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看護師失格⑵
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「ハァ……」とパソコンの画面を見ながら、ため息が漏れる。すでに就業時間は過ぎていたが、カルテ処理がなかなか進められないでいた。原因はわかっている。先程看護主任と看護師長に呼ばれて、休憩時間に颯の病室に行くことを禁止された。以前から颯に入れ込みすぎていると注意を受けていたが、他の患者から1人の患者だけ特別扱いしているとクレームがあったらしい。颯の担当を外すことも考えたようだがそれは何とか流れたようでほっとした。確かにやり過ぎていた部分があることは自覚している。
2回目のため息が出かけたところで、名前を呼ばれ顔を上げると吉志が立っていた。
「へこんでるなぁ。あとどれくらいで終わる?よかったらこれから飯でもどうだ?」
「え、あ、はい……もう終わります」
駅前はイルミネーションで華やいでいて、もうすぐ来るクリスマスまでを大いに盛り上げていた。指定された居酒屋の暖簾をくぐると、然程大きくない店内で、先に来ていた吉志をすぐに見つけることができた。
「お待たせして、すいません」そう声をかけて、向かい側の椅子に腰をおろす。
「先に始めちゃってたし構わないよ。お疲れさま」
テーブルには、お通しらしい小鉢と枝豆があり、ビールを注文するとビールと一緒にすでに吉志が注文していた熱々の卵焼きが運ばれてきた。
「それじゃ、ま、お疲れ様」
吉志のあげたグラスに軽く合わせて、一気に3分の1ほどあおる。
「湖城と飲みに来るの、ホント久しぶりだな。今まで不思議なくらい担当がかぶることがなかったもんな」
「そうですね。今回一緒に担当できて、勉強になりました。それに……颯くんのこと、ありがとうございました」
「ん?改まってお礼言われるようなことしたっけ?」
颯の担当替えにストップをかけたのが吉志だと、今日呼び出されたときに聞いていた。決して湖城のためではないとわかってはいるが、颯との繋がりを切られなかったことに、不思議なくらい安堵していた。
「担当替えのこと……」
「あー。でも、湖城のためじゃないよ。やっと状態が安定してきて気持ちも上向いたのに、ここで担当変わったら、彼また落ちちゃうでしょ。出来るだけ、環境の変化は起こしたくないしね」
「はい……わかってます」
最近の颯のコロコロ変わる表情を思い出して、湖城の行動によってまた、あの空虚な状態の颯にしてしまう可能性があることに、改めて背筋が冷える。唇を噛み締めながら、テーブルの木目をじっと睨み、顔が上げられない。
「しっかし、彼のこと心配なのはわかるけど、お前ももう少し上手くやれよ。あんなにあからさまに絡んでたら、目立ちまくるだろうが。それでなくても患者さんは、限られた空間にいるんだから、自分だけを特別に見てほしいとか、かまってほしいと思ってるんだからさ」
「えっ……」
颯のメンタルの危機を招いた湖城に、怒っているのかと思いきや意外な方向に話が向いて、テーブルから視線を上げる。
「俺の軽率な行動に怒ってるんじゃないんですか?」
「まあ、軽率だとは思うけど別に起こってるわけじゃないよ。実際、郁島くんが元気になったことは湖城の存在がすごく大きいと思うし」
「俺……颯くんの力になってあげれたんですかね……」
「いつになく弱気だな。お前の明るさと行動力で、郁島くんを引っ張り上げたと思ってるよ。だから、今回の行動も全てが悪いとは思っていない。医者としては間違ってるのかもしれないけどな。だけど、湖城、自分の気持ちはちゃんとわかった上で、接しなきゃダメだとは思う」
「それって……どういう……こと?」
「湖城、何でそこまで郁島くんに関わっているんだ?今までも距離が近いという話は聞いたけど、休憩時間まで患者のところに行くのは初めてなんだろ?それはあくまで看護師としてなのか、それとも個人的に違う気持ちがあるのか」
吉志からそのように言われて、もちろん看護師としてと言いたいけど、言葉が出てこない。本当にそれだけ?でもそれ以外の違う気持ちって、一体なんなんだ。
2回目のため息が出かけたところで、名前を呼ばれ顔を上げると吉志が立っていた。
「へこんでるなぁ。あとどれくらいで終わる?よかったらこれから飯でもどうだ?」
「え、あ、はい……もう終わります」
駅前はイルミネーションで華やいでいて、もうすぐ来るクリスマスまでを大いに盛り上げていた。指定された居酒屋の暖簾をくぐると、然程大きくない店内で、先に来ていた吉志をすぐに見つけることができた。
「お待たせして、すいません」そう声をかけて、向かい側の椅子に腰をおろす。
「先に始めちゃってたし構わないよ。お疲れさま」
テーブルには、お通しらしい小鉢と枝豆があり、ビールを注文するとビールと一緒にすでに吉志が注文していた熱々の卵焼きが運ばれてきた。
「それじゃ、ま、お疲れ様」
吉志のあげたグラスに軽く合わせて、一気に3分の1ほどあおる。
「湖城と飲みに来るの、ホント久しぶりだな。今まで不思議なくらい担当がかぶることがなかったもんな」
「そうですね。今回一緒に担当できて、勉強になりました。それに……颯くんのこと、ありがとうございました」
「ん?改まってお礼言われるようなことしたっけ?」
颯の担当替えにストップをかけたのが吉志だと、今日呼び出されたときに聞いていた。決して湖城のためではないとわかってはいるが、颯との繋がりを切られなかったことに、不思議なくらい安堵していた。
「担当替えのこと……」
「あー。でも、湖城のためじゃないよ。やっと状態が安定してきて気持ちも上向いたのに、ここで担当変わったら、彼また落ちちゃうでしょ。出来るだけ、環境の変化は起こしたくないしね」
「はい……わかってます」
最近の颯のコロコロ変わる表情を思い出して、湖城の行動によってまた、あの空虚な状態の颯にしてしまう可能性があることに、改めて背筋が冷える。唇を噛み締めながら、テーブルの木目をじっと睨み、顔が上げられない。
「しっかし、彼のこと心配なのはわかるけど、お前ももう少し上手くやれよ。あんなにあからさまに絡んでたら、目立ちまくるだろうが。それでなくても患者さんは、限られた空間にいるんだから、自分だけを特別に見てほしいとか、かまってほしいと思ってるんだからさ」
「えっ……」
颯のメンタルの危機を招いた湖城に、怒っているのかと思いきや意外な方向に話が向いて、テーブルから視線を上げる。
「俺の軽率な行動に怒ってるんじゃないんですか?」
「まあ、軽率だとは思うけど別に起こってるわけじゃないよ。実際、郁島くんが元気になったことは湖城の存在がすごく大きいと思うし」
「俺……颯くんの力になってあげれたんですかね……」
「いつになく弱気だな。お前の明るさと行動力で、郁島くんを引っ張り上げたと思ってるよ。だから、今回の行動も全てが悪いとは思っていない。医者としては間違ってるのかもしれないけどな。だけど、湖城、自分の気持ちはちゃんとわかった上で、接しなきゃダメだとは思う」
「それって……どういう……こと?」
「湖城、何でそこまで郁島くんに関わっているんだ?今までも距離が近いという話は聞いたけど、休憩時間まで患者のところに行くのは初めてなんだろ?それはあくまで看護師としてなのか、それとも個人的に違う気持ちがあるのか」
吉志からそのように言われて、もちろん看護師としてと言いたいけど、言葉が出てこない。本当にそれだけ?でもそれ以外の違う気持ちって、一体なんなんだ。
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