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3巻

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 プロローグ


 岡崎椿おかざきつばき改めユーリ・ガートリン達が暮らすクリムゾン王国。
 その北西に、とある村があった。
 村はまずしくも活気かっきがあり、そこで暮らす村人達も質素しっそつつましい生活に不満をらすことなく、皆が快活かいかつに、みを浮かべて日々を送っていた。


 つい、さっきまでは――。


 何の予兆よちょうもなく村に降り立ったのは、コウモリの羽をやした異形いぎょうの『何か』。
 そしてその異形の『何か』が現れて数瞬すうしゅんの間もなく、村は終焉しゅうえんむかえた。
 今、村があった場所に広がっているのは黒こげた荒野こうやだ。さらにその荒野の真ん中で、『何か』と向かい合うように数人の人間が拘束こうそくされていた。
 死にそこなった、あるいは逃げ遅れた村人達。彼らは悲鳴を上げながら、必死に命乞いのちごいをしている。
 しかし、その『何か』は一切いっさい聞く耳を持たなかった。

「フヒ……人間で魔物を作る実験を始めますか」


 異形の『何か』は拘束した村人の中から、体格のいい男性の頭をつまみ上げる。

「ひぃ……たっ、助けてくれ!」
下等かとうな猿の分際ぶんざいで命乞いとは……。私の実験被験者ひけんしゃの第一号になれたことを幸福に思いなさい」

『何か』は、ふところから黒紫の結晶けっしょうを取り出すとニヤリと笑みを浮かべる。黒紫の結晶は、魔物の体内にある魔石と似ているがはるかに禍々まがまがしく輝いていた。
 そして、その結晶を男性の口の中へと無理矢理み込ませた。
 すると、その男性からうめき声が上がる。

「おご……あが……ああああああ」

 次第に、男性の心臓あたりの皮膚が黒く変色していく。
 更にその肉体がきしみながら変異へんいを始め、人とは思えない形状けいじょうゆがみ始めた……。
 だが、男性から甲高かんだかい悲鳴のような声が上がった瞬間、形状の変異は停止する。そして男性はこらえきれず結晶を吐き出した。

「おや? 残念ながら失敗ですか。まぁ、被験者はいっぱい残っているのでいいでしょう」

 結晶を吐き出した男性は、すで息絶いきたえていた。
 その後も『何か』は、何人もの村人に結晶を呑み込ませて実験を繰り返した。だがいずれも失敗に終わり、物言わぬ死体が次々とみ上げられていく。

「フヒ……困りましたね。私の作った結晶が強力すぎて、弱すぎる人間には耐えられないようですね……」

『何か』は実験をあきらめたのか、コウモリのような羽を広げる。
 そして空へと飛び上がった瞬間、妙な気配を感じ取り、前方にある森を見て目を細めた。

「おや? あのあたりに、私の下僕げぼくの気配がありますね。フヒ……これは、拾いものですね。ちょっと、行ってみますか」



『何か』が降り立った先、目の前には鳥居とりいに四方を囲まれた遺跡いせきがあった。

「フヒ……こんなところに下僕げぼく封印ふういんされているとは」

 遺跡に近寄るべく鳥居をくぐろうとすると、身体からだが押し戻されてはじかれる。

「フヒ……なかなかの封印式と魔力が込められていますね……これを下等な猿どもが? やはり、私の力が完全に回復するまでは慎重しんちょうことを運んだ方が良さそうですね。……ということは、手駒てごまを増やすことを優先するべきでしょう」

 そうつぶやいた異形の『何か』は、先ほど村人達に呑み込ませていた黒紫の結晶を取り出すと、地面に叩きつけくだき割った。
 すると、周囲の木々を吹き飛ばすほどの黒い閃光せんこうが輝きだす。
 そこで『何か』は、手を広げて魔法をとなえた。

「【ブラック ザ レイン】」

 魔法が唱えられると、ビー玉くらいの黒い球体がいくつも周囲に浮かび上がる。

「フヒフヒ、力ずくというのは芸がありませんが、仕方ないでしょう」

 浮かび上がる無数の黒い球体は、周囲の草木をれるはしかららしていく。
 やがてそのまま鳥居と球体が接触した。刹那せつな、二つのエネルギーがぶつかり合う衝撃が発生し、しばらくした後、鳥居がけるようにくずれていった。

