ただ儚く君を想う 弐

桜樹璃音

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第2章 大坂出張

第1話

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そんなこんなで、あの日から2日。

近藤さんが行くメンバーを書簡で知らせた途端、直ぐに来てもらいたいとの要望で、大坂に出かけることになった。

平成ならば、ちょっと電車に乗れば付く距離も、この時代だとかなりの距離になる。

荷物だって、自分で持たないといけない。

いろいろと周りの人に訊きながら、どうにか準備を終えて、出発少し前。

かなり心配顔のそうちゃんに、部屋に来て、と呼ばれた。




「そうちゃん? どうしたの?」



からり、と襖を開けば、何故だか畳に正座したそうちゃんがいた。



「何、かしこまって」

「璃桜、やっぱり、……」



上目づかいで此方を見上げるそうちゃんの様子に、言わなくても言いたいことが伝わってきた。



「行くよ。だって、もう仕方ないじゃない。行かないわけにはいかないでしょ」

「……だよねー。はー」



心配をかけているのは百も承知。



「大丈夫。私そうちゃんと同じくらいの腕だよ? ほら、安心してよ」

「……そんなんで安心できたら、此処に呼んでない」




そう言って、溜息をつきながら立ち上がり、私の頬に指を滑らせる。

その感覚に、何故か、どきりと胸が反応した。

そうちゃんなのに。

その同じ色の瞳が、何処か知らない男の人のようで。



「何も無茶しないって、約束する?」

「……するよ」



けれど、眉を顰めたその表情は、前からずっと同じで。



「絶対? 俺の真似とか、しなくていいから。普通に風邪ひいたって言っといたから。だから、璃桜は普通にしてていいから」

「うん、」

「あ、あと、ほら、お風呂は絶対気を付けてよ。必ず近藤先生に見張ってもらってよ。わかった?」



その焦り具合も、ずっと昔から変わらないものだったから、さっきの可笑しな緊張なんてすぐに忘れてしまった。

私に返事もさせないほどのその剣幕に、笑いが込み上げる。



「ふ、ふふ」

「何笑ってんの、こっちは真剣なんだよ、璃桜」

「ごめ、……くく」

「もう全く。そう言うとこ、子どものときのまんまなんだから」



仕方ないんだから、そう呟いて、そうちゃんは風呂敷に包まれたものを取り出す。



「……これ…」



受け取ってみれば、布越しでも何かわかる。

その重量が、その形が、私にさっきとは違った緊張をあたえて。



「……絶対に、使わないでほしい。けど、俺の分身だから」



そう言って、ふわり、風呂敷をめくる。

その下から出てきたのは。



「………大和守安定(やまとのかみやすさだ)…」




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