ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

文字の大きさ
上 下
127 / 139
第5章 本当の気持ち

第9話

しおりを挟む




何だか若干気まずくなって塀の影から姿を現わせば、おまさちゃんは、私に向かっても丁寧にお辞儀をしてくれた。

……私、何もしてないっていうのに。



「璃桜、この人、送っていって」



そう言っておまさちゃんを指さす。左之さん、やっぱりおかしい。いつもなら何をしてでも自分が送るって言いだすのに。

その言葉に、おまさちゃんはぶんぶんと首を振って遠慮する。



「いや……! 大丈夫です、すぐそこなので」

「いや、まだあの5人組がどっかにいたらいけねぇしよ。な、璃桜?」

「……いいですよ、行きましょ、菅原さん」

「あれ、どうして私の名前……?」



くりくりとした瞳を見開いて、驚いたようにしている彼女に、罪悪感に駆られながらも正直に事の顛末を話した。



「非常に言い辛いんですけど、ずっと物陰から見てました……」



ごめんなさい、と謝れば、途端にぽっと頬を染めるおまさちゃん。



「恥ずかしい……、あんなこと言って、何もできてないんです私」

「いやいや、十分、格好良かったですよ。私なんか、スカッとしちゃいました」

ね、左之さん? と話を振れば、左之さんはハッとしたように頷く。



「大丈夫ですか?」



おまさちゃんに聞こえないように、こそりと呟けば、コクコクと無言で肯定する。無言っていうのがもういつもの左之さんじゃない。



「……行きましょうか」



埒のあかない左之さんは後で問い詰めるとして、彼女を送り届けなければいけない。

そう思い、帰り道を促した刹那、じっと俯いていたおまさちゃんは、パッと顔を上げて左之さんに向かって言葉を紡いだ。



「あ、あの! お名前、お聞きしてもいいですか?」



その頬は、淡い桃色。



「俺? 原田、左之助」



答える左之さんの頬も、一刷毛朱に染まっている。

何だこの空気は。完全に私邪魔者じゃん。




「原田様……、この度は本当にありがとうございました」

「今度は、気をつけろよー」



深々と頭を下げたおまさちゃんは、ぱたぱたと足を進め始めた。遅れないようにと私も隣に並ぶ。追い付いた私を少し見上げて、おまさちゃんはにっこりと笑う。



「貴方のお名前、伺ってもいいですか?」

「沖田璃桜です」

「璃桜さん……素敵なお名前ですね。壬生浪士組の隊士なんですか?」

「一応ね。下っ端だけど」

「そうなんですね」



ははっと笑いながらそう答えれば、ふーむ、と何かを考えるように顎に手を添えるおまさちゃん。



「如何したの?」

「あの、……原田さんって、……どんな人ですか」



可愛らしく頬を染めてそんな事を尋ねてくるおまさちゃんに、ピコンと脳裏のセンサーが反応する。

これはもしかしなくても、おまさちゃんってあの、“まさ”?

私の肩ほどの高さにあるその横顔をじっと眺めれば、慌てたように「何でもないです」と目を逸らす。





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

新撰組のものがたり

琉莉派
歴史・時代
近藤・土方ら試衛館一門は、もともと尊王攘夷の志を胸に京へ上った。 ところが京の政治状況に巻き込まれ、翻弄され、いつしか尊王攘夷派から敵対視される立場に追いやられる。 近藤は弱気に陥り、何度も「新撰組をやめたい」とお上に申し出るが、聞き入れてもらえない――。 町田市小野路町の小島邸に残る近藤勇が出した手紙の数々には、一般に鬼の局長として知られる近藤の姿とは真逆の、弱々しい一面が克明にあらわれている。 近藤はずっと、新撰組を解散して多摩に帰りたいと思っていたのだ。 最新の歴史研究で明らかになった新撰組の実相を、真正面から描きます。 主人公は土方歳三。 彼の恋と戦いの日々がメインとなります。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...