「フヒ……ようやくですね」

 鳥居が崩れ落ちると、封印が解けたのか遺跡が轟音ごうおんとともに砕ける。
 すると、砕けた遺跡の中から目を布でおおった男が出てきた。
 男は、陶器とうきのように白い肌に黒い髪。そして黒装束くろしょうぞくのような服を着ていた。身長は二メートルくらいで細身。目元は布でかくれていて見えないが知的な印象を持つ顔立ちである。
 その男は『何か』に対しひざまずいた。

「我が主人……カルゲロ様」
「フヒフヒ、なつかしい。そう呼ばれるのはいつぶりでしょうね。確か貴方あなたはナンバー5……ムーザでしたね。魔王様のため、働いてもらいましょう」
「はい。ご命令があればなんなりと」
「フヒフヒ……そうですね。手駒を増やすために、多くの魔力を宿やどした人間のサンプルが欲しいですね」
「人間など……下等な猿を?」
屈辱的くつじょくてきですがね。貴方はそんな下等な猿に封印されていたのでしょう?」
「……っ!」
「フヒフヒ、下等な猿の数は無駄むだに多くなっていますからね。対して魔王様のために動けるのは我々しかいないんですよ。我々に失敗は許されないのはわかりますね」
「……わかりました。魔王様のために」

 ムーザはうなずくと、闇に溶けるようにいなくなった。

「これで、被験者の確保は問題ないでしょう」

 カルゲロは、そう言い残してその場から飛び去った。


 それからわずかに時間がった後……。
 カルゲロによって壊滅かいめつさせられた村の真ん中で異変が起こる。
 村で行われていた、人間で魔物を作る実験――黒紫の結晶を呑み込まされて失敗に終わった元村人の死体の一つが、ピクリと動いたのだった――。



 第一話 騎士学校の日常


 俺が岡崎椿改めユーリ・ガートリンとして領主の息子に転生してから十二年が経った。
 クリムゾン王国ガートリン領の領主、ガートリン男爵家だんしゃくけの三男である俺は、相変あいかわらず怠惰たいだなスタイルを変えることなくダラダラと過ごしている。
 今日、俺はちょっと用事があって、魔法の師匠ししょうであるコラソン・シュルツの屋敷へと来ていた。

「こんにちは、コラソン師匠」

 師匠は、いつも通り書斎しょさいに引きこもって本を読んでいた。
 俺の声が届くと、本から視線を上げてこちらを見る。

「やあやあ。どうしたんだい? 元気だね」
「やあやあじゃないですよ……これのおかげで大変だったんですから」

 そう言って『足枷あしかせの指輪』を見せたら、師匠はとぼけたようにほおいた。

「おや? もうかい? 早いね。アレ? そんな時期かい。長い年月生きているとどうにも時間の感覚が狂ってきてね。伝え忘れていたよ。あはは」

 今回、魔法の訓練でもないのにわざわざここに来たのは、ネルトリンの街にあるダニエルという塔での出来事を問いめるためである。
 あの日、俺とニールがダニエルの塔を訪れた際、何の偶然ぐうぜんか『足枷の指輪』によって、「ナンバーズ」とかいう魔物ぐんの一体である「ナンバー12、焼鬼しょうきギラティス」の封印が解かれてしまったのだ。ちなみに、ニールというのは、ガートリン領のとなりにあるロンアームス伯爵領はくしゃくりょう子息しそくで、俺と同じ転生者である。
 それはともかく、『足枷の指輪』は本来、俺のチートステータスを制御せいぎょするためにめなさいと師匠に渡されたものだ。にもかかわらず、何故なぜかあの時、封印の祭壇さいだんの前で赤く光ったのだ。
 ギラティスは恐ろしい魔物だった。だが、これまた何故か伝説に語られる三人の英雄エドワード・ホワイト、シェリー・リン、ガス・グリソムがどこからともなく現れ、ギラティスを倒してくれたのである。あの時、三人の英雄が現れなかったらと思うと寒気さむけが走る。

「この指輪のことは教えておいてもらいたかったですね。死ぬかと思いましたよ」
「ふふ、おどろいたかい? その指輪は、単に君の力を閉じ込めてステータスを調整するためのものではないんだよ。それは、君の力をいろいろ有効活用するための魔導具だ。その一つとして、英雄が各地に残す封印を解くためのかぎの役割を果たすというわけさ。……っていう趣旨しゅしのことを言っておかないといけなかったね。忘れていたよ」
「はぁ……三人の英雄が出てこなかったら本当に死んでいましたよ」
「ハハ、そう言えば、確か父さんがそんな事件が起こると言っていたかもしれない……。ってそれを聞いたのは四十歳くらいの子供の時だから仕方ないと言えば仕方ないんだ。どうせ、その指輪に封印されていた三人の英雄の記憶が現れて大丈夫だったでしょ? まぁ……次は、助けてくれないから慎重にやらなくちゃね。ハハ」

