕まる様な事があれば、アイザックだけでも助けて貰える?アイザックは本当に何も関係がないの」

私はイライザが媚薬を殿下に使うつもりなのは知っていた。知っていたが、まさかそんな馬鹿な事をするとは思っていなかったし、あの家を出た私にはもう関係のない事だとも思っていた。

あの時、私がもっと強く彼女を諌めていれば……そう考えると自分には責任があるかもしれないと思える。しかし、アイザックは別だ。アイザックだけは何としても守らなければならない。
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