ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第5章 本当の気持ち

第10話

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「……もしかして、……左之さんの事?」

「……っ! いいえそんな滅相もないっ」



真っ赤になって否定する彼女は、ただの恋する女の子だった。



「左之さんはねー、いつも可笑しくって、ふざけてばっかりだけど、とっても強くて。それでいて時々、的を射たように欲しい言葉をくれるステキな人だよ」

「そうですか……」



ふふっと笑ってその口元を隠すおまさちゃんは、確か、1863年では15歳かそこらだったと思う。

平成の高校1年生と何も変わらないその横顔に、何だかほっとする。

私はきっと、歴史に囚われすぎているのだ。

自分から、雁字搦めにしているのだ。



“1865年、新選組の原田左之助は菅原まさと結婚をする”



これが私を縛っている歴史。

その1行の中には、きっと、こんな風な出逢いがあって、二人の間で愛がはぐくまれる時間があって、そうやってその1行になるというのに。


所詮、歴史は、「出来事」。

出来事をいくら並べてみたって、それは真実ではない。

真実なんてものは、きっと出来事の解釈でしかなくて。つまり、未来に残されているものなんて、誰かの主観で書かれた、誰かの真実でしかない。

目に見える歴史なんて、氷山の一角でしかないのだと、頬を染めて笑うおまさちゃんに、気づかされた。



「おまさちゃんって、呼んでもいい?」

「はい! 送っていただいて、ありがとうございました」

「いいえ、こちらこそ」



大事な事に、気づかせてくれて、本当にありがとう。それを彼女に、伝えることは出来ないけれど。



「左之さん、おまさちゃんの事、かっこいいって言っていたよ」



私の言葉に嬉しそうに笑う彼女は、そっと手を振る。



――原田まさ。旧姓、菅原。

新選組隊士と正式に結婚をして、その一生を賭けると決めたその女性は、こんなにも凛として強い、ステキな女の子だった。


自分の掌に目を落とす。ぎゅっと握り締める。

そして、私は、将来の左之さんのお嫁さんに手を振り返した。





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