 師匠は三百年以上生きると言われる長寿ちょうじゅのエルフである。そのため、俺とも時間の感覚があっていない。
 しかし、師匠は笑って話しているが、今後どんなことが起きるのか不安で仕方ない。とりあえず、やるべきことを聞こうと質問を投げかける。

「あの強い魔物……ナンバーズって呼ばれていましたっけ? そのナンバーズの生き残りを倒したり、武器を探したりしないといけないみたいなんですが。結局のところどうすればいいのですか?」
「その説明を君にするのは、僕ではなくて他の人になるんじゃないかな? 君は、あまりヒントを出すとサボるでしょ? 頑張がんばって力を付けていかないとね。その内に接触してくるよ、僕の父さん……この世界の崩壊ほうかいを預言したイルーカ・シュルツが、君ら『希望の子』に残した案内者の末裔まつえいがね」
「はぁ……なるほど、その案内者の課題を解いていくって感じですか? ちなみに今はどのくらいの進捗しんちょく状況ですか?」
「ふふ……ステップ1は通過したという感じだね」

 コラソン師匠がそう言って微笑む。

「マジですか」

 果たしてあと何ステップあるのだろうか? 聞いてみたいが聞くのがこわい。

「ふふ……では、案内者の一人である僕から、君に課題を出そう」
「げ……」

 師匠は読んでいた本を閉じて机の上に置くと、真剣な面持おももちで俺をぐ見つめる。
 見たこともない師匠の表情に、俺は思わず息を呑んだ。

「君の魔法の改良だね……。僕は君が犠牲ぎせいになって世界の崩壊が食い止められたとしても、うれしくないよ?」

 あの時、焼鬼ギラティスに対して俺はオリジナル魔法を使おうとしたんだが、すんでのところで三人の英雄に止められた。師匠が言っているのはそのことだろうと察してだまる。

「確かに、強い力には代償だいしょうがいるんだけどね。その代償にも、ある程度の制御をかけておかないと。僕は君を、死んだ英雄にはしたくない」
「あの魔法の改良については検討しますよ。見透みすかされている感がハンパないですね」
「はは、そうかな。けどね……運命なんてものは他人から与えられるものではなく、みずから作り出していくものだからね。父さんの預言をえることを、僕は望んでいるよ」
「……預言を超える……。言うほど簡単ではないですね」
「ふふ、今のところは父さんの預言に乗っかっているのもいいのかもしれないけどね。さてと、今日は天気がいいし、たっぷりと魔法の訓練に精を出そうじゃないか」
「うげ……たっぷり……。師匠、今日は訓練の日じゃないはず……あ、ちょっと用事を思い出したので帰らせて」

 逃げようとこころみるが、師匠の無魔法【ハンド】につかまってしまう。
 結局それから日が暮れるまで、まさにたっぷり魔法の訓練をすることになるのだった。


 ◆


 数日後の早朝、俺の自室へと専属メイドであるローラがやってきた。
 ローラはベッドで寝たふりをしている俺の身体をさぶり、起こそうとしてくる。
 いつもより一時間ほど早いお出ましである。おそらく今日が、騎士学校の登校初日だからだろう。
 だがはっきり言って騎士学校とか本当にだるい。
 面倒きわまりないので、俺は登校拒否きょひをするために寝たふりを決め込んでいた。

「ユーリ様。起きてください。今日から騎士学校が始まるのですよ」
「……」
「あのユーリ様? 起きてらっしゃいますよね」

 ぐ、気付かれている。くそ……何でだぁ。
 騎士学校の入学試験で派手にやらかして、しかも軍規のテストなんて鉛筆を転がしただけだというのに、何がどうなったのか先日合格通知が届いてしまった。

「すすぅ……すぅ……すぴ……すぴ」
「あのユーリ様」
「ぴ……すぴ」
「ユーリ様」
「んぐぅ………うぅ……ローラ……学校行きたくない。ベッドでゴロゴロしてたいんだぁ」

 俺は布団にくるまり、最終防御態勢【絶対防御】を発動する。

「ユーリ様、本当に遅れてしまいますよ?」

 ローラは絶対防御のシールド部分布団に触れながらゆさゆさ揺らしてくる。
 はっはっは、我が防御態勢はその程度では崩せないよ。

「ユーリ様? 起きてください」
「うぅ面倒だしぃ。最初の日くらい良いではないか。良いではないかぁ」
「もう、ユーリ様。駄目だめに決まっているでしょう。仕方ありませんね」

