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第1章 心と気持ち
第13話
しおりを挟む「だから、はなれ…」
「ちょ、手ぬぐい…」
「あ? ほっとけよ阿呆」
一気に熱くなる頬に逆らうように、何かを言いかける歳三に抗議してみたけれど、完全に無視されて。
「……だから……?」
そう尋ね返したけれど。
「……何でもねぇよ……。ったく……この馬鹿」
「……全然、文章になって、ませんけど……?」
やばい。
全身が心臓になったみたい。
どくどくどくと鼓動して。
言葉さえも口にするのがやっと。
「うっせぇ」
黙ってろ馬鹿、その暴言とは反対に、ぎゅっと腕に力を込める歳三。
そしてそのまま、私の手のひらを己の頬に当てた。
「……な、に」
「……手ぬぐいよりこっちのが冷てぇよ。良いからこのままでいろ」
どくんどくん。
お互いの鼓動が、シンクロする。
同じ、速さで脈を打つ。
………同じ?
歳三も、緊張してるの?
壬生浪士組きっての冷酷、鬼の副長、女の敵の土方歳三の癖に。
鼓動の速さが、私と同じなのは――――如何して?
「こら」
「ふにゅ!?」
「余計なこと考えてんじゃねぇぞ」
「考えてなんか、」
いません……その言葉は真っ直ぐに見つめられる、その距離の近さに、とても小さくなってしまった。
その透き通るような漆黒に、まるですべてを見透かされた気分になる。
「………」
「………頼むから」
「え?」
沈黙の中、突然の声。
「頼むから、俺の寿命を縮ませんじゃねぇぞ」
止めてよ。
抱きしめたまま、そんな事、言わないで。
まるで、そんなの。
私のことを、1人の女の子として大切にしているみたいじゃない。
「大坂でも、無茶は絶対すんな。お前のことを、身を挺して守ってくれるやつらはいねぇぞ」
………期待、してしまうの。
そんな期待、してはいけないのに。
するだけ、無駄なのに。
だって、貴方は―――土方歳三は、自分の“誠”のために、生涯大事な人は作らない。
そう、大きく歴史が変わらない限り。
だから、私は貴方の小姓としていられるだけで。
貴方の夢を一緒に応援することができるだけで、もう十分満足だって。
そう、思ったばかりなのに。
「約束、しろ」
そんな、泣きそうな表情で、見ないで。
「……うん……」
そんな顔されたら、もう。
期待を振り切ることができなくなってしまうから。
そっとその煙草の香りを吸い込む。
そのまま、融けてしまいたくなった。
この時間が、愛おしくて。
けれど、時は無情にも、刻々と進んでゆく。
文久三年、6月。
下関で尊王攘夷派の長州藩が、外国船を砲撃したことに対しての報復攻撃を受けていた。
尊王攘夷。公武合体。倒幕、佐幕。
沢山の言葉が、飛び交う。
そして、諸外国の脅威。
それを目の前にして、たくさんの人々が、何かを目指して、動こうとしていた。
その時代の大きな波が、壬生浪士組を捕まえて自身の流れに巻き込んでゆく。
まるで、生き物のように。
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