 め息を一つ吐いたローラは、絶対防御のシールド部分布団をガシっとつかんで勢いよく持ち上げた。

「ぐは、シールドががれ……きっ、きたないぞ」
「ユーリ様。早く着替えましょうね」
「はっ……はい」

 張り付けたようなローラの笑顔の圧が半端はんぱない。年々凄味すごみが増していると感じるのは気のせいではないのだろう。


 嫌々起きた俺は、ローラに部屋の外に出てもらい騎士学校の制服に着替え始めた……が、とあることを思い出してその手が止まる。

「あ。やばい。そう言えば、騎士学校に行く準備なんもしていないや……。でもまあ、何とでもなるか」

 手元にある教本を持っていくだけだが、今日それらを済ませてしまえば、どうせ一年中教室に置きっ放しになるだろう。
 着替え終わった俺は、そうした教本などをかたぱしからかばんに詰め込んでいった。
 騎士学校へ行く準備を整えてだらだらしていると、扉をノックする音が聞こえた。
 入ってきたのは、もう一人の専属メイドであるリムだった。

「ユーリ、見て見て! 魔法学園の制服だよ。可愛かわいいでしょ?」

 リムは俺の目の前までやってきて、嬉しそうな表情でクルリと一回転する。
 あぁ……そう言えば、今日は魔法学園の登校日でもあったか。魔法の才能のあるリムは、ガートリン領でみっちり勉強した後、無事に魔法学園への入学が決まったのである。

「そうだな。まぁ、一緒に買いに行ったから、一度見てるんだけどな?」

 とはいえお世辞せじ抜きによく似合っている。
 魔法学園の制服はブレザータイプでリボンが青、ジャケットが白、スカートが黒とシックな色使いである。
 おかげで今までどこか幼さのあったリムが、グッと大人おとなっぽく見えた。
 あおみ切った瞳も綺麗きれいだし、ぽってりした唇も何とも言えず可愛らしい。
 最近、身体の凹凸おうとつもそれなりに付いてきたので、友達である俺ですらドキッとするほどの美少女に成長していた。

「ふふ、これでようやく、魔法を本格的に習えるよ。楽しみだなぁ」
「リムの魔法の才能はすごいからね。すぐに習うことがなくなったりして」

 リムの才能は本当にすごい。
 魔力量こそ俺にはおよばないものの、適性のある属性の魔法はすべて中級以上に達している。
『アズライトの瞳』によって魔力の流れが見えているおかげで、魔法の習得速度がずば抜けて高いのだ。

「えぇ!? それは困るよ!? ユーリの隣に立てるほどの魔法使いになるんだから」
「ふは、俺の隣にそれほどの価値があるかわからんが。俺の隣にいるとなると、相当面倒だと思うぞ?」

 そう、面倒しかない。あの伝説の三人の英雄に「たのむ」と言われるくらいだからな。

「いいの。ずっと前から決めていたことだからね」

 決意を固めたリムの表情は、俺にはとてもまぶしく。そしてリムの思いはとても嬉しい。ただ、照れるだろ。自分の頬が緩んでいるのを隠すためにリムの頭を強く撫でた。

「はは、そうか、ありがとよ」
「わっわっわ。ユーリ、ひどいよ。せっかくセットしたのに!」
「悪い。悪い。もうやらないよ」
「いや。もっと優しくしてくれるんならいいんだけど」

 リムがうつむいたままぼそぼそと呟く。心なしか頬が赤い。

「ん? 何か言った?」
「何でもない!」
「どうしたんだよ? 急に怒り出して」
「うう……ユーリのバカ」

 不貞腐ふてくされたようにリムは言い捨て、頬をふくらませてそっぽを向く。
 アレ? 何か怒らせること言っただろうか?
 ほんと、女友達というのはあつかいがわからない時があるな。
 ご機嫌うかがいもね、俺はそこで話題を変えてみた。

「そういえば、ローブは着けないのか?」

 題話を振ると、くるりとこちらを向いてリムが応える。

「鞄の中に入っているよ」
「着けないと意味ないじゃん」
「あれ、可愛くないんだよね……」
「かわ……魔法から身を守る保護魔法とかが付いてるんでしょ?」
「ん? そんなの無かったよ?」
「じゃ、何のためにあるんだ? 貸してみなよ」
「うん」

 ローブを手に観察してみるが、何も変わったところはない。
 スキルで【鑑定かんてい】してみるか。


 ローブ
 防御力 10  魔法耐性力 0  耐久性 50
 付与ふよ ―


「うむ、本当に何の意味もないな。これならよろい付けてた方がましだ」
「でしょ?」
「うむ……じゃあ、俺がおまじないをかけてやろう……【雨にも負けず、風にも負けず、日の暑さにも負けず、雪にも負けず……丈夫であれ】」

 手にしたローブに魔力を込め、適当におまじないを唱える。

「ふぁ……何? その魔法、教えて、教えて」
「ん? ただのおまじない。一応、魔力は込めたが、効くかはわからない。ちちんぷいぷいってね」

 おっと、念のため【鑑定】しておくか。


 ローブ改
 防御力 100  魔法耐性力 110  耐久性 190
 付与 耐水性・耐風性・耐熱性・耐火性・耐洗脳せんのう


 ん? なんか知らんがいろいろ数値が上昇して、付与も付いたな。
 元のローブはただの服と変わらなかったし、この世界の魔法使いのローブがどんなもんなのかはわからんが、こんな感じだろうか?
 俺がローブを手渡すと、リムは嬉しそうに目を輝かせる。

「えぇ!? 何したの、今!?」
「だからおまじないだよ。さてと、そろそろ行くかな。ローラに怒られてしまう」

 そのうすっぺらいローブが、レジェンド級の魔物「リトルード」の羽を使用したローブとほぼ同等の魔法耐性力と防御力を保有してしまったことを俺が知るのは、まだだいぶ先のことである。


 ◆


 騎士学校は二学年制で、一学年五クラスに分かれている。
 ちなみに、AからEまでクラスがある中、俺は1‐Eクラスに割り振られた。
 AからCが貴族側のクラスで、DとEは一般人側のクラスとなっている。俺も一応貴族なんだけど、正妻せいさいさんのによって一般わくで入学することになったのだ。
 去年まではAからDが貴族側のクラスで、一般クラスはEクラスだけだったというから……先日試験を視察に来ていた『クリムゾンの神剣』ことノア・サーバント様が、紅蓮ぐれん騎士団団長の名のもとに相当手を回したのだと予想される。
 1‐Eの教室に入ると、試験の時に知り合ったロバートが椅子いすに座っていた。
 既に顔見知りだといっても、試験の休憩時間に少し話しただけだが、気のいい奴って印象だったな。容姿ようしは黒色の肌に、金髪碧眼きんぱつへきがん。彼も無事合格したようで何よりだ。

「ふぁ……おはよう」

 俺が欠伸あくびをしながら挨拶あいさつすると、ロバートはにこやかに返してくれた。

「おはようさん」

 どうやら座る席は指定されていないらしい。
 とりあえず、一番うしろの窓際まどぎわの空席に腰掛ける。するとロバートが自分の座っていた席を離れて俺の前の席に座った。

「ユーリ、何でそんな後ろに座るん?」
「んあ? いいんじゃん。黒板見えるし」
「皆、真剣に前の方に陣取じんどって、勉強するぞ! ちゅう感じやで?」

 ロバートの視線の先には、教室の最前列で教科書を読み込んでいる集団がいた。

「そうだな。俺はひまな授業中に、みんなが真剣に勉強をしているところをながめているのが好きなんだ」
「ぶは……何やそれ。試験時から思っとったが、相当なひねくれ者やな? 自分」

 ロバートの問いかけに首をかしげながら、「そうか? まぁ……そんな頑張っても身体こわすだけだよ。ふぁふぁ……ねむいな」と返し、再び欠伸をして背もたれに身体をあずけた。
 そのままロバートと他愛ない会話をしていると、緊張きんちょうした面持おももちのヘレンが教室に入ってきた。彼女も合格したようだ。
 ヘレンもロバートと同様、試験の時に知り合った。家がかなりの貧乏らしく試験時はボロボロの服を来ていたが、今日は新品の騎士学校の制服に身を包んでいるため、見違えて見える。
 ただ、騎士学校の制服に女性用はなく、シャツにブレザー、ズボンを身につけているから男に見えなくもない。色白の肌に碧眼へきがんで、茶色い髪を短く切りそろえていた。

「あ……おはよう」

 俺とロバートを見つけたヘレンは、安心したように笑みを浮かべる。

「おはよう」
「おはようさん。ヘレンも合格したんやなぁ。おめでとさん」
「うん。ちょっと、いろいろあったけど。何とか」

 そう答えたヘレンは、少しれくさそうに俺の隣の席に座る。


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